中国恒大(株式コード:03333.HK)は、中国不動産業界の最大手で圧倒的な存在でした。市場時価総額は一時4000億香港ドル(約7.6兆円)に達し、栄華を誇りました。ところが、現在この不動産大手はわずか22億香港ドル(約418億円)にも満たない時価総額のまま、資本市場から静かに姿を消すこととなりました。恒大が香港証券取引所から上場廃止されたことで、総額2.4兆元(約49兆円)にのぼる巨額債務を最終的に誰が背負うのか、数十万戸にも及ぶ未完成マンションの購入者の運命はどうなるのかが、社会全体の最も大きな関心事となっています。
専門家の分析によれば、この巨額債務は最終的に4種類の債権者によって分担されることになり、数十万の住宅購入者は、終わりの見えない抗議や訴えの闘いに巻き込まれる恐れがあるとされています。
恒大の上場廃止、終局はすでに決定
8月12日、恒大は公告を発表し、香港証券取引所が同社の上場資格を取り消す決定を下し、2025年8月25日に正式に上場廃止となることを明らかにしました。恒大は異議申し立てを行わないと表明しました。
実際のところ、上場廃止は既に避けられない結末でした。香港証券取引所の規定では、上場企業が18カ月以上連続して取引停止状態にある場合、強制的に上場廃止とされます。恒大は2022年3月から取引停止となっており、この期間を大きく超過していました。
上場廃止は恒大から公開市場で資金を調達する最後の「生命線」を断ち切っただけでなく、同社の資金難が完全に行き詰まったことを象徴しています。財経ブロガーの劉大(りゅうだい)は次のように指摘しています。「恒大はすでに債務超過に陥っており、上場廃止は最後の体裁を取り繕う布をはがしたにすぎない」。
一般投資家にとって、上場廃止はさらに大きな打撃となります。恒大の株式は今後市場で取引できなくなり、深刻な赤字を抱える同社が株式を買い戻したり再上場したりする可能性は極めて困難です。投資家が保有する株式は紙切れ同然となり、損失は避けられない状況です。
「恒大が再び復活するとの幻想を抱く人もいるが、それはほぼ不可能だ。ましてや、恒大はいまだに膨大な未完成マンションの引き渡しという重圧を背負っている。現状の債務規模と資金繰りでは、とても自力で解決することはできない」と劉大は付け加えました。
債務のブラックホール
恒大の財務報告によると、2023年6月30日時点で同社の総負債は2.39兆元(約49兆円)に達した一方、総資産はわずか1.74兆元(約35兆円)にとどまっていました。仮にすべての資産を売却したとしても、債務の穴を埋めるには到底足りません。
財経コラム「不執着財経(ふしゅうじゃくざいけい)」の分析によれば、この巨額の債務は最終的に以下の4種類の債権者が負担することになります。
第一類:銀行
恒大が抱える借入金の大半は銀行からの融資です。これらが回収不能となれば、不良債権として処理せざるを得ません。特に中小銀行にとっては長期的な資金圧力に直面することになります。
第二類:サプライヤー
恒大がサプライヤーに対して滞納している債務は5500億元(約11兆円)を超えています。建設会社、建材業者、下流の内装関連企業など、多くの企業が資金繰りの断絶で倒産・廃業に追い込まれる可能性があります。こうした企業にとって、恒大の破綻はまさに致命的な打撃です。
第三類:恒大财富の投資家
資金難を緩和するため、恒大はかつて傘下の「恒大财富」プラットフォームを通じ、高金利を提示して自社職員や投資家から資金を集めていました。しかし、このプラットフォームも最終的に破綻し、投資家は全財産を失いました。多くの恒大社員は職を失っただけでなく、蓄えもすべて失うこととなったのです。
第四類:海外債権者
恒大はかつて海外で大量の社債を発行していましたが、上場廃止は事実上の再建不可能を意味し、これらの債務が返済される可能性はほぼありません。
「不執着財経」は次のように結論づけています。「恒大の債務にはほぼ返済の見込みがない。銀行、サプライヤー、投資家、海外債権者は泣き寝入りするしかない。これは巨額の経済的損失であるだけでなく、市場の信頼そのものを揺るがした。信頼の回復には長い時間がかかるだろう」
未完成マンションの購入者が直面する苦境
巨額の債務に加え、恒大の破綻によって残された162万戸の未完成マンションは国民の最大の関心事となりました。政府が進める「住宅引き渡し保証」政策のもと、これまでに約80万戸が引き渡されたものの、依然として70万戸以上が工事停止の状態にあります。
一部のプロジェクトは、外壁や大門だけが建設されただけで、引き渡しが不可能なケースすらあります。たとえば「恒大御湖天下」は長年にわたり工事が止まり、購入者による抗議や訴えも成果を得られていません。
劉大は、現在、一部のプロジェクトが引き渡しにこぎつけているのは、地方政府の調整によるものだと指摘しています。「住宅引き渡し保証」は通常、政府が主導し、銀行が融資を行い、その後国有企業や第三者が引き継ぐことで、かろうじて工事が完了に漕ぎつける仕組みです。しかし、それでも購入者は引き渡しの遅延や住宅品質の低下といった問題を受け入れざるを得ません。
つまり、最終的に恒大の代償を支払わされるのは、最も底辺にいる住宅購入者と株主であることを意味します。彼らは消費者であり投資家でもあり、この危機の中で最も直接的な犠牲者となってしまいました。
不動産高レバレッジ時代の終焉
恒大の崩壊は、中国の不動産業界が長年依存してきた「高レバレッジ・高速回転」の巨大なリスクを浮き彫りにしました。かつてのように、無謀な土地買収、急ピッチでの建設、絶え間ない販売推進による粗放な拡大モデルは、完全に行き詰まりを迎えたのです。
恒大の上場廃止は、単なる一企業の倒産ではなく、1つの時代の終焉を象徴しています。その後に残されたのは、埋めることのできない債務のブラックホール、数十万世帯に及ぶ未完成マンションの住宅、そして業界全体に押し寄せる深刻な調整の波です。
(翻訳・藍彧)
