10月31日、海南省(かいなんしょう)瓊中(けいちゅう)県で大規模な群衆抗議事件が発生しました。発端となったのは、国有企業である海南天然ゴム産業集団加釵(かさい)分公司(以下、海南ゴム)が、村民の同意を得ずに檳榔(びんろう)の木を伐採したことでした。この行為に激怒した地元住民は、伐採された檳榔の木を会社の入り口前に積み上げ、建物を取り囲んで抗議しました。抗議は次第に激化し、一部の住民が車両を転覆させたり、会社の看板を破壊したりするなど、現場は一時的に制御不能な状態となりました。

 白昼に撮影された映像では、村民たちが会社前に集まり、「説明しろ」と叫びながら出入り口を封鎖する様子が映されています。夜になると緊張はさらに高まり、一部の人々は「匪賊どもの巣を倒せ!」と叫びながら、次々と車をひっくり返しました。会社職員は建物内に閉じ込められ、警察の護送によってようやく退避することができました。警察が撤退した後も、一部の抗議者は建物の屋上に登り、会社の看板を打ち壊しました。人々が散り始めたのは深夜になってからで、現場は荒れ果てた状態でした。

 この衝突の映像は瞬く間にネット上に拡散し、多くの議論を呼びました。
「こういう光景は、信頼関係が完全に崩壊したことを示している。透明性と対話が失われれば、どんな衝突も一瞬で制御不能になる」という冷静な分析の声がある一方で、
「海南の人は昔から筋が通っている。権力に屈しない気骨がある」
「こうなるのは当然。長年積もった不満が爆発しただけだ」
「政府が『封島計画』とか言いながら土地開発を止めた結果、地元経済は停滞し、村人たちの生活だけが犠牲になった」
といった意見も寄せられています。

 海南ゴムは2005年に設立された中国最大の天然ゴム加工企業で、2011年に上海証券取引所に上場し、2025年版『フォーチュン中国500社』では第315位にランクインしています。事件発生後、同社は公式抖音(ドウイン/TikTok中国版)アカウントで声明を発表し、「問題の土地は加釵分公司の地界内にあり、合法的な使用権を持つ。だが、由那柏(ゆうなはく)村委員会の猿胎返村(えんたいへんそん)の村民が長年にわたり不法占拠しており、会社の操業に支障をきたしているため、非ゴム作物を清理した」と主張しました。

 しかし、この説明に対してネット上では疑念と怒りの声が相次ぎました。
「『不法占拠』って、何十年も前から住んでる村人の土地じゃないのか?」
「会社ができたのは2005年、村民の生活はそれよりずっと前から続いている」
「今日海南の檳榔を伐ったなら、明日は広西のサトウキビを伐るだろう」
「夜中に木を切るなんて、正当性があるとは思えない」
などのコメントが並びました。

 猿胎返村の住民の一人は11月1日、大紀元の取材に応じ、「企業側は農民と補償交渉をしている。2倍の補償を出す方向で、今は政府が仲裁中。現場には警察が大勢いて立ち入り禁止だ」と語りました。

 この村民によれば、「土地は確かに海南ゴムのものだが、村民は十年以上前から耕作しており、承包証も持っている。会社が今になって土地を取り戻そうとしている」ということです。

 さらに彼は当時の様子をこう振り返ります。
「昨日の現場には何百人もの村民が集まっていた。見物人を含めると1万人はいたと思う。夜中の3~4時まで騒ぎが続き、車も5~6台ひっくり返された。警察も特警も100人以上いたけど、村民は全然怯まなかった。逮捕者はまだいない。夜の9時過ぎが一番盛り上がった。」
また、彼は経済的な背景についても語りました。
「確かに土地の権利は会社のものかもしれない。でも村民が植えた檳榔は10年以上育ててきた。1本の木から年間約4万円を稼げるといいます。1000本なら何百万円もの収入になる。去年は500gあたり約1000円の高値だったが、今年でも360〜400円だ。収穫までに7年以上かかる。会社がそれを一夜で伐ったら、誰だって怒る。」

 彼によれば、対立の本質は「企業が土地を回収してゴムを植えたい一方で、村民は収益性の高い檳榔を残したい」という構図にあります。
「ゴムは手間がかかる割に儲からない。檳榔は管理も楽で利益が高い。村民が選ぶのは当然だ」と彼は話しました。

 事件の翌日、中国本土メディア『新黄河』がこの騒動を報じましたが、その記事は数時間後に削除されました。現在、現場映像や住民の証言だけが真相を伝える手がかりとなっています。ネット上では、「これは単なる土地争いではなく、国有企業の拡張と民衆の生活権の衝突を象徴している」との声が相次いでいます。今回の「檳榔樹の戦い」は、中国社会における深刻な矛盾を映し出す事件として、今もなお波紋を広げています。

(翻訳・吉原木子)