中国の外食産業では、すでに何年も前から「プリクック食品」が広く出回っており、消費者からの評判は決して良いものではありません。そんな中、中国の有名チェーン「西貝(シーベイ)」が「提供する料理はすべてプリクック食品だ」と告発され、一気に世論の渦中に立たされました。
この話題は連日ネット検索ランキングを席巻し、他の飲食チェーンにも疑惑が波及、ついには中国の公式メディアまでが報道に乗り出す事態となっています。
専門家は「食品安全問題の頻発は当局の長年の監督不力に原因がある」と指摘しつつ、こうした論争がネット上で過熱する背景には、社会矛盾から国民の目をそらそうとする当局の思惑も透けて見えると警鐘を鳴らしています。
「プリクック食品」疑惑で矢面に立たされた西貝
9月15日、中国のSNS「微博(ウェイボー)」の検索ランキングに、西貝に関するニュースが少なくとも5件並びました。発端は9月10日、あるネット有名人が「西貝は全部プリクック食品だ」と攻撃したことでした。その後、関連話題が相次いで検索ランキングに入りしました。
西貝餐飲は内モンゴルで1988年に創業し、現在は中国国内に約400店舗を展開しています。9月12日、董事長の賈国龍(か・こくりゅう)はメディア取材に応じ、西貝は大きな打撃を受け、売上が直ちに落ち込んだと述べました。9月10日と11日の2日間で、それぞれ約2000万円(100万元)の売上減少があったといいます。
賈国龍は、9月12日から西貝の全店舗で厨房を公開し、消費者がどの料理の調理過程でも自由に見学できるようにすると発表しました。また、「羅氏13品」の具体的な調理過程をネット上で公開しました。彼は繰り返し、「プリクック」と「前加工(下ごしらえ)」は異なる概念であると強調しました。すなわち「前加工」とはあらかじめ下ごしらえをすることであり、「プリクック」とは完成品のことだという説明です。しかし、厨房公開はわずか2日で終了しました。
昨年3月、中国国家市場監督管理総局は通知を出し、初めて「プリクック」を明確に定義しました。すなわち「工業化によりあらかじめ加工され、加熱や調理を経て初めて食べられる包装済み料理」であり、厨房で作られた料理はこの範疇に含まれないとされました。
中国メディア「澎湃新聞」は、公式専門家の見解を引用し「厨房から配送される食事はプリクック食品には分類されない。しかし、一般国民の認識する『包装され、加工済みの食品=プリクック食品』というイメージとは大きな隔たりがあり、受け入れられにくいだろう」と伝えています。
一方、四川省の「紅星新聞」は9月14日に報じたところによると、賈国龍がとあるチャットグループに投稿した発言のスクリーンショットが流出しました。彼は「私の対応の仕方は間違っていた、改める。料理を作る者は食べる者のために回るのだから、あなたが良いというやり方に従う」と述べていました。
また、中国の公式メディアである「人民日報」「新華社」「CCTVニュース」が相次いでこの話題を取り上げました。「人民日報」は9月14日の評論記事で「プリクック食品の問題は消費者の知る権利に関わるものであり、特定企業だけではなく、業界全体の健全な発展に関わる」と論じました。
このほか、多くの有名チェーン店にもプリクック食品使用の疑惑が向けられています。9月14日、「財通社」の公式アカウントは「食卓の『高級スープ』詐欺:西貝・吉野家・犟骨頭(ジャングゥトウ)・米村など有名ブランドはどのように粉末スープで消費者の財布を搾取しているのか」と題する記事を発表し、複数の有名外食チェーンを批判しました。また、中国で絶大な人気を誇る「太二酸菜魚(タイアール・スァンツァイユー)はなぜ誰も食べなくなったのか」という話題も9月15日に検索ランキング上位に入りました。
蓮根が黒くならない理由とは?
「飲食店で使われているプリクック食品、半加工品がどれほど蔓延しているか、今日は皆さんにお見せします。この蓮根のスライスは、安息香酸ナトリウムという防腐剤と、亜硫酸ナトリウムという漂白防腐剤を加えた半加工品です。あるレストランでは、調理のスピードを上げるためにこうした食材を使うのです。水を切って炒めるだけで完成します。私が説明しなければ、きっと新鮮な蓮根を切って炒めたものだと思うでしょう。しかし、こうした添加物を入れると、どう炒めても黒くならない。不思議だと思いませんか」
いくつの添加物を知っているか?
「これが本当の科学の猛技(のうぎ)です。ひとつずつ紹介しましょう。これは焼き芋風味の香料で、遠くからでも焼き芋の香りが漂います。次はスイートコーンパウダー香料、道端のトウモロコシの香りや甘みが足りないときに使われます。これはドリアン香料で、以前も報道されましたが、バナナをつぶして少し加えれば、まるでドリアンの果肉のような味になるのです。これはガラスのようなパリパリ感を出す添加物で、氷砂糖を使ったサンザシ飴専用です。これを加えると外側の砂糖がより硬く、保存期間も延び、傷みにくくなります。これは稲花香という香料で、お米に混ぜて炊くと、ご飯が香り高く仕上がります。つまり、あなたが作れないのではなく、単にその添加物を入れていないだけなのです」
疑念の中で拡大するプリクック食品産業
中国では長年にわたり、中国当局の不作為によって「毒食品」「毒粉ミルク」「下水油(げすいゆ)」など食品安全事件が相次いできました。近年、中国当局はプリクック食品の利点を盛んに宣伝し、2021年から急速に投資ブームとなりました。
2023年2月には、プリクック食品が初めて中国共産党中央の「一号文件(最重要政策文書)」に盛り込まれ、政府は学校給食への導入を推進しましたが、国民から強い反発を招きました。各地で保護者たちは、防腐剤を含むプリクック食品が子どもの健康を損なうことを懸念し、「手作り弁当を持たせる運動」が広がりました。
中国当局によるプリクック食品の国家安全基準はいまだに制定されていないにもかかわらず、この産業は政策支援を受け急速に拡大しています。中国の市場調査会社アイメディア・リサーチが発表した『2024—2025年中国プリクック食品産業発展ブルーブック』によれば、2024年の中国本土におけるプリクック食品市場規模は約9.7兆円(4850億元)に達し、前年比33.8%の増加となりました。
「X(旧ツイッター)」上では、多くのネットユーザーが、この急拡大の背後に中国の高官が関与しているのではないかと疑念を示しています。あるネットユーザーは「プリクック食品市場はあまりに魅力的だ。権力者がこれほど大きな経済利益を見逃すはずがない。鎌があるなら刈るのは当然。権力を握っていれば、好きな時に好きなだけ刈り取るのだ」とコメントしています。
中共当局に「世論誘導」の疑い
時事評論家の李林一(り・りんい)は、大紀元に対し次のように語りました。
「中国の食品安全問題は、周知の通り中国当局の長年にわたる監督不行き届きと腐敗によって引き起こされている。近年、中国当局はプリクック食品を強力に推進しているが、いまだに安全基準が確立されていない。仮に基準があったとしても、有効に実施されることはなく、あるいは罰金徴収の道具にされてしまうのが実情である」
李林一は、中国のネット空間は当局の厳格な管理下にあり、こうした話題の加熱は多くの場合、中国当局が意図的に仕掛ける世論操作、いわゆる「世論誘導」であると指摘し、「今回の件もまた、政治・経済・社会の矛盾から国民の目をそらすためのものかもしれない」と語りました。
(翻訳・藍彧)
