秋の長雨が中国の穀倉地帯を直撃しています。黄河や淮河流域では9月以降、記録的な降雨が続き、各地で農地が冠水し、トウモロコシの収穫が遅れたうえに、畑でカビが発生し、農民たちは大きな損失を被っています。穀物乾燥機は全国で品薄となり、生産ラインがフル稼働しても需要に追いつきません。さらに冬小麦の播種期も迫るなか、土壌の水分が抜けず、農家は次の作付けにも踏み出せない状況です。中国の食糧生産が、かつてない難局に直面しています。
複数のメディアによると、今年の長引く秋雨の影響で、河北省、河南省、山東省、湖北省、安徽省、江蘇省といった主要な穀倉地帯に加え、山西省、陝西省、甘粛省などでも農作物の収穫が大幅に減少しているとのことです。
経済観察報の報道によると、10月16日、河南省商丘市(しょうきゅうし)の農民・陳星宇(チェン・シンユー)は泥水の中でトウモロコシを収穫していましたが、多くの実がすでにカビていました。彼の畑は10数ムー(約2000〜3800坪前後)ありますが、その大部分が冠水しており、深い場所では膝上まで水に浸かっています。陳さんの試算では、今年は全体の約70%がカビにやられたとのことです。
カビ被害は直接、買い取り価格に打撃を与えています。河南省周口市のある穀物買い取り業者によると、現在のカビたトウモロコシの買い取り価格は、例年の約5分の1程度にまで落ち込んでいるといいます。品質がさらに悪いトウモロコシについては、今後も価格が下がる見通しです。
陳さんは次のように試算しました。「人件費を除いても、1ムー(約200坪)あたりのコストは少なくとも約8300円(410元)かかる。今年は収穫が悪く、1ムーで約350〜400キログラム(700〜800斤)しか取れない。利益を出すには、例年の半分以上の価格で売れないと元が取れないが、現状では到底難しい」と話しています。
あるブロガーは次のように伝えています。安徽省北部では7〜8月にかけて猛暑と干ばつが続き、農民たちは炎天下で懸命に灌漑を行いました。その後、一転して気温が下がり、秋雨が長く続いた結果、北安徽のトウモロコシはほとんどが雨に打たれて畑の中で腐ってしまいました。わずかに品質の良いトウモロコシを収穫できた農民でも、雨天の中で保管できず腐敗が進んでしまったといいます。今では、トウモロコシを売っても、その収入は収穫機の費用すら賄えないほどです。
一部の農家では、比較的品質の良いトウモロコシでも、収穫後の湿度が高すぎてすぐに発芽してしまうケースが相次いでいます。そのため、農民がネット上で「発芽してしまったトウモロコシはどう処理すればいいのか、専門家の意見を聞きたい」と助けを求める投稿も見られます。
農民たちは、わずかに状態の良いトウモロコシを収穫するのにも大変な苦労を強いられています。畑が浸水しているため、収穫機やトラックが入ることができず、水の浅い場所では人がぬかるみを歩いて運び出しています。水の深い場所では、トウモロコシを袋などに詰めて運搬している状況です。河南省の農民の一人は、「ここは河南省であって、江南の水郷ではない」と自嘲気味に語っています。
穀物乾燥機が品薄状態に
止まない秋雨の影響で、畑の中でトウモロコシが次々とカビ始めたため、農民たちは緊急的に穀物乾燥機を使って収穫を急いでいます。その結果、農業機械メーカー「中聯重科(ズーレン・ジョンコー)」の乾燥機は全国的に売り切れとなっています。
経済観察報によると、この大手設備メーカーは今年の秋雨に対応するため、特別に「安定供給会議」を開き、労働者の数を倍増させ、生産台数を1日あたり15台から30台に増やしました。しかしそれでも注文は途切れず、納期のプレッシャーは非常に大きいといいます。完成した機械は工場ラインを出た直後に出荷され、倉庫には在庫が一台も残っていません。
もう一つの大手企業である安徽正陽科技では、今年の乾燥機の販売台数が前年同期比で40%も増加しています。営業担当者は現在、北方の複数の省を飛び回っており、10月12日に安徽省六安市を出発して北京へ向かう途中、晴れ間は一度もなく、道中ずっと曇りや大雨だったと話しています。
河南省南部で乾燥機販売に携わる劉艶(リウ・イェン)は、ここ10日以上まともに睡眠が取れていないといいます。彼女は毎日、各地の乾燥センターを駆け回り、ほぼ1時間ごとに購入や設置に関する電話がかかってきています。
山東省東営市永安鎮の乾燥施設では、機械が24時間体制で稼働し、1日あたり約400トンの穀物を乾燥させています。こうして少しでも多くの収穫物を救い出そうとしているのです。
現場の作業員はこう話します。「もうまる3日間、ここで働き続けている。食事も睡眠もこの場所で取り、機械の点検にもすぐ対応できるようにしている」
しかし、全ての農民がこうしたサービスを受けられるわけではありません。乾燥会社の対応には制限があり、少量しかない農家の穀物は引き受けてもらえないことも多いのです。仮に受け入れられたとしても、順番待ちが数日に及び、その間に穀物が発芽したりカビてしまったりするケースも少なくありません。
山西省長治市で7年間にわたり穀物取引を続けてきた喬強(チャオ・チアン)も忙しく働いています。彼は「うちの乾燥機は24時間稼働していて、7人で交代勤務をしている。私は毎日2〜3時間しか寝られない」と話します。
喬さんは今年7月、農家の言い伝えを参考にして2台の乾燥機を早めに購入していました。「昔から『春の風が強ければ、秋の雨も強い』ということわざがある。今年はまさにその通りになった。こうした農業の知恵は本当に役に立つのに、今では知る人が少なくなっている」と彼は語ります。
冬小麦の播種にも深刻な影響
中国気象網の報道によると、2025年9月以降、中国北部では例年よりも明らかに多くの雨が降っています。特に山東省や河南省などでは、累計降水量が観測史上最高を記録しました。経済観察報によれば、山西省長治市で穀物商を営む喬強は、「これほどの雨量は、自分が生まれてから40年以上で初めてだ」と話しています。
あるSNS動画では、農家がこう説明しています。例年なら9月末には秋トウモロコシの収穫を終え、冬小麦の播種を始めている時期ですが、今年は長雨の影響でそのリズムが完全に崩れたといいます。雨が続いたことでトウモロコシがカビ始め、手で触ると柔らかくなり、芯が腐っているものも多い状況です。さらに深刻なのは、畑の土壌の水分がいまだに高く、気象予報でも今後の降雨が予想されていることです。そのため、冬小麦を播けるかどうか、見通しが立っていません。
気象当局は、連日の曇天と雨天により黄河や淮河流域でトウモロコシの収穫が遅れ、その影響で冬小麦の播種時期が極めて短くなっていると指摘しています。また、冠水した農地では土壌が粘り気を増し、播種機を畑に入れることができないため、冬小麦の播種が大幅に遅れています。このままでは、来年の小麦生産にも深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
例年の秋の収穫期には、次のような豊作の光景が広がっていました。果たして、こうした風景が再び見られる日はいつになるのでしょうか。
(翻訳・藍彧)
