中国のスマート電気自動車(EV)産業はいま、生産過剰と資金繰りの悪化に直面しています。景気低迷と就職難が続く中、多くの若者が威馬(ウェイマー)や哪吒(ネータ)といった倒産ブランドの格安EVを「掘り出し物」として買い漁っています。ただ、このブームは本当にチャンスなのか、それとも作り出された需要なのか、疑問も広がっています。
11月3日、中国の複数のメディアが報じたところによると、中古の極越(ジーユエ・ゼロナナ)07や高合HiPhi X(ハイファイX)を購入した消費者たちは、「100kWh(キロワット)のバッテリー大手・寧徳時代(CATL)製三元リチウム電池、クアルコム8295チップ、ダブルウィッシュボーン式サスペンションがそろって、定価の3割引」であることだけを重視し、「ブランドが復活するかどうかを賭けているわけではなく、CATLの電池は壊れないはずだ」という考えで購入していると指摘されています。
バーゲン狙い若者たちの間で広まっている言葉があります。「自動車メーカーはただの組立工場に過ぎない。本当に欲しいのは装備リストだけだ」というものです。
あるティックトック投稿者はこう説明しています。ここ数年、中国の新エネルギー車市場は急速に変化しており、経営不振で倒産するメーカーが相次いでいます。その結果、売れ残った在庫車が大量に発生しました。これらの車はブランドこそ消えていますが、装備が豪華で価格が大幅に下がっているため、多くの若者を引きつけているのです。
たとえば、元の販売価格が約560万円(28万元)の車が、いまはわずか約120万円(6万元)で購入できます。中には100kWhのCATL製バッテリーやクアルコム8295チップなど、高性能なハードウェアを搭載したモデルも含まれています。
山東省の「斉魯晩報」が公開した動画では、多くの若者が倒産したメーカーの在庫車を格安で買い求める様子が映っています。ある若者は「これは車を買うんじゃなくて、動くハードウェア一式を買うようなもの」と話し、別の若者は「バッテリーとチップとサスペンションさえ無事なら走れる」と語っています。
また、あるブロガーは動画で「倒産ブランドの車は若者にとって妥協ではなく、より賢い消費の選択肢。お金を払うのは目に見えるハードウェアと性能だけ」と主張しています。
さらに別の投稿者は「高級車を自慢する人は見たことがあるけど、倒産車を自慢する人はいる?資本に捨てられた『電子の孤児たち』がZ世代のコスパ最強の車になっている。移動用の安い車の値段で中上級クラスの車に乗れる。これは損しない」と語っています。
これらの投稿は、従来の広告とは異なる形をしているものの、「倒産車はブランド価値がゼロだけど、内部の電池やモーター、制御系といった『電動車の心臓部分』だけでも十分な価値がある」というメッセージをほのめかしています。つまり、これは「若者の購買意欲を誘導する空気づくり」となっており、この雰囲気が共通認識になると、市場の構造すら変え始めます。多くの若者が「倒産車の低価格は非合理的な恐慌の結果」「むしろ合理的なのは買う側」という主張を受け入れるようになっているのです。
倒産車の購入を検討していたある利用者は、多くのリスクを理解していると話します。「確かに今は安く手に入るが、将来厄介な問題が出るかもしれない。ブランドが倒産しているため、今後のメンテナンスや部品供給が大きな問題になる可能性がある。もし故障すれば、修理費は跳ね上がり、交換部品が手に入らない状況もあり得る。さらに、スマート化が進む今、車載システムや自動運転支援機能は欠せない」と語ります。それでも彼は「そんな大きなことまで考えていられない。今必要なのは車で、すぐに欲しい。予算は約200万円(10万元)しかない」と本音を明かしています。
河北省保定市の処分倉庫では、倒産車の保管場がインフルエンサーによって「映像作品のように演出」され、現地で動画撮影する投稿者が急増しています。これらの動画は単なるレビューではなく、まるでストーリー仕立ての動画作品のようです。
「これは底値買いではなく、メディアが若者を誘導しているだけだ」こうした疑問の声も上がっています。
中国のSNS上では、多くの専門職の利用者が意見を発信しています。
「進出口貿易業の営業総監」と認証されているブロガーは、倒産EVは中古EVより価値が低く、「特価品」ではないと指摘します。
このブロガーが業界の知人に聞いたところ、知人は「倒産企業のEVなんて誰も買わない。倉庫に来るのはカメラを持ったインフルエンサーばかり」と話したといいます。そのためブロガーは「メディアは若者に倒産車を押しつけようとしているのでは?これなら未完成マンションにも販路ができたわけだ。家が買えないなら未完成マンションを買えばいいってこと?」と皮肉を述べました。
同ブロガーはさらに、倒産車は部品が壊れても交換できない可能性が高いと指摘します。メーカーがすでに生産を停止しているため、動力電池を含むすべての部品が保証の対象外であり、保険会社も引き受けないだろうと推測されるにもかかわらず、「CATLの電池は壊れないと信じている」という理由だけで大々的に販売を推進している現状を強く批判しています。
一方、ソーシャルメディア「知乎」のあるブロガーは、メーカーが倒産した後、倒産車が一気に「ニッチな車種」になると説明します。ニッチ車種が直面する最大の問題は、部品が手に入りにくく、価格が高騰することです。
これらの部品を必要とする人にとっては選択肢がなく、買わない限り、部品を問い合わせた時点で、すでに必需品になります。こうした必需品は需要と供給に左右されず、買い手が支払える範囲であれば、価格はいくらでも跳ね上がる特徴があります。
たとえば、市場価格が約2万円(1000元)の商品で、重要なパーツが市場に1〜2社しかなく、仕入れ値が約100円(5元)だとしても、販売者は約4000円(200元)や約6000円(300元)で売ることができます。買い手は「割に合わない」と分かっていても、その部品を買わなければ商品そのものを使えなくなるため、受け入れるしかありません。
一部の重要でないパーツなら代替品で代用したり、修理せずにそのまま使い続けることも可能ですが、核心部品が故障した場合、車は実質的に「廃車同然」となります。
同ブロガーはさらにこう続けています。「それから自動車保険の問題もある。保険会社は一部の倒産車をブラックリストに入れており、保険料が急騰したり、地域によっては特定ブランドのEVを受け付けないところもある。著名人でも商業保険は買わないと言う人がいる。仮に保険に加入していても、油断は禁物だ」
(翻訳・藍彧)
