住宅は本来、安らかに暮らすための港湾であるはずですが、中国では投機と利益追求の象徴となり、巨大なバブルを生み出しました。常住人口わずか33万人の地方都市に、なぜ20社以上のデベロッパーが参入し、100万戸を超える住宅を建設したのでしょうか。河南省林州市(りんしゅうし)の不動産バブルは、中国の不動産市場における異常な繁栄の仕組みと、その背後にある深刻な矛盾を浮き彫りにしています。

繁栄の幻想と「土地財政」の枷(かせ)

 現在、中国の都市化率はすでに66.8%に達しています。県城は都市と農村をつなぐ要の存在であり、農村人口を吸収し、地域発展を牽引する役割を担っています。しかし経済成長を追い求める過程で、一部の地方政府は土地財政に過度に依存し、その結果、不動産業界の異常な膨張を招きました。河南省林州市は、その典型的な事例といえます。

 林州市の市街地における常住人口はおよそ35万人です。1世帯3人、1人当たりの住宅面積約12坪という基準で試算すると、合理的な住宅需要は約11万戸にとどまるはずです。都市化の進展による新規人口の流入や、既存住民の住宅改善需要を考慮しても、住宅供給の上限は15万戸程度が妥当といえます。

 ところが、2025年3月時点で林州市において建設済み、あるいは建設中の住宅総数は100万戸を突破しており、そのうち竣工済みの住宅だけで65万戸を超えています。つまり、住宅供給量は実際の需要の約7倍に達し、1人当たりで換算すると住宅を3戸近く保有できる計算になります。これほど膨大な在庫は、地元住民の実際の居住需要や購買力をはるかに上回っています。

デベロッパーの「利益追求ゲーム」と市場の「不均衡シグナル」

 この過剰な住宅供給の背後には、2020年から2025年の間に27社のデベロッパーが累計約1.7兆円(837億元)を投じた投資ブームがあります。国有企業、省内の有力不動産会社、地元のデベロッパーまでもが、不動産黄金時代の終盤に相次いで参入し、「土地を囲って着工する」狂乱の宴を繰り広げました。市場の期待が「上昇」から「停滞」へと転じると、この大規模で高密度な開発は、まさに空中楼閣のように危うく揺らぎ始めたのです。

 林州市のベテラン不動産仲介業者・李マネージャーによれば、現在の当地の中古住宅平均価格は1坪あたり約14万円(1㎡あたり2000元)にまで下落し、2018年のピーク時から約7割も目減りしました。余剰住宅を処分しようとする住民の多くは、やむなく損切りしてでも売却し、早く「解放」されたいと願っています。新築マンション市場は閑散としており、デベロッパーが「頭金約100万円(5万元)」「ゼロ頭金」さらには「マイナス頭金」といった極端に魅力的な販売手法を打ち出しても、成約件数は低迷したままです。

複合要因が引き起こしたバブル崩壊

 林州市の不動産市場がここまで困難に陥ったのは、複数の要因が重なった結果です。

 まず、地方政府の「土地財政」への過度な依存です。2017年から2022年の間、林州市の土地売却収入が市財政総収入に占める割合は42%に達し、全国平均を大きく上回っていました。財政収入を確保するために地方政府は土地開発規制を緩和し、供給は「申請すればすべて承認」となり、結果として不動産の過剰開発が直接的に誘発されました。

 次に、「利益共同体」による非合理な繁栄です。中国人民大学不動産研究センターの劉教授は指摘します。「住宅価格の上昇予測に駆動され、地方政府は土地譲渡収入を得て、デベロッパーは高速回転で利益を上げ、購入者は資産価値の上昇を期待する。こうした『利益共同体』が形成されていた。しかし予測が反転すると、たちまち悪循環に陥る」

 また、投機需要という「ブラックホール」もありました。不完全統計によると、林州市の住宅の約40%は地元以外の投資家によって購入されています。彼らは安値と値上がり期待に惹かれ、投機的需要の「貯水池」と化しました。

 購入者の王さんは嘆きます。「当初3戸の住宅を購入した時、デベロッパーは高速鉄道駅が完成すれば価格が倍増すると約束した。しかし今では物件価値が半減し、高額なローンの返済で息もできない」

 最後に、人口流出と高齢化の二重の打撃です。林州市の伝統産業は転換が遅れ、若い労働力は流出し続けています。2025年の最新データでは、当地の60歳以上の人口比率は26.3%に達し、全国平均を大きく上回りました。この人口構造の悪化が住宅の実需をさらに弱め、市場の供給過剰と需給バランスの崩壊を深刻化させています。

「不動産バブル」の重い代償:資源浪費とリスクの拡散

 過度な不動産開発は、林州市に耐えがたい重い代償をもたらしました。具体的には以下の点に表れています。
巨額の資源浪費

 試算によれば、林州市で遊休状態にある住宅資産の価値はすでに約9000億円(450億元)を超えています。この巨額の資金が実体経済や民生分野に投じられていれば、地域発展に強力な原動力を与えられたはずです。

住民の負債リスクの急増

 住宅価格の下落により、多くの購入者が負の資産を抱え込む事態に陥り、一部の家庭はローン返済を断念せざるを得ない状況に直面しています。

経済の実業離れによる連鎖反応

 不動産市場の低迷は、上下流の産業へ急速に波及しました。ある建材企業の責任者は「工場の稼働率は3割にも満たず、従業員の半数以上を削減せざるを得なかった」と語ります。不動産という「機関車」が失速したことで、経済全体の脆弱性が露呈したのです。

財政収入の急減と公共サービスの制約

 2024年に林州市の土地売却収入は、2020年のピーク時と比べて83%も暴落しました。財政収入の急減は、政府が公共サービスを提供する能力を直接的に弱めています。

「集団的狂乱」の終焉と「多主体供給」の青写真

 住宅問題は国家経済と国民生活に直結し、個人にとっては最大の消費であり、家庭にとっては最重要の資産であり、都市にとっては中核的な公共政策です。

 林州市における不動産開発の歩みは、間違いなく多くの主体が参加した集団的な狂乱でした。しかし狂乱が終わった後に残されたのは、見るも無残な現実であり、その状況は痛ましいものです。人口30万人余りの中規模地方都市に100万戸の住宅――これは驚異的な数字であると同時に、重い教訓でもあります。

 林州市は決して例外ではありません。中国住建部が2025年第1四半期に行った調査によれば、全国ですでに180を超える県級都市が住宅供給過剰に直面しており、そのうち50以上の都市では空室率が35%を超えています。この数字は、不動産市場の構造的な矛盾が一・二線都市から広大な県域へと拡散していることを示しており、国家レベルでの高度な関心と慎重な対応が急務であることを物語っています。

(翻訳・藍彧)