最近、中国で絶大な人気を誇るすっぱい白菜漬け入り魚料理「太二酸菜魚(タイアール・スァンツァイユー)はなぜ誰も食べなくなったのか」という話題が中国のネット上で大きな注目を集めました。複数のメディアによると、九毛九(ジウマオジウ)グループが展開する「太二」チェーン店が全国各地で相次いで閉店し、杭州市や瀋陽市などの都市では複数の店舗に「営業停止」の張り紙が掲示されました。特に瀋陽市では、全ての店舗がすでに閉店しています。
九毛九グループの看板ブランドである「太二酸菜魚」は、かつては2時間待ちでも食べたいと長蛇の列ができ、「酸菜(漬け物)の方が魚より美味しい」と評され、中国の外食業界で名を馳せました。しかし、わずか半年間で88店舗が閉鎖され、九毛九グループが黄金期を正式に終えたことを象徴する事態となっています。
時価総額は約1兆円から約570億円へ縮小
九毛九国際控股有限公司は広州に本社を置き、「太二」「怂火鍋(そんひなべ)」「九毛九西北菜(せいほくさい)」の3つの人気火鍋ブランドを展開していますが、2025年上半期にはいずれも売上が大きく減少しました。
『21世紀経済報道』のデータによると、九毛九の株価は2021年初頭の史上最高値約720円(37.8香港ドル)から、2025年9月19日には約41円(2.18香港ドル)まで下落し、累計で94%の暴落となりました。わずか1年間でも60%の下落を記録しています。
この4年間で時価総額は約1兆円(550億香港ドル)から急落し、わずか約570億円(30億香港ドル)にまで縮小しました。消えた資産額は約9900億円(520億香港ドル)を超えています。
同社の創業者である管毅宏(かん・ぎこう)も、2年連続で『新財富』の富豪ランキング500から外れる結果となりました。
かつて2時間待ちの人気店、今や各地で閉店
『国際金融報』の報道によると、九毛九グループが保有するレストランは729店舗ありますが、今年上半期だけで88店舗を閉鎖し、閉店率は10%を超えました。さらに太二ブランドでは10店舗が直営からフランチャイズに切り替えられ、本部がコスト削減とリスク回避に動いていることを示しています。
太二ブランドはもともと2015年に九毛九が立ち上げたサブブランドにすぎませんでしたが、急速に成長し、主力だった西北菜ブランドを追い抜き、会社の収益の柱となりました。2020年には「太二酸菜魚」の母体である九毛九が香港市場に上場しました。財務報告によれば、2019年の太二酸菜魚の回転率は4.8に達し、海底撈(ハイディラオ)と肩を並べるほどの人気を誇っていました。
「4人以上は入店不可」「相席禁止」「席の追加禁止」「テイクアウト不可」といった独自の店内ルールも話題となり、太二は外食業界のトレンドの王者と称されました。差別化された経営と個性的なブランドイメージによって、若者の間で一気に知名度を高め、新店舗が雨後の筍のように次々とオープンしました。
しかし好調は長く続かず、コロナ禍の打撃を受けて2022年には売上と利益が下落しました。価格調整による立て直しを図りましたが、2023年に一時的に黒字化したものの全体的な効果は乏しく、むしろ「値下げのように見せかけて実は値上げだ」といったネット上の批判が増えました。ネットユーザーの間では「前は食べきれなかったのに、今は足りない」「量が減ったのに高くなった」「味が落ちた」といった声が相次ぎ、最新のデータでは回転率は2.2にまで落ち込み、最盛期の半分以下となっています。
2025年上半期、太二酸菜魚の売上急減
業績悪化を食い止めるため、太二は2025年上半期に大幅なブランド刷新「5.0鮮活モデル」を打ち出しました。「活魚・新鮮な鶏肉・新鮮な牛肉」の3つを看板食材とし、メニューを一新、厨房にはより専門的な調理チームを配置し、「新鮮さ」と「作り立て」を前面に打ち出して顧客を取り戻そうとしました。
また、店舗デザインも従来の白黒漫画風から温かみのある木目調へ変更。6人掛けテーブルやオープンキッチンといった新しい要素を取り入れ、家族連れやグループ客をターゲットにしました。
しかし、この転換が市場競争を乗り越えられるかどうかは不透明です。九毛九の経営陣も「いまの外食市場はあまりに激しい競争にさらされている」と認めています。一人当たり約630〜840円(30〜40元)の低価格で市場を狙うファストフードブランドや、1袋約420〜630円(20〜30元)の冷凍惣菜が台頭するなか、太二は「冷凍惣菜」と「新鮮食材」を売りにするライバルの板挟みになり、競争力を失いつつあるのです。
プリメード食品騒動
最近、中国で議論を呼んでいる「プリメード食品(半調理食品)」騒動は、太二酸菜魚にも波及しました。杭州市のある太二店舗でメディア記者が実地検証を行ったところ、注文からわずか7分で3品がすべて提供されました。店員は「酸菜魚に使う魚は本部から一括配送され、店に到着後に切り身にして漬け込んでいる」と説明しました。
しかし業界関係者は「もし本当に店内で魚をさばいて調理しているなら、最低でも20分以上はかかるはずだ」と指摘しています。この6〜7分の提供スピードに、多くの消費者が「実際にはあらかじめ調理された食品を使っているのではないか」と疑念を抱きました。
酸菜魚を食べに来る人々にとって「活魚をその場で調理する」ことは当然の期待です。もし実際には冷蔵・冷凍の切り身や半調理品を出されるのであれば「家で半調理食品を買って温めた方が安くて量も多いのに、わざわざ店に行く必要があるのか」という声が広がりました。酸菜魚の人気が落ちただけでなく、「半調理食品を出しているのでは」と疑われたことで、太二のブランドイメージ低下は一層加速しました。その背景には、消費者の嗜好の変化だけでなく、競争激化による市場構造の変化があるのです。
経済低迷で飲食業界に「閉店ラッシュ」
九毛九グループの苦境は決して特殊な例ではなく、中国全体の外食産業の寒冬を映し出しています。2024年、中国の飲食業界では409万店舗が閉店し、閉店率は61.2%に達しました。今年上半期には新たに134.7万社の飲食関連企業が登記されましたが、同じ時期に閉店した店舗は105.6万店にのぼります。
かつて名声を誇った火鍋チェーン「呷哺呷哺(シャブシャブ)」は、2025年上半期に約17〜21億円(0.8億〜1億元)の純損失を計上すると予測されています。2021年以降、4年連続で累計損失は約250億円(12億元)を超え、経営難から2024年には219店舗を閉鎖しました。
業界のリーダーである「海底撈」でさえも例外ではありません。2025年上半期には売上高が前年同期比3.66%減、純利益は13.72%減となり、2022年以来初めて売上と利益が同時に落ち込みました。これを受けて分析機関は今後3年間の業績予測を引き下げ、香港市場における目標株価を約380円(20香港ドル)から約330円(17.5香港ドル)に調整しました。
経済が低迷し、市場の供給過剰と競争激化が続くなか、中国の外食企業はすでに低利益時代に突入しています。業界関係者は「市場の変化に素早く適応し、消費者から信頼を得られるブランドだけが過酷な競争の中で生き残れる」と指摘します。しかし、その条件を満たせる企業が果たしてどれほど存在するのでしょうか。
(翻訳・藍彧)
