2025年10月。中国では、ゴールデンウィークが終わりました。しかし、街に残ったのは笑い声ではなく、ため息ばかりです。公式の統計によりますと、連休中の国内旅行者は延べ8億8800万人に達し、前年より1億2300万人増えました。一見すると盛大な祝祭のように聞こえますが、1人あたりの1日消費額はわずか約2,300円(約113.88元)で、前年比13%の減少となりました。見た目はにぎやかでも、財布のひもは固くなっています。動画共有アプリ「抖音(ドウイン、中国版TikTok)」を開くと、そこに並ぶのは店主たちの“倒産日記”ばかりです。

 ある飲食店の店主はこう話しています。
 「今年のゴールデンウィークの経済は本当にひどいです。去年のこの時期は、忙しくてトイレに行く暇もありませんでした。朝11時から夕方6時まで、ずっと客が途切れませんでした。でも今年は人がどこにもいません。道路もがらがらで、渋滞なんて一度も見ません。今年は本当にどうすればいいんでしょうね。」

 この店主の言葉は決して特別なものではありません。今、中国各地で同じような動画が次々と投稿されています。ため息をつく人、冗談を言う人、「もう店を閉めたほうがましだ」とつぶやく人。別の飲食店の店主も、連休2日目に動画を投稿しました。

 「今日は10月2日、連休の2日目です。もうお昼の12時なのに、人が全然いません。向かいの店も誰もいないし、通り全体が静かです。昨日は少しお客さんがいましたが、今日はゼロです。もう午後は休みにしようと思います。外にいても意味がないですから。デリバリーの注文も1件もありません。配達員も“今日はオーダーが全然ない”と言っていました。うちはもう休んだほうがいいですよ。」

 このような光景は、一つの都市だけに限ったことではありません。人気の繁華街が閑散とし、ショッピングモールはがらがらで、わずかな客しかいないレストランもあります。多くの店が営業を続けても、経費を回収できない状況です。

 米粉(ビーフン)専門店の店主も動画でこう語っています。
 「ゴールデンウィークなのに、うちは今日たったの11杯しか売れませんでした。売上は約4,000円(約200元)ほどです。こんな低い売上は開店以来初めてです。去年はあんなに賑わっていたのに、今年はまるで別世界です。どうしてこんなに落ちたのか本当に分かりません。最初から旅行にでも行けばよかったです。」

 小さな店にとって、売上が悪いというのは単にお金が入らないという意味ではありません。もっと深刻なのは、原因が分からないということです。人出は多いのに、客が来ない。街はにぎやかに見えるのに、消費が動かないのです。

 「みんな旅行に行ったからだ」と言う人もいますが、実際に観光客を受け入れる側の民宿も、同じように苦境に立たされています。中国有数の観光地、雲南省の麗江(リージャン)で民宿を経営する店主も動画でこう話しています。

 「連休2日目、本来なら満室になっているはずなのに、うちの宿は誰も泊まっていません。通りにも観光客が全然いません。みんな高速道路で渋滞してるのかな……。夕方6時になったら予約が入るかもしれませんが、今のところ1部屋も埋まっていません。」

 貴陽(グイヤン)で民宿を経営する別の店主もこう語っています。
 「今回の連休、明らかに消費が冷えています。五一(メーデー)や端午節、夏休みのピークと比べても全然だめです。季節のせいなのか、それとも景気が悪いのか……。たとえば、以前は人気の宿は値段を高く設定して、当日予約で高く売れましたが、今回はそれが通用しません。一泊約8,400円(約420元)の部屋が今は約4,800円(約240元)。一泊18,000円(約900元)の6人部屋も今は12,000円台に下がっています。それでも予約が入りません。うちは中くらいの価格ですが、10月1日から4日まではまだよかった。でも5日以降、まったく予約が入っていません。他の都市も同じ状況でしょうか。それとも広東や三亜(サンヤ)はまだマシなんでしょうか。」

 もしかすると、こうした現象の理由は単純なのかもしれません。人がいないのではなく、泊まり方が変わったのです。今年の長期休暇では、ホテルや民宿に泊まらず、テント泊を選ぶ人が急増しました。一泊数万円する宿泊費に比べて、テントは不便でも安上がりです。コメント欄には、こんな声もありました。「ひとりでテントを張るのは少し恥ずかしいし、夜は怖い。でも、みんなでキャンプするなら逆にワクワクしますね。」

 経済の冷たい風は、飲食業や宿泊業だけにとどまりません。団らんと喜びの象徴である中秋節の月餅(げっぺい)も、この寒波を避けることはできませんでした。中秋節は、中国では春節に次ぐ大切な祝日です。家族の再会、思い、そして収穫を意味し、人々はどんなに離れて暮らしていても、この日だけは同じ月を見上げ、家族と共に食卓を囲み、月餅を分け合いながら笑顔を交わします。月餅の丸い形は「家族の円満」や「すべてがうまくいくこと」を象徴してきました。

 例年この時期になると、商業施設には甘い香りが立ち込め、各ブランドが競うように豪華なパッケージやコラボ商品を売り出します。味よりも「どれだけ高級に見せられるか」が勝負でした。しかし、今年の月餅売り場は静まり返り、客の姿はまばらです。

 「今年の月餅の商売は本当に厳しいです。全然売れません。1個あたり数円の値段で、今は量り売りにしています。1斤(500グラム)わずか20円ほど。いろんな味がありますけど、どれも売れ残っています。」

 「今年の中秋節ももうすぐ終わりです。終わりましたね。見てください、まったく人がいません。まだこんなに在庫が残っています。ここは以前は夜になるととても賑やかでしたが、今は静まり返っています。誰が“中秋節は稼ぎ時だ”なんて言ったんですかね。全部、在庫のまま終わりです。」

 中には、あまりにも売れなかったため、月餅の価格が箱よりも安くなってしまったという動画もあります。ある店主は、もう投げやりな気持ちで店の外に出て、残っていた月餅を通りすがりの人たちに配り始めました。映像には、こう書かれていました。「どうせ売れないから、みんなに喜んでもらおう。中秋節らしく“月餅争奪戦”を楽しんでください。」

 通りかかった人たちは笑顔で月餅を受け取り、一瞬だけ賑わいが戻りました。しかし、その笑いの裏には、どうしようもない現実への諦めが滲んでいます。祭りは続いています。月は今年も美しく満ちています。でも、人々の消費意欲は、冷え切ってしまいました。

 連休の熱気が去り、街の静けさだけが残っています。飲食店の鍋は冷め、民宿の看板の灯りは夜通し点いたまま。そして、売れ残った月餅は値下げコーナーに並び、少しずつ消えていきます。誰にも、この“閑散期”がいつ終わるのか分かりません。ただ一つ確かなのは、人々がますます慎重にお金を使うようになっているということです。旅行をキャンプに変え、豪華なギフトをやめ、必要なものだけを買う。消費は、生活へと姿を変えました。

 これは誰かのせいではありません。そして、一つの連休だけの問題でもありません。今の中国の街の姿を映し出す一枚の鏡のようなものです。人々はそれでも懸命に生きています。ただ、少しだけ静かに、そして少しだけ慎重に。

(翻訳・吉原木子)