2025年10月5日午後2時50分ごろ、台風21号が中国・広東省湛江市の徐聞県東部沿岸に上陸しました。上陸時の中心付近の最大風速はおよそ42メートル毎秒、中心気圧は965ヘクトパスカルに達し、今年中国本土に上陸した台風の中でも最も強い部類に入りました。
その後、台風21号は西北方向へ進み、6日未明には広西チワン族自治区の防城港付近に再上陸。最大風速は28メートル毎秒と依然として強く、時速およそ25キロで内陸部を進みながら、各地で暴風と豪雨をもたらしました。
中国気象当局によると、5日から6日にかけてが台風21号の影響が最も強まった時期で、海南島、広東省南西部、広西南部では激しい雨が降り、地域によっては総雨量が250〜300ミリに達したといいます。沿岸部では瞬間的に60メートル毎秒近い突風が観測され、建物の屋根が飛ばされるなどの被害が相次ぎました。
さらに今回の台風は天文潮と重なったため、各地で深刻な高潮が発生しました。広東沿岸では最大で4.1メートルの潮位上昇が記録され、海水が防波堤を越えて市街地へ流れ込みました。湛江や陽江、茂名などの沿岸部では海水の逆流が相次ぎ、農地や道路が冠水。陽江の海陵島付近では堤防が決壊し、腰の高さまで水が達する地域もありました。
海南省文昌市の鋪前鎮では、猛烈な波が海岸の堤防を越えて町全体に流れ込み、家屋や商店が一瞬にして水没。沿岸の漁港では多くの養殖いけすが流され、魚やエビが逃げ出す被害も報告されています。ある漁民は「二階建ての家より高い波が押し寄せた」と語り、町の一部は「まるで海そのものになった」と話しました。
海南島北部や広東省の多くの都市は、台風の接近に伴いほぼ完全に「停止状態」となりました。湛江、防城港、海口、文昌などでは4日から段階的に休校・休業・操業停止・交通停止・航路封鎖の「五停」措置が実施されました。海南島内の全ての列車が運休となり、湛江や深圳を結ぶ江湛線や広茂線も同様に停止。さらに三亜発着の旅客船も全面欠航となり、観光地や公園も閉鎖されました。
当局は同時に大規模な避難を開始。5日正午時点で海南省では19万8千人、広東省でも15万人以上が安全な場所へ避難しました。高齢者や子どもを優先的に公共施設や学校に収容し、非常食や水が備蓄されました。湛江の村では村幹部が夜通し家々を回り、「一人も取り残さないように」と避難を呼びかけたといいます。消防や武警も投入され、腰まで水に浸かりながら住民を背負って避難させる様子が見られました。
暴風雨の中、電力や通信網は次々と破壊されました。湛江では電柱が倒れ、変圧器が損傷。夜になると街全体が停電し、暗闇の中で風と雨の音だけが響きました。南方電網公司は約1万人を動員し、発電車170台と発電機500台を現地に派遣して復旧作業にあたっています。通信が途絶した地域もあり、家族と連絡が取れないという声がSNS上で相次ぎました。
農業への打撃も深刻です。塩水が田畑に流れ込み、稲作や果樹園が全滅した地域もありました。養殖施設の破壊で漁民たちは「一年分の収入を失った」と肩を落としています。国家応急管理部は道路や橋、学校、病院などの復旧費用として中央から2億元を拠出。しかし、観光業と飲食業への打撃は甚大で、国慶節と中秋節が重なる大型連休中の観光地は一斉に閉鎖されました。宿泊予約のキャンセルや海産物の廃棄が相次ぎ、ある飲食店主は「客も魚も全部いなくなった」と嘆いています。
今回の台風21号は、9月以降相次ぐ台風被害の延長線上にあります。9月19日には台風17号が広東省汕尾に上陸し、豪雨で内陸部が冠水。24日には台風18号が陽江から湛江にかけて上陸し、最大風速45メートル毎秒の暴風が家屋や農作物を破壊しました。連続する台風の襲来により南部沿海の地盤は緩み、河川の水位が高止まりしており、今回の台風では土砂災害の危険性がさらに高まったとみられます。
気象専門家は、南シナ海の海面温度が平年より高いことが、複数の台風が短期間で発生・発達した主な要因だと分析。気候変動の影響も大きく、今後も強い台風の頻発が懸念されています。実際、華南地域では防災インフラの老朽化や避難体制の不備が指摘されており、SNS上では「風が吹くたびに停電と断水が起こる」といった市民の不満も広がっています。
台風が過ぎ去った6日朝、湛江では次第に風雨が弱まり、一部地域で防風警報が解除されました。街には泥が厚く積もり、折れた木々の枝が散乱。住民たちは泥だらけになりながら後片付けに追われました。電力と水道の復旧作業は急ピッチで進められ、公共交通も段階的に再開。商店の多くが店先を掃除しながら再営業の準備を進めています。
今回の台風は、防災体制の脆弱さを浮き彫りにすると同時に、人々の連帯と回復力を試すものとなりました。専門家は「被害からの復旧は単なる復元ではなく、次の災害に備えた強靱性の向上こそが重要だ」と指摘しています。沿岸部の都市が今後さらに強力な台風に直面する可能性を考えれば、堤防の補強や電力・通信インフラの耐風化、地域住民への防災教育など、長期的な対策が急務といえます。
暴風雨の爪痕が残る南の大地で、人々は再び立ち上がろうとしています。風は止み、雨は上がったものの、街角にはなお海の匂いと濡れた土の香りが混じり合って漂っていました。壊れた街並みの中で、人々は静かに箒を手に取り、日常を取り戻すための第一歩を踏み出しています。
(翻訳・吉原木子)
