中国のネット通販が、これまでの「安さ」を武器に急成長してきた裏側で、業界全体が大きく揺らぎ始めています。偽物と疑われる低品質品の横行、事業者に重くのしかかる税負担。表向きの活気とは裏腹に、多くのEC事業者が静かに追い詰められています。いま中国のECで何が起きているのでしょうか。

 低価格の偽「純銀」商品や、一目で偽物と分かる商品が横行していることから、プラットフォーム運営の不備が指摘されています。最近、中国の各種ECサイトには、低価格の「純銀」と称する碗や箸が大量に出回っています。こうした商品の氾濫に、ECプラットフォーム側の責任が大きく、この話題は検索ランキングの上位に浮上しました。

 ネット上で言われる「一目で分かる偽物」とは、商品の画像や説明、価格、販売者情報を少し見ただけで、消費者がすぐに偽物や誇大広告だと判断できる商品のことです。

 中国メディア「南方都市報」が11月10日に報じたところによると、消費者権益保護の専門家である陳音江(ちん いんこう)氏は、11月8日に開かれた電子商取引法治フォーラムで、今年の初め、複数のプラットフォームで合計24点の「純銀」と表示された銀の碗や銀の箸を購入したと明かしました。

 陳氏は次のように述べています。「これらの銀箸は1膳あたり約100円(5元)から約200円(10元)と非常に安く、碗も1個約600円(30元)ほどである。しかし、同じ時期の銀の原料価格は1グラムあたり約140円(7元)を超えていたので、純銀であるとは到底言えない。価格を見れば純銀ではないことは明らかで、典型的な一目で分かる偽物である」

 また、こうした「一目で分かる偽物」商品の種類と範囲も非常に広く、伝統的な大手ECだけでなく、新興のSNS系EC、ライブ配信販売、中古品取引プラットフォームにまで広がっています。商品カテゴリーも生活用品の銀碗や銀箸にとどまらず、偽ブランド品、化粧品、健康食品、電子機器など多岐にわたります。

 なぜ「一目で分かる偽物」が蔓延するのかについて、陳氏はプラットフォーム側の責任として三つを挙げています。第一に、アルゴリズムが低価格で売れ行きの良い商品を優先的に表示するため、低価格の偽物が露出しやすいこと。第二に、出店者の資格審査が形骸化しており、偽物が紛れ込みやすいこと。第三に、低価格商品は売れ行きが良く、手数料や広告収入でプラットフォームも利益を得られるため、積極的に取り締まる動機が弱まることです。

 陳氏は、消費者に向け「一目で分かる偽物」商品の特徴として、明らかに原価を下回る価格、常識に反する宣伝文句、トップページの目立つ位置に掲載されていることなどを挙げ、注意を促しました。

 この問題について、多くのネットユーザーは「こんなのネットに山ほどあるのに、どうして誰も管理しないの?」と疑問の声を上げています。

重税下におけるEC事業者の苦境

 一方で、中国EC業界には別の重大課題もあります。政府が税務監督を強化し、重い税負担の下で利益を確保することが極めて困難になっていることです。

 近年、監督当局によるデータ収集・報告・追徴の強化に伴い、ECプラットフォームや個別の出店者の税負担とコンプライアンスコストが大幅に上昇しました。その結果、多くの事業者が撤退や倒産を余儀なくされています。

 今年10月には「インターネットプラットフォーム企業の税務情報報告規定」が施行され、中国のEC事業者には続々とメッセージが届き、増値税(日本の消費税に相当)の納付が通知されました。また、一部のEC事業者は過去3年分まで遡って税務調査を受け、薄利のビジネスは到耐えきれずに次々と閉業に追い込まれています。

 河南省のEC事業者である王さんは、国家統計局のデータによると、国内ECの粗利率は10%、越境ECは15%であるのに対し、増値税は13%に達すると指摘します。王さんは「この条件で払えるEC事業者なんていない。一般の納税者は仕入れの領収書があれば控除できるが、EC事業者はそもそも仕入れ領収書がない場合が多く、粗利で税金すら払えない」と話しています。王さんは、日々不安と無力感、恐怖に押しつぶされそうだと語りました。

 浙江省の張さんは、月間売上高約1600万円(80万元)ですが、仕入伝票がないため毎月約200万円(10万元)の増値税を納める必要があり、税務署に呼び出されることもありました。張さんは「割に合わない」と嘆いています。

 報道では、増値税・所得税・広告費・ライブ配信者へのコミッションなどのコンプライアンスコストが積み重なり、「売れば売るほど赤字になる」として販売を停止する事業者が増えている指摘されています。義烏のEC財務コンサルタントの劉さんは「ダブル11で売上を伸ばしたいなら、利益率は最低18%が必要。13%の増値税と5%の所得税があるため、価格を上げなければ売れば売るほど損をする」と説明しました。

 また、プラットフォームのアルゴリズムやトラフィック配分メカニズムが依然として低価格・大量販売を優先していることも問題です。税負担とコンプライアンスコストが増える中、低価格戦略を続ければ知名度は上がるものの、税金に押しつぶされて利益が出なくなるという矛盾が生じています。

商品管理の不備と税務規制強化

 ここまで見てきた二つの問題を合わせると、中国のEC業界が抱える苦境は単一の問題ではなく、制度・プラットフォーム・事業者の三者が複雑に絡み合って形成されている構造的な問題であることが分かります。

 プラットフォーム上に低価格の偽物や、一目で偽物と分かる商品があふれると、消費者の信頼は急速に損なわれ、正規の事業者やプラットフォーム自体のブランド価値も大きく低下します。

 現在のプラットフォーム運営は、主にユーザーからの通報や購入後の苦情など事後対応に依存しています。しかし、偽造品が大量に出回り、低価格で客を引き寄せる仕組みが定着している状況では、問題を早期に止めることは困難です。長期的には、このような状況が業界全体の持続的な競争力を弱めていく可能性があります。

 一方で、税務の新ルールによって、ECプラットフォームと出店者はより厳しい申告・調査体制に組み込まれました。もともと利益率が高くないEC事業者にとって、この負担は非常に大きく、小規模事業者ほど生き残る余地が狭まりつつあります。

 つまり、「低価格の偽物が蔓延している」という現象と、「税務コンプライアンス負担が急増している」という一見別々の状況は、実際には同じ構造問題の表れです。一方では、プラットフォームの管理体制が未整備で、偽物が生き残る余地があり、もう一方では、規制強化によって合規コストが上昇し、中小事業者の活動範囲が縮小しているのです。

 長期的に見ると、中国のEC業界は「低価格による過当競争」と「高い規制コスト」という二重の圧力に挟まれ、成長速度は鈍化し、業界構造の変化が一段と進むとみられています。消費者にとっても、これまでのように安く購入できるEC環境は次第に失われていく可能性があります。

(翻訳・藍彧)