2025年9月3日、北京の天安門広場で大規模な軍事パレードが行われました。当日の午前、式典の最後には恒例の「平和のハト」の放鳥が実施され、一斉に8万羽ものハトが放たれました。しかし、本来は平和を象徴するはずの場面が、思わぬ形で「ハトの大惨事」へと変わりました。猛暑や輸送の負担、長期間狭いカゴに閉じ込められていたことが原因で、多くのハトが熱中症にかかり、迷子になったり、水に落ちたりする事態が相次ぎました。この様子は現場やSNS上に投稿され、多くの映像が拡散され、大きな話題となりました。
この軍事パレードを万全に進行させるために、北京当局は数日前から周辺住民に対して異例の制限を設けました。米紙ワシントン・ポストによれば、パレードルート沿線の住民は、当日の朝、「火を使って料理をしてはならない」と通達され、料理の煙が天安門広場上空の視界を妨げることを避けるため、天然ガスの供給まで一時的に停止されました。その代わりとして、政府は住民に、ロールパン、四川漬物、茶蛋、などの「朝食パック」を配布しました。また、沿道の商店や学校、オフィスビルなどの主要道路が封鎖され、住民にはできる限り自宅で留まるよう求められました。さらに当局は数万人規模のボランティアや警備要員を動員し、人の流れや秩序が保たれる様、徹底的に管理しました。
そして軍事パレード当日、8万羽のハトが一斉に放たれました。公式からの説明では「鳩は、主に北京市民から提供された」と言われていました。しかし、実際には河北や天津などの北京以外の省や市から急きょ集められたものも少なくなかったと愛好家は証言しています。パレードのためにハトたちは数日間カゴの中に閉じ込められ、水分補給も運動もできない状態でした。映像には、カゴの扉が開かれるとハトたちが一斉に飛び出す様子が映っていました。しかし、多くは羽毛が乱れ体力を失い、飛び立った直後に地面に落ちる姿も見られました。広場の石畳に倒れて口を開けて必死にあえぐもの、数メートル飛んで失速するもの、日陰で動けなくなりうずくまるものまでいました。
パレード終了後も広場には多くのハトが残され、弱々しく歩き回る姿や、隅で動けずにうずくまる様子が見られました。善意の市民がペットボトルの水を与えたり、パンをちぎって食べさせたりする光景も目撃されました。SNS上では「平和の象徴のハトが大脱走」の話題であふれ、中国のSNS「微信」や「微博」にはネットユーザーの嘆きが相次ぎました。あるネットユーザーは「おじさんの家の20羽のハト、戻ってきたのは4羽だけ。本当に悲しい」と投稿しました。
一方で「思わぬ収穫」を語る人もいました。あるネットユーザーは「うちの1羽のハトはちゃんと戻ってきただけでなく、知らない3羽まで連れてきた。父は大喜びで『ちょうど4羽でマージャンができる』と言っていた」と笑いながら語りました。コメント欄には「もう元の場所に帰りたくないハトもいるんじゃないか」「若いハトが嫁を連れて帰ってきたんじゃないか」といった冗談も飛び交いました。
同時に、市民による救助の映像や投稿も次々と広まりました。あるネットユーザーは日壇公園で撮影した動画を公開しました。そこには湖で水を飲もうとして、低空飛行してきた白いハトが、木に止まろうとして失敗し、草むらに落下する様子が映っていました。彼は「喉が渇いていたようだったので、手元の水を飲ませてあげた」と説明し、「もし家のハトが帰ってこない人は、日壇公園に探しに来てください」と呼びかけました。
また、別のネットユーザーは什刹海に落ちたハトを救い上げ、その動画を公開しました。さらに「今日1羽の平和の象徴のハトを拾った。もう飛べないようだ。飼い主さんは迎えに来てください」と呼びかける投稿もありました。別のネットユーザーは「午後2時ごろ、店にまた1羽のハトが迷い込んできた。水に落ちたようで、衰弱している。もう帰れないだろう」と語る動画をアップしました。
SNS上では、ハトの境遇に対する同情と、こうした形式主義的な演出への皮肉が入り交じりました。あるネットユーザーは「平和の象徴であるはずのハトがこんな目に遭うなんて、皮肉だ」と嘆き、別のユーザーは「ハトは人間以上に苦労している。強制的に集められ、カゴに閉じ込められ、最後は生死不明になってしまった」と批判しました。
養鳩関係者によれば、中共はこれまでも大規模な式典や軍事パレードのたびに「放鳥儀式」を行ってきた。しかし、結末はいつも似たようなものだといいます。つまり、多くのハトは一度徴用されると二度と帰ってこないのです。「あのハトたちがどこへ行ったのか、生きているのか、死んでいるのか、誰も追及しない」と、ある関係者はため息を漏らしています。
(翻訳・吉原木子)
