「困窮すれば馬駒橋(マージューチャオ)へ」と言われた北京郊外の人材市場は、いまや人余り・仕事不足・賃金低下の三重苦に直面しています。かつて出稼ぎ労働者(農民工)の街として多くの労働者を受け入れてきたこの場所は、停滞する中国経済の縮図になりつつあります。
北京市最大の早朝日雇い拠点
馬駒橋は北京南東の六環道路沿いに位置し、北京亦荘(えきそう)経済開発区を背後に抱えています。過去20年余り、この開発区に進出した多くの製造企業や物流会社が臨時労働者を必要としてきたことから、馬駒橋一帯には日雇い労働者が集まる一角が形成され、多くの求人が並ぶようになりました。現在では、毎日数千人規模の労働者が日雇い仕事を求めて集まっています。
現地の職業紹介所には手書きの求人札がずらりと並んでいます。「自動車部品工場 日給約5400円(270元)」「電子工場 日給約4400円(220元)」「医薬品倉庫 日給約4000円(200元)」「警備員 月給約8万円(4000元)から」「食品倉庫 時給約400円(20元)」といった具合です。また、単に「日払い××元」とだけ書かれ、職種の説明がないものもあります。さらに、給与欄に白紙を貼り付けて書き直している札も目立ち、まるで量販店の値札のように、その場の状況で頻繁に価格が変更されています。
ここに集まる求職者は大きく三つのタイプに分かれます。第一は、すでに日雇いや長期の仕事を見つけている労働者で、商業街のバス停に殺到し早朝の送迎バスに乗り込む人々です。第二は、路上で少人数募集の仕事を待つ日雇い労働者で、呼ばれるとそのまま現場に向かいます。第三は、職業紹介所に入って応募する人々で、これが最も多く、定員に達するとすぐにバスで工場へ送り出されます。
全国各地から来た出稼ぎ労働者は毎朝ここに集まり、日雇い仕事を得ようとしてきました。中には自前でヘルメットやモップを持参する人もおり、その光景は数十年続いてきました。馬駒橋は新たに移り住んできた人々にとって最初の拠点となり、ここで彼らはすぐに働き始めることができたのです。
しかし近年、中国経済の減速により、この地域はもはや膨大な求職者を吸収できなくなっています。不動産市場の低迷で建設現場の需要は減り、賃金も下落しました。工場は若く専門性のある労働者を優先する傾向が強まり、多くの高齢労働者は仕事を見つけるのが難しくなっています。
45歳が分岐点
ある自動車部品工場の日雇い募集を行う職業紹介所では、朝8時から夜8時まで日給約4600円(230元)という低い賃金で募集をかけ、わずか一晩で90人以上を集めました。応募者はすべて40歳未満で、工場では保険バンパーの取り付けやラベル貼りといった雑務を任されるだけですが、それでも年齢制限があります。現場の採用担当者は「作業自体は重労働ではないが、人が多すぎるからだ」と説明し、上限を「せいぜい42歳まで」と明かしました。
かつて馬駒橋は「困窮者にとって最後の希望」とされてきました。しかし今では、中国経済の停滞を映し出す残酷な現実の象徴となっています。ここで仕事を探す人はますます若くなり、一方で賃金は下がり続けています。多くの労働者が徹夜で待ち続けても、結局は仕事にありつけずに帰らざるを得ません。
黒竜江省出身の王さん(女性)は、2022年に製薬工場を解雇されて以来、馬駒橋で仕事探しを続けています。43歳の彼女は以前、工場で薬剤の錠剤を製造していましたが、年齢を理由に解雇されました。彼女は中学校しか卒業しておらず、多くの若い競争相手が高校卒業の学歴を持っているといいます。
ほぼ毎日、運を頼りに馬駒橋へ足を運んでいるものの、仕事に就けるのは週に4~5日程度です。しかも、今では最も条件の良い仕事でも日給約3600円(180元)にしかならず、かつては賃金がもっと高いうえ食事も提供されていました。
王さんは、すでに年金と医療保険の掛け金を支払うのをやめています。将来受け取る頃には、政府の年金基金や医療保険基金が底をついているのではないかと不安を抱いているからです。
彼女の息子は現在13歳で、黒竜江に住む祖父母と暮らしています。最近は息子への小遣いも減らさざるを得なくなり、「本当ならもっといい生活をさせたかったのに、もう駄目になった」と嘆きました。
馬駒橋の労務市場では、45歳が大きな分岐点となっています。職業紹介業者はこの基準で労働者を振り分け、職種を決めます。ある職業紹介業者は「馬駒橋で一番余っているのは50歳以上の出稼ぎ労働者だ。工場のライン作業が必要としているのは、いつも若い人だけだ」と語りました。
低賃金で遠距離の仕事でもやらざるを得ない
河北省邯鄲市(かんたんし)出身の54歳・李さん(男性)は、北京で暮らし始めてほぼ4年になります。これまでは順義区(じゅんぎく)で働いていましたが、旧正月で故郷に戻った後、再び上京して馬駒橋で仕事を探すことにしました。ところが5日間通ってみて、仕事は乏しく、人ばかりが多いことを痛感しました。
李さんは「今の馬駒橋は競争が激しいうえ、職種によっては年齢制限まである。それに給料も下がっている」と語ります。彼はかつて宅配便の仕分け作業に応募しましたが、日給は約3000円(150元)で、朝7時から夜7時までの12時間労働でした。さらに勤務地が遠く、往復の移動に3時間もかかってしまいます。
同郷の人からは、以前は馬駒橋での宅配便の仕分けや荷下ろしの仕事なら日給約3600円(180元)はあたり前で、ネット通販の大型セール「ダブルイレブン(独身者の日)」前後には約7000円(350元)まで跳ね上がったと聞いていました。しかし、今では稼ぐのが非常に難しくなっているのです。
半日労働約1600円でもすぐに人が集まる
ある職業紹介所が朝に開けると、女性職員が「半日勤務、約1600円(80元)」と繰り返し声を張り上げました。その仕事は午前7時から正午までの宅配便会社での荷下ろし作業で、「大型荷物も小型荷物もある」とのことです。半日で得られる収入は少なく、多くの人が説明を聞いて首を振り、立ち去りました。しかし1600円と食事なしの条件にもかかわらず、最終的にはすぐに7人の労働者が集まりました。
別の人材紹介所では、入り口の机に置かれた拡声器が「日給約3000円(150元)、その日のうちに支払い、男女不問」と女性の声で繰り返し流されていました。仕事内容はシール貼りで、こちらもすぐに定員が埋まり、午後5時半には女性を中心とした労働者たちがバスに列を作り、作業現場へ送られていきました。
記者が取材した際、ある元請けの顧(こ)さんの周りには20人ほどの女性が集まっていました。彼女たちの仕事は果物の包装で、時給は約320円(16元)。顧さんは「あと2人集まれば出発する」と話し、「20分前にここに来たばかりなのに、瞬く間に人が集まった」と語りました。彼は「今は仕事が少なく人が余っているから、採用は非常に簡単だ」と率直に明かしています。
一方で、悪質な仲介業者も馬駒橋に姿を見せています。彼らは高額の手数料を取り立てるだけでなく、違法な仕事を紹介することもあります。こうした状況を是正するため、政府は2.5キロ離れた場所に新たな公式の労働市場を設立し、トイレや無料の朝食を提供しています。それでも多くの労働者は依然として馴染みのある馬駒橋を選び続けています。
地元政府が馬駒橋を整理したいと考える理由は他にもあります。それは、この場所があまりにも露骨に、当局が否定し続けてきた経済の困難を映し出してしまうからです。市場の監督当局は「一部のネガティブなことは、人々に見せてはならない」として、メディアがここで取材することを禁止しています。
(翻訳・藍彧)
