ここ20年あまり、中国各地では「古鎮ブーム」が巻き起こり、多くの地方政府が数十億元から百億元(約数百億円から数千億円)規模の資金を投じて、古風な景観を模した観光地を建設しました。文化観光によって経済を活性化させることが狙いでした。
しかし、こうした事業の多くは「大きな掛け声に比べて成果は乏しい」もので、開業後も観光客は少なく、やがて急速に荒れ果て、閑散とした「ゴーストタウン」と化していきました。
分析によれば、この現象の背後には、中国共産党体制の下でゆがめられた政績観と、資本主導による文化の虚無化が潜んでいるとされています。
成都市「龍潭水郷」 4年かけて建設、3年で衰退
四川省成都市の中心部に位置する「龍潭水郷(りゅうたんすいきょう)」は、かつて大きな期待を背負って建設されました。「清明上河図」を模して造られ、敷地は220ムー(約14.7ヘクタール)、総投資額は20億元(約400億円)を超えました。プロジェクトは4年をかけて整備され、蘇州庭園式の建築を主体に、川西地方の民家の特色を融合させ、その規模は江蘇省の周荘古鎮に匹敵するとされました。
2013年4月に開業した当初は、店舗が立ち並び、小橋と水路が調和し、古風な趣を漂わせていました。ところが、わずか3年後には人影もまばらとなり、通りは閑散、店舗は次々と閉店、石段には苔が生い茂り、欄干は錆びて斑に崩れました。現在では空き家と冷え切った風景が広がり、観光客からは「夜に来るとまるでゴーストタウンに迷い込んだようだ」と形容されています。
『只有峨眉山』約120億円の赤字
「文化+演劇」プロジェクトもまた例外ではありませんでした。峨眉山A社と複数の企業が共同出資して開発した『只有峨眉山(ただ・がびさん・のみ)』は、南方初の行進体験型情景劇と称され、雲海を創意の核心とし、「雲の上」「雲の中」「雲の下」という三つの劇場を設置しています。敷地面積は117ムー(約7.8ヘクタール)、総投資額は8.19億元(約164億円)に達しました。
2019年9月末に正式公演が開始されたものの、プロジェクトは毎年赤字を計上しました。財務報告によると、2019年から2024年までの6年間の累計純損失は六億元(約120億円)を超え、2025年上半期もなお1613.83万元(約3.2億円)の赤字となっています。経営不振のため、この演目は今年6月に上演を停止しました。また、プロジェクトには約五億元(約100億円)の借入金が残されており、返済の重圧に苦しんでいます。
常徳市桃花源古鎮 投資1000億円、急速に破産
湖南省常徳市に建設された桃花源(とうかげん)古鎮は、文学作品の陶淵明(とうえんめい)の『桃花源記』に登場する理想郷の原型地に位置し、敷地面積は1600ムー(約107ヘクタール)、総投資額は50億元(約1000億円)にのぼりました。住宅、商業街、大型ホテルを一体化させた総合的な文化観光コミュニティとして計画されました。
しかし、2016年の開業から一年も経たないうちに破産の瀬戸際に追い込まれ、店舗は次々に撤退しました。所有者は物件を売却しようとしましたが買い手は現れませんでした。プロジェクト内の四合院式住宅およそ700戸は総額15億元(約300億円)に達しましたが、値下げして競売にかけても関心を引けませんでした。いまや街区は雑草に覆われ、静まり返り、「最大で最も荒廃した古鎮」と呼ばれています。
張家界大庸古城、期待されたモデル事業は「沈没資金」に
国有企業の張家界(ちょうかかい)観光グループが主導して建設した張家界大庸古城は、総投資額25億元(約500億円)、敷地面積325ムー(約21.7ヘクタール)に及びました。明清時代の様式と土家族の建築風格を融合させ、劇場、文廟、牌坊街などを備え、かつては全国的な文化観光のモデル事業と位置づけられていました。
しかし、2021年の試験運営開始以来、古城は毎年赤字を計上し、4年間の累計損失は10.8億元(約216億円)に達しました。観光客数は低迷し、1日あたり20人にも満たず、唯一の収益源は駐車場という有様です。2024年末時点で同社の純資産はすでにマイナス3.02億元(約60億円)となっています。
長沙市銅官窯古鎮、2000億円投じた巨大プロジェクトも閑古鳥
長沙市に建設された銅官窯(どうかんよう)古鎮は、投資額が100億元(約2000億円)、建築面積は110万平方メートルに達しました。敷地内には8つの博物館、5つの演劇センター、3軒の星付きホテル、20軒の民宿、18カ所の文化観光スポットが設けられ、盛唐期の陶磁器文化の再現を目指した一大プロジェクトでした。
しかし、2018年に急ぎ足で開園した際、入場料は200元(約4000円)と高額で、内部施設は未完成のまま公開され、物価の高さも観光客から批判を受けました。数年後には観光客センター周辺を除き、ほとんどの街区が人影もなく、大量の店舗が閉鎖され、「ゴーストタウン」と化してしまいました。
「文化復興」から「どの古鎮も同じ姿」へ
巨額の資金を投じて建設された古鎮プロジェクトは、本来であれば地域文化の記憶を受け継ぎ、観光経済の発展を担うはずでした。しかし、実際には、どこも同じような造形、ゆがめられた文化、生活感の欠如という同質化の泥沼にはまり込みました。地方政府はGDP評価や投資誘致の圧力の下で、「短期間で成果を出す」の政績を追い求め、市場での生命力を欠いた「使い捨て古鎮」を次々と生み出してしまったのです。
中国問題専門家の王赫(おう・かく)氏は、これらのプロジェクトの本質は市場的産物ではなく政治的産物であり、経済的な実現可能性は低く、その背後には利益供与や腐敗が蔓延していると指摘します。王氏はこう語ります。「中国共産党は本物の文化財を破壊する一方で、偽物の古董や文化を大量生産している。文化は演出化され、生活は景観化され、観光客が感じ取るのは断絶と虚構にすぎない」
真の文化古鎮とは、湖南省の鳳凰古城や山西省の平遥古城、雲南省の麗江古城のように、生活の息づかいが残り、人々が敬意や感情的なつながりを抱ける場所であり、空虚な舞台装置であってはならないといいます。
政績プロジェクトの代償
成都市から長沙市に至るまで、これら「数百億や数千億円の古鎮」が残したものは繁栄ではなく、重い債務と荒涼とした景観でした。次々と派手に着工されたプロジェクトの結果は、空虚な街並みと赤字の数字の羅列にすぎません。そして立ち上げを推し進めた一部の官僚は、事業に絡む腐敗によって失脚する事態にもなりました。
王赫氏はこう指摘します。「これは一種のゆがみである。本物の文化財は人々に敬意を抱かせる力を持つ。しかし、中国共産党はそうした文化財を大規模に破壊し、一連の偽物の古董や偽物の文化財を作り上げている。これは消費者を欺くばかりでなく、市場そのものをも欺いている。本質的にこの政権は無法であり、文化虚無主義を推し進めているのだ」
かつて「文化復興」として包装されたこれらの壮大な計画は、いまや中国における文化観光バブルの典型的な注脚となっています。資本に突き動かされた政績至上の発想は、古鎮から文化の魂を奪い去り、地方に深刻な経済的・社会的負担を背負わせているのです。
(翻訳・藍彧)
