中国の映像業界は深刻な低迷に直面しています。作品数の減少や撮影率の低下、さらに資源が一部の人気スターに集中した結果、多くの俳優が仕事を失い、生活難に追い込まれています。かつてスクリーンを彩ったスターでさえ、観光地で歴史上の人物に扮し、猛暑の中で汗だくになりながら観客を楽しませる姿を見せています。また無名俳優たちはフードデリバリーの配達員や露店商、観光客に付き添う登山ガイド、さらにはライブ配信者へと転じざるを得ません。華やかさの裏で最も打撃を受けているのは中間層の俳優やエキストラであり、夢と栄光の舞台であったはずの映像業界は、いまや多くの俳優にとって厳しい「生存劇」の場へと変わりつつあるのです。

 イギリスの大学に留学経験を持つ29歳の女優は、現在レストランでアルバイトとしてウェイトレスをしていると語りました。「かつてフードデリバリーの面接に落ち、ビラ配りをしたこともある。出演の仕事がない時、アルバイトで収入を得ている。恥ずかしいことではない」と彼女は話します。

観光地が「舞台」に 俳優は肉体労働で生き延びる

 新興メディア「最人物」は10月4日に報じたところによると、資本の引き上げとエンタメ業界の飽和により、俳優にとって生計を立てることが第一の課題になっているとのことです。多くの失業中の俳優が肉体労働を通じて不安を和らげ、アルバイトの経験をショート動画にまとめ、「生活」と「演技」の境界を曖昧にしながら、再び注目を集めようとしています。

 観光地と俳優の間には「互いに必要とする」関係が生まれています。文化観光の主催者側にとっては、市場の停滞とアイデア不足から、新しい話題で消費を刺激する必要がありました。一方、俳優、特にかつての映画・ドラマのスターは自然に注目を集める力を持ち、短時間で観光客を呼び込むことができます。俳優にとっても、観光地でのパフォーマンスは厳しい労働であるものの、安定した収入が得られる新たな舞台となっています。皇帝役を演じたり、お化け屋敷に挑んだり、台詞を覚える必要はなく、観客を楽しませるだけでよいのです。ある人は「こうした粗削りの芝居は洗練されていないが、撮影よりも現実的だ。大衆を楽しませながらお金も稼げる」と語りました。

 この若い男性俳優は失業後、持ち前の体力を活かして泰山の観光地で観光客に付き添い登山をしています。「北京には30万人もの俳優が失業していて、この業界で生き残るのは本当に厳しいです。アルバイトを見つけ、泰山で観光客に付き添う登山ガイドをしている」

 ある女優は失業後、露店を出して生計を立てています。

スクリーンの英雄から観光地の「李世民」へ

 1976年生まれの鄭国霖(てい・こくりん)は、今もっとも活躍する「観光地俳優」の一人です。1994年に香港のTVB芸能人養成クラスで演技を学び、1996年に中国本土へ戻ってドラマ『少年英雄方世玉』に出演しました。2000年の放送後、一躍人気を博しました。しかし2010年前後、彼は明らかに低迷期の訪れを感じるようになります。丸一年間、出演の仕事がなく、不安が生活を覆いました。

 ここ数か月、鄭国霖は、上海の観光テーマパーク「千古情(チエングーチン)」をはじめ、杭州市の歴史テーマパーク「宋城」、さらに河北省唐山市の古い街並みが残る「河頭老街」など、各地の観光地に頻繁に姿を見せています。いずれもドラマ『隋唐英雄伝』の「李世民」を演じています。炎天下、厚い衣装を身にまとい、汗だくで舞台に立ち、上演前には熱中症予防の薬を服用する必要がありました。彼は正直にこう語っています。「私はただの小さな俳優で、普通の家庭の出身だ。本当にお金に困っていて、家族を養うために稼がなければならない」。この言葉は、多くの俳優が抱える現実のやむを得ない状況を映し出しています。

かつてのアイドル 炎天下でも演じ続ける

 鄭国霖と同じ境遇にあるのが、63歳の俳優・馬景濤(ば・けいとう)です。彼は1か月の間に3つの観光地を巡り、かつての人気ドラマ『天剣と龍刀の物語(原題:倚天屠龍記)』の張無忌や、恋愛ドラマ『川辺に揺れる青き草(原題:青青河辺草)』の何世緯といった名役を再現しました。20年前のスクリーンでの姿が、今では暮らしの頼み綱となっています。

 ある観光地のイベントでは、金の冠をかぶり、赤い衣をまとって「財神」に扮し、「すぐに財が舞い込むぞ」と叫びながら観客を盛り上げました。しかし今年の夏、杭州市の観光地でライブ配信を行った際、35度の猛暑の中で四重の衣装を着て4日間連続で舞台に立ち続けた結果、体力が尽きて倒れてしまいました。簡単な検査を受けた翌日には舞台に復帰し、音楽に合わせて踊り続けたのです。

 かつてのアイドルが今では「商業イベントの模範労働者」と化しています。その背後には重い経済的な負担があります。彼には3人の子どもがいて、2人の息子は上海のインターナショナルスクールに通っており、年間の学費は約930万〜1030万円(45万〜50万元)にのぼります。末の息子は音楽を学び、韓国で練習生になる準備をしており、年間の費用は約2060万円(100万元)を超えるとみられています。家庭を維持するため、彼はひたすら演出の仕事に奔走せざるを得ないのです。

業界の寒冬 「中間層俳優」が最も打撃を受ける

 一見、賑わっているように見える観光地での公演ですが、実際には中国の映像業界の困難を映し出しています。2018年に「出演料制限令(限薪令)」が施行されて以降、資本が引き上げられ、企画は激減し、約1万社近い映像関連会社が閉鎖に追い込まれました。2020年以降は資源がさらにトップ俳優や人気IPに集中しました。中国の映像データ分析会社『云合数据(ユンフー・データ)』によると、2025年上半期に中国の長編動画プラットフォームで配信されたドラマはわずか271本で、前年同期より33本減少しました。

 業界関係者はこう指摘します。「トップであればあるほど、資源は集中する。若ければ若いほど、チャンスは増える」。その一方で、トップでもなく新人でもない「中間層」の俳優たちは、変革の波の犠牲者となりました。彼らには知名度も演技力もありますが、資本の支持を欠いているのです。

 あるプロデューサーは率直に語ります。「いまのキャスティングは、まるでフードデリバリーの注文のようだ。最高級の看板料理(トップスター)か、特価料理(新人)かのどちらかで、中間ランクはほとんど選ばれない」。 人気優先の背景下では、演技力や経験は脇に追いやられ、中堅俳優たちはやむなく観光地や商業イベント、さらにはライブ配信へと活路を求め、別の形で「生き延びる」しかないのです。

 あるベテラン俳優が、プロデューサーから理不尽な叱責を受けた若手俳優を慰めてこう言いました。
 「売れないことは罪みたいなものだが、売れてしまえば何をしても正しい。(他人の言葉なんて)聞き流せばいい、泣く必要はない」

エキストラの減給 底辺はさらに厳しい

 影響を受けているのはスターだけではありません。中低層のエキストラの状況はさらに過酷です。2024年11月、横店(浙江省)の俳優協会は「減給令」を発表しました。エキストラの日給は8時間約2500円(120元)から10時間約2700円(135元)へと変更され、時給は約300円(15元)から約270円(13.5元)に引き下げられました。高負荷の撮影に対してわずかな収入しか得られず、多くのエキストラが撮影所を離れて別の職業に転じざるを得なくなっています。

 「演じれば演じるほど貧しくなる」という言葉が、業界の皮肉な現実を示しています。中年の危機に直面して抜け出せない人もいれば、年齢によって淘汰される人もいます。中には一度もチャンスを得られないまま業界を去る人もいるのです。

 かつての映像業界は夢と栄光の舞台でした。しかし今、多くの俳優にとってそこに残されているのは、現実の「生存劇」だけなのです。

(翻訳・藍彧)