8月12日、貴州省丹寨県興仁鎮城江村で、世代を超えて城江河のほとりに暮らしてきた苗族の村落が、大規模な強制立ち退きに直面しました。約300人の政府関係者や警察、さらに身元不明の便衣集団が村に押し入り、ブルドーザーの音が響くなか暴力的な撤去が進められました。抵抗した住民はすぐに制圧され、多くの人が負傷したり、身柄を拘束されました。一部の人々はバンに押し込まれました。村の通信は一時的に遮断され、再開後、警察からSNSで抗議の声を上げた村民に対して、警告の電話がかけられたといいます。

 「阻止すれば誰でも連行された。すでに何人も連れて行かれた。残った住民は現場に近づくことさえ許されなかった」とある村民は話しました。別の村民は「補償の話し合いもない強制立ち退きは強奪だ。制服も着用せず暴れるのは暴乱に等しい」と憤ります。しかし圧倒的な力の差の前に、この古い苗族の集落の家屋は次々と壊され、瓦礫と化しました。

 今回の強制撤去の背景にあるのは、貴州省で進められている大規模な水利事業、宣威ダム建設です。同事業は「第14次五カ年計画」の水安全保障計画における重要プロジェクトの一つに位置付けられています。さらに「新時代における西部大開発で貴州を支援する国務院意見」の中でも「重大水利プロジェクト」とされています。建設地は黔東南州麻江県沅江上流の清水江幹流にあり、総投資額は約52億8700万元、工期は50か月とされています。2023年に生態環境部が承認した環境影響評価によれば、総貯水容量は1億2400万立方メートル、年間平均供水量は9670万立方メートルとされ、完成すれば凱里市の洪水防御能力を「50年に一度」と言われる高水準まで上げるとされています。政府は、防洪・給水・灌漑・発電を兼ね備え、約83万人の住民に恩恵をもたらすと説明しています。

 しかし、城江村の住民にとって、この「国家プロジェクト」が意味するのは発展ではなく、故郷の喪失と生活基盤の破壊です。

 最大の争点は補償基準です。丹寨県や麻江県政府が公開した資料では、住宅の補償単価は構造ごとに異なります。1㎡あたり、フレーム構造1580元、レンガ混合1350元、レンガ木造1100元、木造870元、簡易家屋480元と規定されています。また、1人あたりの移転補助は1900元、仮住まい補助1500元、分散再定住住宅補助1万8000元、1基あたりの墓の移転補償4500元なども示されています。しかし、現在の物価水準を考えると、この補償では新しい生活を築くのは難しいと住民は訴えています。さらに深刻なのは、約束された再定住住宅がいまだ建設されていない点です。

 「実際には木造の家でさえ800元余り、レンガの家でも1000元余りしか支給されない。こんな額では町で新しい家を建てることは不可能だ。再定住住宅は影も形もない。家を壊されたら山に小屋を建てて暮らすしかない」と住民の一人は語ります。城江村には300世帯以上があった住宅の200世帯以上が撤去されました。残る30余世帯は行き場を失い、山に仮の小屋を建てて暮らしています。しかしそこにも政府関係者が繰り返し訪れ、山から出て町で部屋を借りるよう強制し、さらに補償契約書に署名するよう迫っているといいます。

 村民の肖燕さん(仮名)は「私の家は築80年以上で、80代の祖母が暮らしている。祖母は生まれてからずっとここで生活してきたから、町に移るなんて考えられない。若者はすでに外地で働きに出ていて、村には高齢者しか残っていない」と話しました。

 撤去の過程では、住民が殴打や侮辱を受ける場面もありました。代々受け継がれてきた木造やレンガ造りの家は破壊され、苗族の歴史や記憶も同時に失われました。政府は「人民の生活のため」と強調しますが、実際に犠牲となっているのは村に根を下ろして暮らしてきた人
々です。

 環境影響評価の承認文書には「移民再定住に際しては生態環境保護を強化し、影響を受ける住民の生活を保障しなければならない」と明記されていました。しかし現実には、補償不足、再定住住宅の遅延、暴力的な追い出しが行われています。
住民たちの要求は決して大げさなものではありません。村の近くに宅地を与えてもらい、自ら家を建てたいと望み、補償基準を現実的な水準に引き上げてほしいと訴えています。その声は切実です。「人民生活プロジェクトが血を代償に成り立つなら、故郷にダムなど永遠にいらない」と村民は叫びました。

 記者が丹寨県の鎮政府に電話をかけましたが、終始応答はありませんでした。

(翻訳・吉原木子)