中国の電気自動車(EV)業界では、生産能力の過剰と国内需要の低迷が続いています。そのため、各メーカーが値下げと輸出強化に力を入れた結果、いわゆる「EVデフレ(電動車価格の下落競争)」が世界市場にまで波及し始めています。

 この影響を受け、アメリカのテスラは最近、主力モデルの米国内での最低価格を1割引き下げました。また、日産自動車も2026年に日本で販売予定の主力EVを、従来モデルよりも低価格で設定する方針を示しています。

米メーカー、約450万円以下のEV投入を計画

 日本経済新聞の報道によると、テスラは10月7日、アメリカなどで主力2モデルの価格を引き下げました。そのうちの1つ、エントリーモデル「Model Y」の最低価格は約600万円(3万9990ドル)となり、従来の価格から約75万円(5000ドル)引き下げられました。ただし、バッテリー容量を減らしたため、航続距離は約1割短くなっています。

 アメリカでは9月末で電気自動車購入に対する約110万円(7500ドル)の税控除が終了し、「Model Y」など人気車種の実質価格は約2割上昇しました。そこでテスラはすぐに低価格モデルを投入し、顧客離れを防ごうとしています。

 テスラのイーロン・マスクCEOは、以前から「約450万円(3万ドル)以下の低価格EVを投入したい」との意向を示していました。

 テスラだけでなく、アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターも、段階的な値下げ計画を打ち出しており、両社とも約450万円(3万ドル)以下の新型EVを市場に投入する予定です。

日本でも値下げ競争が加速

 電気自動車の普及率がまだ低い日本でも、価格引き下げの動きが広がっています。

 日産自動車は8日、主力EV「リーフ(LEAF)」を全面改良し、標準モデルの希望小売価格を約519万円に設定したと発表しました。旧型よりも約6万円値下げされています。

 日本経済新聞によると、日本での値下げ圧力を高めているのは、中国の比亜迪(BYD)などのメーカーです。中国のEV企業は日本市場を開拓するため、価格攻勢を展開しています。BYDは9月、日本で人気のEVを最大で約117万円から約50万円値下げしました。

 同報道はまた、世界的なEV価格の下落は、中国メーカーが車載バッテリー市場で競争力を高めたこととも関係していると指摘しています。世界シェアトップの中国の電池大手・寧徳時代(CATL)は、ヨーロッパの自動車大手ステランティス(Stellantis)と提携し、共同で電池工場を設立する計画を進めています。

政府補助金と企業の国際化への野心

 中国政府はEV産業の立ち上げ当初から、補助金を含む各種支援策を打ち出してきました。

 アメリカのテスラが2008年に初の量産車「ロードスター」を発売すると、翌2009年には中国政府もこの分野の育成を決定し、2010年からは購入補助金の支給を開始しました。

 中国政府はメーカーへの直接補助に加え、自動車取得税の減免措置を実施しました。さらに、北京や上海など自動車の購入や走行を制限している都市でも、電気自動車は例外として優遇されています。

 こうした政策の後押しにより、中国のEV生産と販売は世界を大きくリードしました。2015年には販売台数が約33万台に達し、2021年には300万台を突破。翌2022年にはさらに100%以上の伸びを記録し、世界最大のEV生産国・消費国へと成長しました。

 エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の産業アナリスト、ニシタ・アガーワルはBBC中文に対し、「補助金制度がEVの販売を急増させ、中国国内市場の成長と生産拡大を後押しした。中国のEV企業はその恩恵を大きく受けた」と述べています。

 規模と技術で優位性を確立した中国メーカーは、その後輸出を急拡大させました。現在、ヨーロッパで販売されるEVのうち10台に1台は中国製です。2022年には中国の自動車輸出台数がドイツを上回り、世界第2位の自動車輸出国となりました。

成都で小米SU7が炎上事故 中国製EVの安全性に不安の声

 2025年10月13日未明、四川省成都市で小米(シャオミ)製の電気自動車「SU7」が重大な交通事故を起こし、衝突後に炎上、運転していた男性が死亡しました。

 複数の目撃者のドライブレコーダー動画によると、走行中の小米SU7はふらつきながら走っており、その後スピードを上げて制御を失い、道路中央の緑地帯に衝突しました。

 動画を投稿したドライバーによれば、事故車の走行速度は時速約150キロに達しており、信号交差点で右折車を避けようとして左にハンドルを切った際にコントロールを失ったといいます。

 別の車のドライブレコーダーには、事故車が右側から猛スピードで追い抜き、衝突の直後に炎上する様子が映っていました。事故車が急加速して中央分離帯に突っ込み、撮影車が現場に到着するまでの時間はわずか5分ほどでした。もし発火がもう少し遅ければ、救助のチャンスはあったかもしれません。

 運転席には男性が取り残され、近くにいた人々が救出にあたりました。複数の通行人が素手や足で窓ガラスを破ろうとしたほか、消火器で火元に噴射しましたが、ガラスは割れず、ドアも開かないまま火勢は一気に拡大し、救助は失敗に終わりました。最終的に消防隊が専門機器を使用して鎮火しました。

「ドアが開かない」構造的欠陥が致命傷に

 複数のメディア報道によると、目撃者の証言で「ドアが開かなかった」ことが救助失敗の決定的要因だったとされています。事故車は小米SU7シリーズの最上位モデル「SU7 Ultra」で、多くの高級装備を備えた旗艦車種でした。事故直後から「ドアが開かない」という構造的問題に関する議論がSNS上で急速に広がりました。

 専門家の分析では、EVが激しい衝突を受けた場合、車体構造や電源系統、電子制御のドアロックモジュールが損傷すると、電動ドアロックが解除できなくなる可能性があるといいます。一部の車種には「緊急用の手動レバー」が備わっていますが、衝突による変形や高温の影響で使用が困難になることもあります。

 小米SU7の「ドアが開かない」問題は今回が初めてではありません。2025年3月にも安徽省の高速道路でSU7が炎上し、乗員3人が死亡しています。このときも火災で電源が落ち、ドアがロックされたまま脱出ができませんでした。

 事故後、小米のカスタマーサポートは「車両には緊急用の手動レバーが装備されており、電源が落ちても手動で開けられる」と説明しました。また、「エアバッグが作動した際には自動でドアロックが解除される」とも述べましたが、こうした説明は世間の不安を鎮めるには至っていません。

 現在、多くのEVが電子ドアロックと集中電源システムを採用しており、「衝突後にすぐ解錠できるかどうか」が、今後の技術課題として改めて注目されています。

小米EVのリコールと中国製EVへの不信感

 今年9月、小米汽車は運転支援システムの潜在的リスクを理由に、「SU7」標準版およそ11万7000台をリコールしました。特定の状況下で自動車線変更機能が誤作動する可能性があるためとのことです。

 相次ぐ事故やリコールを受けて、中国製EVの安全性への疑念が高まっています。たとえ世界的に価格が下がっても、命を預ける車として本当に信頼できるのでしょうか。そんな根本的な問いが突きつけられています。

(翻訳・藍彧)