近年、生活の時間の流れが速く感じられ、都市化が進む中で、中国の伝統的な古い町並みである観光地「古鎮」を訪れる旅が若者の間で人気を集めていました。鳳凰古城や烏鎮が一躍脚光を浴びたことをきっかけに、中国各地では一夜にして数え切れないほどの「古鎮観光地」が誕生しました。また、真偽も定かでない「千年の古鎮」が乱立し、どの省にも「自称・歴史ある古鎮」が存在するようになりました。

 ところが、その熱狂は長くは続きませんでした。わずか数か月のうちに、これらの古鎮は次々と赤字に転落し、営業停止や閉鎖に追い込まれていきました。中には、約460億円(約22億元)という巨額を投じて建設された古鎮が、わずか数年で休業を余儀なくされた例もあります。かつて人であふれ返っていた観光地が、なぜ突然「無人の街」になってしまったのでしょうか。全国で同時に起きた古鎮ブームの崩壊は、偶然ではなく、構造的な問題が浮上しています。

 たとえば湖南省の「大庸古城」は、張家界旅遊集団が主導して開発した一大プロジェクトでした。約520億円(約25億元)を超える資金が投じられ、面積22ヘクタールに及ぶ広大な敷地には、古都の街並みを再現した壮大な観光都市が造られました。しかし、2024年上半期の有料入場者は一日あたり20人にも満たず、開業から4年で約210億円(約10億元)の損失を計上。資産は最終的にマイナス約63億円(約3億元)に転落しました。残ったのは、バブルの遺産と化した巨大な空間だけです。

 この失敗は決して例外ではありません。2020年から2022年の3年間で、全国では200か所を超える人工古鎮が倒産しました。多くの施設が完成してから、一度も正式にオープンすることなく幕を下ろしました。かつて人波で身動きが取れなかった観光地が、今や閑古鳥の鳴く風景へ——原因は自らの足元にありました。
古鎮衰退の背景には、三つの「落とし穴」があります。

 第一は、横並びの「テンプレート開発」です。

 これにより、開発業者は成功例をそのまま模倣しました。その結果、どの古鎮も似たような外観ばかりとなりました。湖南でも青海でも、目に入るのは白壁と黒瓦、古に倣う牌坊、石畳の通り。通りを歩けば、必ず臭豆腐、焼きソーセージ、竹筒ミルクティーの「三点セット」が並びます。

 中国旅游研究院の調査では、93.4%の観光客が「古鎮はどこも似たようなもの」と回答しています。外見だけを“古風”に仕立て、文化の深みや物語を掘り下げない——結果として、どこへ行っても同じ土産物市場に迷い込んだような感覚を与え、一度行けばもう十分という印象を残すのです。

 第二は、不透明な商法の横行です。2025年6月、麗江束河古鎮のバーで、観光客の男性がクラフトビール4杯を注文したところ、会計は約4万3,000円でした。店側は「値札を出している」と主張し、カウンターの隅ある黒板に値段が小さく書かれていました。ネット通販では1リットルあたり約1,000円の価格となっています。このような「観光客泣かせ」のケースは後を絶ちません。周荘ではかき氷2杯で約3万円、重慶のある古鎮では6個の飴が約9万円という信じがたい事件もありました。店主たちは「値段を確認しなかったのが悪い」と開き直り、SNS上には「二度と行かない」と怒りの声が相次ぎました。こうして口コミの信頼を失った古鎮は、訪れる人を次々と失っていったのです。

 第三は、環境悪化と安全性の欠如です。多くの古鎮では川にビニール袋やペットボトルが浮かび、水は濁り、悪臭が放たれています。公衆トイレは清掃が行き届かず、観光客の気分を一気に冷ます要因となっています。

 さらに深刻なのはプライバシーの問題です。2025年2月、雲南省大理の民宿「南国城トーマスゲストハウス」に宿泊した観光客が、ベッド上のコンセントに隠された小型カメラを発見しました。レンズは寝室を正面から撮影できる位置にありました。オーナーは「子どもの見守り用だ」と主張しました。しかし、警察の調査で遠隔監視が可能な盗撮機器であることが判明。過去の宿泊客の映像も保存されていたことが分かり、オーナーは拘留。民宿は営業停止処分となりました。この事件をきっかけに、多くの観光客が「寝ている間も監視されているのでは」と不安を抱き、古鎮での宿泊への信頼は崩壊しました。こうした三つの要因が重なり、観光客は年々減少し、「古鎮バブル」は次第に崩壊したのです。

 この8年間で全国の古鎮開発に投じられた資金は、少なくとも約1,040億円(約50億元)とされています。そのうち大庸古城のように約520億円(約25億元)を投じた代表的案件でさえ、最終的には赤字に転落。開発業者も店舗経営者も損失を被り、痛みを伴う教訓を残しました。

(翻訳・吉原木子)