9月27日夜から28日未明にかけて、雲南省昆明市官渡区永中路の「海楽世界夜市」で、およそ6時間にわたる激しい衝突が発生しました。衝突の当事者は夜市の屋台商と城管(都市管理当局)の職員であり、その後到着した警察も加わりました。目撃者によれば、現場は「鍋や茶碗、ベンチや椅子が宙を舞っていた」と形容され、怒った屋台商たちは手近な物を次々と投げつけ、城管側は暴力的な手段で応じました。その結果、多数の屋台商が負傷し、多くの人が拘束され、商売道具である屋台ワゴンも押収されました。混乱の様子は数百人の市民が目撃しましたが、当局からの公式発表はなく、現時点でも詳細は目撃証言やネット上に拡散した動画に依拠しています。
今回の衝突は決して孤立したものではなく、中国の基層社会における屋台商の権益と都市管理の対立という、長年続く矛盾を映し出しています。海楽世界夜市は昆明市内でも有名な夜市で、数百の屋台が軒を連ね、焼き串や米線(ミーシェン)など多彩な料理を提供し、地元住民や観光客に親しまれてきました。しかし近年、「市容整治」と呼ばれる都市改造の動きが強まる中で、こうした夜市は繰り返し取り締まりの対象となっています。全国各地でも同様の事件が頻発しており、例えば2024年8月には成都で城管による小商人への暴行がきっかけとなり、千人以上の市民が集まり抗議する騒ぎが4〜5時間続きました。さらに同年9月には湖北省孝感市安陸で、女性が屋台を守ろうと刃物を持ち出し城管と対峙し、最終的に警察に制圧される事件も起きました。こうした出来事は、経済的に追い詰められた庶民の生存危機と、強権的な執行の現実を浮き彫りにしています。
証言や映像によれば、衝突は27日夜9時頃に始まりました。この日、屋台商たちは「整治」行動が前日で終了したと聞き、元の場所に戻って営業を再開しました。多くの商人にとって屋台は一家の唯一の収入源であり、長期間の休業で生活は限界に達していました。そこへ大勢の城管職員が集結し、屋台商を強制的に排除し仮設設備を撤去しようとしました。言い争いは瞬く間に暴力沙汰へと発展。映像には、一人の屋台商が城管に押し倒され殴られる場面が映っており、それが群衆の怒りを爆発させました。屋台商たちは鍋や皿、プラスチック製の椅子や鉄枠までも投げつけて反撃。現場には怒号と叫び声が響き渡り、食べ物の残骸が散乱し、埃と焦げた匂いが充満していました。
増援として到着した警察は警棒や盾を手に強制的な鎮圧を開始し、催涙スプレーや電気警棒を使用したとの報告もあります。多数の屋台商が倒れ込み、若い男性が頭部から出血している姿や、女性が叫びながらも手錠をかけられる様子が動画に映されていました。衝突は翌28日午前3時頃になってようやく収束しましたが、その間に10人以上が負傷し、骨折や打撲で病院に搬送されました。警察は数十人を拘束し、その一部には「公務執行妨害」や「集団で秩序を乱した」などの罪名が適用されました。また、城管当局は複数の屋台ワゴンを押収しました。商人にとっては数万元を投じた生活基盤そのものであり、現場では市民が「俺たちの飯碗を返せ!」と叫んだものの、すぐに警察に排除されました。
海楽世界夜市は数千平方メートルに及び、ピーク時には200以上の屋台が営業していました。衝突が起きたのは週末の繁忙期で、経済的損失は甚大でした。背景には、半月ほど前(9月13日頃)に行われた「夜市整治」行動があります。当局は「都市イメージの向上」を理由に夜市を突然閉鎖し、その後新たな屋台主を募り高額な出店料を徴収しました。しかし、登録に行った既存の商人たちは、承認された400以上の屋台の多くが「コネを持つ新規業者」に割り当てられ、自分たちが排除されていることに気づきました。さらに彼らは過去数年間で衛生費や管理費、臨時許可料などを1万元以上支払ってきたにもかかわらず、当局はその都度「方針変更」を理由に取り締まりを繰り返してきました。ある商人代表は「金を払っても追い出される。いったいどこに保障があるのか」と憤りを示しました。
こうした矛盾は昆明に限らず全国に広がっています。夜市経済は数百万の家庭の生計を支えてきましたが、都市管理当局の視点からは『無秩序の象徴』とみなされがちです。統計によれば、2024年前半だけでも全国で50件以上の類似事件が発生しました。経済の低迷、雇用の悪化、地方財政の逼迫といった要因が、衝突の頻発につながっています。専門家は「透明で公正な権益保障制度の欠如こそが事件多発の根本原因だ」と指摘します。
今回の事件は、複数のSNSを通じて広まりました。動画は数万回以上リツイートされ、海外メディアも報じています。『大紀元』など一部報道は、基層社会の統治が危機に直面している事例だと論じました。
ネット上でも議論は瞬く間に拡散し、多くの声が屋台商に同情を寄せ、城管や政府の強権的な姿勢を批判しました。代表的なコメントには「国内メディアは一切報じず、海外だけが真実を伝えている」「商人たちはようやく息をついているだけなのに、さらに出店料を取るのか」「『人民のため』という言葉は信じるな」「城管はもはや暴力団まがいだ」「中国の闇を暴き、世界に見せよ」といったものがあり、累計で10万以上の「いいね」が集まりました。中には「白紙運動」と結びつけ、さらなる抗議を呼びかける声も見られました。
10月1日時点で事態の行方はいまだ不透明です。負傷者の治療費は誰が負担するのか、拘束された人々は釈放されるのか、押収された屋台ワゴンは返還されるのか。いずれも解決していません。昆明市官渡区政府の公式サイトには「市容整治」に関する一般的な告知があるのみで、夜市衝突への言及は見られません。国際的な観察者は、この事件が社会的不満の蓄積を示しており、制度改革なしにはさらに大規模な抗議に発展しかねないと警鐘を鳴らしています。
海楽世界夜市での衝突は、中国が掲げる「共同富裕」という目標の矛盾をも象徴しています。一方で消費の高度化を推進しながら、他方で庶民の生存空間を圧迫する政策。屋台商たちは「混乱の元凶」ではなく、都市の活力の一部なのです。対立ではなく対話こそが矛盾を解決する道であり、政府が民意に応え、生活の糧を失った人々に公正な回答を示すことが求められています。
(翻訳・吉原木子)
