深圳の華強北の街頭に、この夏休み期間中、首にQRコードをかけた子どもたちが「アルバイトの配達員」として姿を現しました。彼らは密集したオフィスビルの間を駆け抜け、配達員の代わりに「最後のひと手間」である弁当受け渡しの仕事を担っていました。この光景はすぐにネットで話題となりました。
華強北では、配達員が電動バイクを停めるやいなや、10歳前後の子どもたちが一斉に駆け寄り、「選んで!」「僕にして!」と声を上げながら代配サービスを売り込みます。首から下げたQRコードを通じて配達員が、アルバイト代1〜2元を支払うと、子どもは弁当を受け取り、迷宮のようなビル内を素早く駆け抜け、数分で客の元へと届けます。そして、配達を終えるとすぐに戻り、次の依頼を待つのです。子ども達の中には10歳にも満たない子どももいました。華強北はオフィスビルが密集しています。構造も複雑で、配達員にとって最後の数百メートルは最も時間を奪われる区間です。少しでも遅れればプラットフォームから罰金を科されるため、地形に詳しい子どもたちがその最後の役割を担うようになったのです。さらに一部の子どもたちはチームを組む様になりました。ある子は「代配!」と声をかけて配達員を呼び込み、ある子は住所や注文を確認し、別の子は集金を担当するなど、小さな組織のように分業していました。
この様子が撮影され、動画共有サイトに投稿されると、瞬く間に拡散されました。ネット上では「夏休みに子どもが自分でお金を稼ぎ、人との関わりを学ぶのは良いことだ」と肯定する声や、「家でゲームばかりしているよりはましだ」と評価する親もいました。しかし同時に、安全面や法的リスクを懸念する声も強く上がりました。路上で子どもが集団で配達員を取り囲めば交通の危険を伴います。見知らぬ顧客のもとを頻繁に訪れることは犯罪に巻き込まれる恐れもあります。あるネットユーザーは「これでは悪人がわざわざ外に出る必要もない。料理を注文すれば子どもが家まで来る。」と皮肉を込めてコメントしました。
さらに、この行為は児童労働にあたるのではないかという指摘もありました。弁護士は「子どもと配達員の間には法的な労働契約も組織的な管理も存在しないため、事故が起きれば違法な児童労働と見なされ、さらに重い責任を問われる可能性がある」と警告しました。実際に子どもから食事を受け取った利用者の中には、「商品が届かない、こぼれるなどのトラブルが起きた場合、誰が責任を負うのか不明確だ。」と不安を示す声もありました。
この現象が広がった背景には、中国のフードデリバリー業界における過酷な競争がありました。美団や餓了麼といった大手プラットフォームは、配達員に極めて厳しいルールを課しています。例えば美団では、月間の時間内配達率が98%未満だった場合、1件ごとに0.5元が差し引かれ、ボーナスにも影響します。配達が数分遅れれば2元、15分以上の遅延では報酬の半分が減額される場合もあり、苦情が入れば一度に500元の罰金となることさえあります。餓了麼でも同様で、数分の遅延で0.7〜1元、10分を超えると2〜3元の罰金、さらに苦情が入れば100〜200元、悪い評価でも50〜100元の罰金となります。わずかな賃金で働く配達員にとって、これらは一日の収入を一瞬で吹き飛ばすほどの重圧です。
また、「誤配達処理」と認定される罰則も存在します。誤って早く「配達完了」を押してしまっただけでも50元が差し引かれることがあります。1件の報酬が10元未満にもかかわらず50元を失うという理不尽なケースも少なくありません。表向きは告訴制度がありますが、多くの配達員が「ほとんど通らない」と訴えています。さらに、顧客からの苦情は罰金だけでなく、その後の配達依頼数にも直結し、生活に大きな影響を及ぼします。中には500元の罰金を科されたものの、メディアが介入して初めて返金された事例もあります。しかし、これはごく稀です。
こうした厳格な仕組みの下、配達員は分単位で移動し、赤信号を無視したり逆走したりしてでも遅延を避けざるを得ません。まさにアルゴリズムに追い詰められる彼らにとって、子どもに1〜2元を支払って「配達の最後のひと手間」を任せるのは、罰金で数十元を失うよりも遥かに現実的な選択でした。子どもたちによる代配は、配達員の苦境が生み出した“いびつな共存関係”だったのです。
騒動を受けて、深圳市華強北街道弁事処は即座に通知を出し、子どもによる代配を全面的に禁止し、フードデリバリープラットフォームにも指導を行いました。この一件は、子どもたちが配達の現場に現れるという奇異な光景を超えて、中国のフードデリバリー労働者が置かれている過酷な現実を浮き彫りにしました。そして同時に、社会全体が子どもの安全と健全な成長を支える仕組みが欠落されていることを明らかにしたのです。
(翻訳・吉原木子)
