北京・上海・広州・深センという中国の一線都市のなかで、上海は最も高齢化が進んだ都市となっています。2023年時点で、上海の60歳以上の高齢者人口は577万6200人に達し、総人口の37.4%を占めています。

若年層の流出が止まらない

 かつて、上海は抗いがたい魅力で多くの若者を引き寄せていました。しかし現在では、上海を離れる若者が増え続けています。華やかな送別もなく、静かに、来たときと同じように去っていくのです。ある者は故郷に戻り、ある者は二線都市に移り、またある者は海外に出ていきました。上海は「ますます静かに、ますます高齢化している」方向へと変わりつつあります。

 戸籍上の60歳以上の人口割合は37.6%に達し、これは3人に1人が高齢者であり、全国で最も高齢化が進んだ都市であることを意味します。

 一方、近年では上海戸籍でない人口の減少も続いています。2024年末時点で、上海の常住人口は約2480万人となり、前年比で約7万2000人の減少となりました。そのうち、上海戸籍を持たない人の数は983万人を下回っています。つまり、都市に流入する若い労働力が確実に減っているということです。

 ネット上では「577万人の高齢者、そりゃ誰だって耐えられない」との皮肉も飛び交っています。上海は今、まさに若者の大量流出という深刻な課題に直面しているのです。

静まりゆく上海 街頭が物語る現実

 上海では地方から来た人がどんどん減って、どこもかしこもガラガラです。10年前はこうした場所が人であふれていました。今は一体みんな、どこに行ってしまったのでしょうか?

 ここ2年は本当に厳しかったです。どの業界も苦戦していて、注文も減り、赤字に陥る企業ばかりです。私は上海で20年近く働いてきましたが、最近は本当に人が減ったと実感しています。以前は週末になるとショッピングモールは人でごった返していましたが、今はまるで閉店前のように閑散としています。飲食店だけはまだ人がいますが、アパレルショップにはほとんど人がいません。通勤時も渋滞はなくなり、地下鉄でも座れるようになりました。上海の人口ピーク時は3000万人でしたが、いまでは2500万人です。

 以前は宅配ドライバー、フードデリバリー、建設現場で働く若者たちが街のあらゆる隙間を埋め尽くしていましたが、今ではその姿もまばらになっています。

なぜ若者が上海を去る?

 ある若者はこう語っています。「家賃が高く、生活費もかかる。将来がまったく見えない。努力できないわけではなく、努力しても生きていけない」

 メディアの報道によると、上海市の大学卒業生の初任給は月7000元(約15万円)ほどで、その半分が家賃に消え、残りでは生活費をまかなうのも難しく、節約しなければ到底足りません。住宅物件の価格は300〜500万元(約6000万〜1億円)が当たり前で、ちょっとした病気でも数千元(数万円)かかると言われています。食事も一人当たり50元(約1000円)はかかるため、この給与水準での生活は、若者にとって到底現実的ではありません。

 かつて金融・IT・新エネルギーを支柱産業としていた上海ですが、現在ではこれらの高収入業界が根本的な業界不振に見舞われています。金融業は低迷し、IT業界ではリストラが相次ぎ、新エネルギー分野もまだ発展途上にとどまっています。そのため、就職先の減少や給与の低下が常態化しており、一流大学の卒業生ですら、理想の仕事に就ける保証はありません。

 「高層ビルの下に立ち、スーツ姿のホワイトカラーたちが次々と通り過ぎるのを見ていると、自分だけが部外者のように感じる」という不安感は、「都市が自分を拒絶している」という認識へとつながっています。

老いていく上海

 上海で働いている地方出身者の多くは、若い世代です。そのため、彼らが大量に離れていくことで、上海の人口構成にも大きな変化が生じています。

 一方、上海の地元住民の間では、子どもを持ちたいという考えが極めて少なく、多くの家庭が出産を先延ばしにしたり、出産そのものを選ばない傾向にあります。その結果、上海の出生率は全国的にも非常に低い水準にとどまっています。

 育児にかかる高い費用、教育支出の重さ、そして子育てと仕事の両立の困難さが、出生率低下の主な要因です。調査によると、41%以上の上海市民が「現状に満足している」として今後の出産を望まず、28.5%が「経済的負担」を理由に二人目の出産を断念しています。

 こうした背景のもとで、上海の高齢者人口は年々増加しています。2023年末時点で、上海における60歳以上の戸籍人口は568万人で、総人口の37.4%を占めています。上海科技大学の研究者による2024年の論文では、2022年末の時点ですでに60歳以上が553万6600人に達し(36.8%)、うち80歳以上の高齢者は83万人にのぼるとされています。特に黄浦区(こうほく)、静安区(せいあんく)、長寧区(ちょうねいく)といった中心部では、40%近くが高齢者で占められており、老齢化が極めて深刻です。

 このまま外地の若者が離れ続ければ、老齢化の加速は避けられません。

 若い労働力の減少は、介護サービスの供給不足、社会保険の納付基盤の縮小、年金財源の赤字拡大など、さまざまな社会問題を引き起こします。加えて、地方財政の圧力も強まることから、これは単なる人口問題ではなく、都市構造の根幹を揺るがす深刻な挑戦であると言えます。

危機か、それとも転機か?

 若者の減少が進む一方で、上海の高齢者層は安定した年金収入を持ち、時間的余裕があり、精神的な充実を求めています。カラオケ、ダンス、写真撮影、ファッションなどに情熱を注ぐ退職者も多く、彼らをターゲットとした高齢者向けサービス産業が活況を呈しています。

 たとえば、スマート介護、健康管理、心理的ケア、趣味の講座、カスタム旅行などの需要が急速に伸びており、シルバー経済は、非常に大きな成長の可能性を秘めた「金鉱」のような市場だと見なされています。

 上海市はここ数年、介護インフラの整備を重点政策として進めてきました。2023年末時点で、すでに17万6000床の介護ベッドと、542か所の地域介護サービス拠点を整備しています。また、在宅介護やスマート介護システム、遠隔医療との連携といった新しい取り組みも導入しています。
しかし、根本的な課題は解消されていません。それは、若者人口の減少に伴う労働力と税収の減少が、介護制度の持続的な運営を難しくしていることです。

 人、技術、サービスがあれば、上海のシルバー経済は金鉱です。しかし、本当に求められているのは、上海という都市そのものが「再び若返ること」なのです。

 上海はかつて、その発展スピードで世界を魅了しました。これからは、「やさしさ」で人の心を引きとめる都市へと変わる時期に来ているのかもしれません。

(翻訳・藍彧)