2025年8月6日、韓国政府は観光業の回復を促進し、慶州で開催予定のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に向けて友好的な雰囲気を醸成するため、中国本土からの団体旅行者に対して一時的なビザ免除措置を実施すると発表しました。期間は2025年9月29日から2026年6月30日までで、中国からの団体旅行客は入国地にかかわらず、ビザなしで韓国に入国できるようになります。これは、従来済州島に限られていた免除範囲を全国に拡大するもので、韓国としては初めての取り組みです。

 韓国政府はこの措置により、インバウンド需要を一層喚起し、地域経済の活性化や国内消費の促進につなげたいとしています。発表直後には、韓国の関連企業の株価が上昇し、現代百貨店は7.1%、新羅ホテルは4.8%、カジノ運営会社パラダイスは2.9%、化粧品メーカーは9.9%の値上がりを記録しました。

 韓国観光公社によりますと、2025年上半期に韓国を訪れた中国人旅行者は約250万人で、全体の中でも非常に大きな割合を占めているとのことです。上半期の訪韓外国人全体は888万人にのぼり、前年同期比で14.6%の増加となりました。これは、2019年のコロナ前の記録(843万人)を上回る数字ですが、韓国政府が掲げる「年間3,000万人誘致」という目標にはまだ届いていません。

 一方、日本の観光市場も非常に好調です。2024年の訪日外国人旅行者数は約3,687万人に達し、過去最高を記録しました。これは2019年と比較して約16%の増加となっています。そのうち中国人観光客は約700万人で、全体の約19%を占めています。2025年の第1四半期にはすでに1,054万人以上が日本を訪れており、3月単月では1,000万人を突破しました。これにより、旅行消費額は2.27兆円に達し、前年同期比で28.4%の増加となりました。

 6月時点でも、中国は依然として日本最大の訪問国であり、約79万8,000人が訪日しました。1月には約98万人にのぼっています。2025年通年では4,000万人を超える訪問が見込まれており、大阪万博、円安、ビザ緩和、桜の季節など、複数の好材料が背景にあります。国際クルーズ観光客も前年比121%の増加となり、日本政府は年間250万人の誘致を目標としています。

 しかし、日本では観光収入の増加と並行して、「オーバーツーリズム」が深刻な社会問題となっています。京都の三年坂では観光客の過度な集中により混雑が発生し、富士山では1日4,000人の入山制限と2,000円の入山料が導入されました。渋谷区では夜間の騒動を抑えるため、路上での飲酒が全面的に禁止されました。

 さらに、外国人観光客の一部によるマナー違反が社会的な反感を招いています。コロナ禍の最中には、「#ChineseDontComeToJapan(中国人は日本に来ないで)」というハッシュタグがSNS上で拡散され、一部の店舗では「中国人お断り」という張り紙も見られました。

 2023年12月には、中国本土出身のインフルエンサーが、東京・東中野の中華料理店「中華西太后」の店頭に掲示された「中国人と韓国人の入店を禁止する」という貼り紙を動画で告発しました。この動画は大きな反響を呼び、日本国内外で議論を巻き起こしました。店主はその後、「妻の健康上の理由により、直近で入国した中国人の来店は控えていただいております。在留中国人の方は歓迎しております」という内容に張り紙を変更しましたが、差別的表現の可能性があるとして調査が行われました。

 また、宿泊施設における誤解から生じたトラブルも発生しています。2016年10月17日、中国・浙江省台州市から訪日していた家族連れの中国人夫婦が、名古屋中部国際空港近くの東横インに宿泊中、ベッドの下に置かれていた予備の温水洗浄便座を忘れ物と誤解して持ち帰ってしまいました。翌日、ホテル側が便座の紛失に気づき、ツアーのガイドが確認したところ、夫婦が誤って持ち出したことを認めました。その後、すぐに便座は返送され、手書きの謝罪文も添えられました。ホテル側はこれを受けて問題を不問としましたが、この一件はSNSを通じて広く拡散されました。

 このような文化的な摩擦は、他国でも見られます。2025年3月、オーストラリア・シドニーの有名なボンダイビーチでは、北京から訪れた56歳の中国人男性2人が、ビキニ姿の女性や未成年の少女を無断で撮影したとして通報され、現地警察に拘束されました。2人は「公共の場での不適切な行為」で起訴され、裁判所はそれぞれに100豪ドルの罰金を科しました。判決では「文化の違いによる可能性」も指摘されましたが、多くのメディアは「プライバシーの侵害」として厳しく非難しました。

 こうした状況を受けて、中国政府は2016年に「不文明観光行為ブラックリスト」制度を導入しました。飛行機内での喧嘩、公衆トイレ以外での排泄、救命胴衣の盗難、文化財の破損など、9つの重大な迷惑行為が対象とされ、違反者には最長10年間の出国制限が科される可能性があります。また、このリストは旅行会社や航空会社とも共有される仕組みになっており、中国政府が国際的な批判に対して対応を強化している姿勢がうかがえます。

 このように、マナー違反や文化摩擦といった課題はあるものの、多くの国々は中国人観光客を経済的に非常に重要な存在と見なしています。人口規模と消費力を背景に、コロナ後の国際観光市場における中国の存在感はますます高まっています。アジア各国の間では観光客の誘致競争が激化しており、韓国によるビザ免除のような政策は、こうした競争の一環であると言えます。

 今後は観光業を経済の柱とするだけでなく、観光客の行動と受け入れ国の文化や社会との間に生じる摩擦を、いかに乗り越えていくかが、各国にとって極めて重要な課題となっていくでしょう。

(翻訳・吉原木子)