過去数日間、中国は「海」と「宇宙」という二つの最前線で同時に危機に直面しました。これらの出来事は、中国が拡張を続ける過程で抱える潜在的なリスクを改めて浮き彫りにしました。

 2025年11月9日と10日、韓国近海の国際水域で中国漁船が相次いで転覆し、多くの死傷者と行方不明者が出ました。一方、軌道上にある天宮(てんきゅう)宇宙ステーションでは、神舟20号の帰還カプセルが宇宙デブリ(スペースデブリ)に衝突した疑いがあり、3人の宇宙飛行士が予定どおり帰還できず滞在を続けています。海と宇宙、全く異なる領域で立て続けに起きたこれらの事故は、中国の経済的・技術的野心の裏にある危うさを象徴しています。

 11月10日早朝、韓国の海洋警察は黄海(こうかい)の国際水域で転覆した中国漁船の大規模な捜索救助活動を開始しました。事故現場は群山市(クンサンし)于青島(オチョンド/Eocheong Island)の南西約150キロに位置し、総トン数99トンの漁船には11人が乗っていました。通りかかった貨物船が2人を救助しましたが、残る9人は依然行方不明です。韓国側は中国海警からの要請を受け、巡視船4隻、ヘリコプター2機、固定翼機1機を派遣しました。海面には油膜が確認され、燃料流出の可能性も指摘されています。群山海洋警察の金永哲(キム・ヨンチョル)氏によると、当時の漁船は黄魚(こうぎょ)やタチウオを漁獲していたとみられます。

 その前日にも、韓国南西部の可居島(カゴド/Gageo Island)沖の国際水域で同様の事故が発生しました。総トン数98トンの中国漁船が転覆し、11人の乗組員のうち6人が近くの中国船に救助されましたが、2人は心停止状態で発見され、死亡が確認されました。残る3人は行方不明のままです。韓国と中国の海警当局は現在も合同で捜索を続けています。中国の駐光州(クァンジュ)総領事館は両事故の詳細を確認し、韓国当局と連携していると発表しました。2件の事故で計2人が死亡、12人が行方不明となっており、初期調査によれば強風と高波などの悪天候が原因とみられていますが、詳しい状況は依然調査中です。

 なぜ中国漁船が日本や韓国の近海で頻繁に操業するのか。その背景には、長年続く漁業構造の変化があります。中国沿岸では、数十年にわたる乱獲により漁業資源が著しく枯渇しました。多くの漁船は国内では十分な漁獲を得られず、漁民たちは生計を維持するため、また国内の海産物需要を満たすために、遠洋や他国の排他的経済水域(EEZ)の境界付近にまで進出しています。黄海や日本海などは黄魚、タチウオ、マナガツオといった高価値魚種が豊富で、中国漁船にとって魅力的な漁場です。

 しかし、こうした操業はしばしば国際法上のグレーゾーンに踏み込み、韓国や日本は中国漁船による違法操業(IUU漁業)を繰り返し問題視しています。過度な漁獲は環境破壊をもたらし、外交摩擦の火種にもなっています。中国の巨大な遠洋漁船団は、経済的な側面だけでなく、地政学的な影響力という観点からも国際社会の注目を集めています。

 同じ時期、中国の宇宙開発にも予期せぬトラブルが発生しました。2025年11月4日、天宮宇宙ステーションでは、宇宙飛行士たちが新たに設置された無重力オーブンを使い、鶏手羽やステーキを焼く「宇宙バーベキュー」を実施。人類史上初となる宇宙空間での“生調理”に成功し、中国の宇宙食開発における大きな節目として話題を呼びました。長期任務中の士気向上や栄養管理の観点からも画期的な試みでした。

 しかし、そのわずか翌日、喜びは一転します。中国有人宇宙工程弁公室(CMSA)は神舟20号の帰還カプセルが小型デブリに衝突した可能性があると発表。機体の一部に損傷が見つかり、帰還計画は延期されました。本来6か月の任務を終えるはずだった3人の宇宙飛行士は天宮に留まり、修復と安全確認を待つことになりました。損傷が深刻な場合は、酒泉(じゅけつ)衛星発射センターから予備機を打ち上げる案も検討されています。幸い、乗員の安全は確認されていますが、この出来事は軌道上デブリ問題の深刻さを再び印象づけました。2024年3月にも天宮の太陽電池パネルが同様にデブリと衝突しており、地球低軌道に漂う“宇宙ごみ”が現実的な脅威として拡大しています。

 漁船の転覆から宇宙船の損傷まで、わずか1週間の間に中国は「海」と「空」という異なる領域で相次いで試練を経験しました。一見無関係に見えるこれらの出来事は、根底で共通しています。海では経済的利益を追い求め、宇宙では技術的野心を掲げる――いずれも国家の拡張とリスクが表裏一体であることを示しています。荒波に挑む漁民の姿も、軌道上で奮闘する宇宙飛行士の姿も、資源、技術、そして安全保障の狭間で揺れる現代中国の縮図といえるでしょう。

 今回の一連の事故は、中国が国力の拡大を進める中で直面する課題の複雑さを物語っています。遠洋漁業への過度な依存は資源の枯渇と環境負荷を悪化させ、宇宙開発の成功もまた、増え続けるデブリという新たな制約に直面しています。国家の活動領域が海と宇宙へ広がるほど、監視と安全体制の遅れは深刻なリスクを招きかねません。今後、海上救難やデブリ削減など国際的な協力が進まなければ、「海と宇宙の二重危機」はさらに頻発する可能性があります。

(翻訳・吉原木子)