2025年7月下旬、中国各地で相次いで大規模な賃金未払い抗議が発生し、製造業、建設業、不動産業など幅広い業界に及んでいます。民間企業にとどまらず、国有企業(国企)や中央企業(央企)、さらには有名な不動産会社も関与しており、世論の注目を集めています。
ネット上では「抗議現場」の動画が次々と投稿され、横断幕を掲げて道路を封鎖し、警察と対峙する労働者の姿が繰り返し拡散されています。これは現在の中国経済が直面する深刻な構造的問題と、制度的な賃金未払いの全面的な噴出を象徴しています。
泉州市の靴工場で半年分の給料未払い 労働者が道路に寝転び抗議
7月22日早朝、福建省泉州市にあるスポーツブランド・Xtep(エックスステップ、中国語名:特歩)靴工場の前で激しい賃金抗議が勃発しました。半年間もの給料が支払われていないことを受け、数百人の労働者が工場前の幹線道路に集結し、「苦労して稼いだ金を返せ」「Xtepは泉州から出ていけ」といったスローガンが書かれた横断幕を掲げ、大声で訴えました。
一部の怒りを募らせた労働者たちは車道に寝転び、幹線道路を封鎖したため、交通が大混雑に陥りました。
ネット上の内部告発プラットフォーム「黒子網(くろこもう)」が公開した現場動画によると、労働者たちは管理層が長年にわたり給料を不当に差し引いていると怒りをぶつけ、年末ボーナスも「跡形もなく消えた」と訴えています。ある古い従業員は動画の中で、「工場内の管理は混乱しており、給与の支払いが半年間も滞っていた。何度も交渉したが無駄だったので、やむを得ずこのような手段に出た」と語っています。
まもなくして、武装した大量の警察官が現場に駆けつけ、幹線道路から労働者を排除しようと押し合いが発生しました。一部の労働者は「警察はブラック企業の味方か!」と怒号を上げ、一時は警察との間で緊張状態が続きました。写真には、盾を構えた警察官が人垣を作り、強制排除を試みる様子が映っています。
抗議は正午まで続きましたが、数人の労働者が警察とのやり取り中に強制的に連行され、賃金支払いへの明確な回答は得られませんでした。ある匿名の労働者は「会社は以前、繁忙期には必ず給料を支払うと約束していたが、一度も守られたことがない」と語り、また「管理層の一部が資金を流用した」との噂も出ています。
黒子網の調査によれば、Xtep靴工場は近年受注が減少し、資金繰りが悪化、賃金支払いのトラブルが頻発しています。さらに以前から、協力工場である順超(じゅんちょう)靴工場への支払いも滞っており、その影響で同工場は7月初旬に倒産しました。大量の元従業員が7月8日から抗議を続けています。
この泉州市での混乱は氷山の一角に過ぎません。黒子網が記録したデータによると、2023年以降、沿海地域では経済低迷を背景にした賃金未払いトラブルが数十件発生しています。Xtepのような有名ブランドにまで波及した今回の事件は、企業イメージやブランド信用に甚大なダメージを与えています。記事執筆時点でも、一部の労働者は交渉を続けており、表向きは沈静化しても、怒りの声はネット上に広がり続けています。
国有・中央企業にも広がる未払いの波
未払い問題は民間企業にとどまりません。「安泰」と見なされていた国有企業や中央企業までもがこの問題に巻き込まれ、社会に衝撃を与えています。
7月19日、貴州省にある中鉄十四局が、十数名の農民工(出稼ぎ労働者)への給料を1年以上も支払っていないことが発覚しました。労働者たちは何度も会社を訪ねましたが、支払いは実現していません。同日、山東省泰安市では中鉄十二局が手がける都市改造プロジェクトでも、給料未払いに対する抗議が発生し、多くの労働者が現場に集まりました。
また、不動産大手の南京万科(ばんか)地産も、工事現場の労働者に対して最長で3年間も給料を支払っていなかったと指摘されています。また、警備員を雇って労働者の現場立ち入りを制限していたとされ、強い批判を浴びました。ネット上では「上場企業でしかも中央企業なのに給料を払わないとは前代未聞だ」との声が上がっています。
同様に、広東省のリフォームチェーン「靓家居(りょうかきょ)」は7月18日に突然営業停止を発表し、未払い給料や工事代金が多数残されたままの状態となりました。その前日には創業者の曾育周(そう いくしゅう)氏が転落死し、社内は混乱に陥り、従業員・取引先・顧客が次々に会社に押しかけて抗議する事態となりました。
7月15日には、深セン市の冠博(かんはく)科技公司の社長が、社員に給料を支払わないまま工場資産をこっそり売却して姿を消しました。従業員たちは深夜まで工場前で抗議を続けましたが、解決の見通しは立っていません。社員によれば、「社長は何度も、もうすぐ払うと口では言っていたが、すべて口約束で、詐欺同然だ」と語っています。
未払いは「常態化」 労働者に逃げ場なし
企業側の未払い手口はますます巧妙化しており、中には5年間まったく給料を支払わず、自主退職に追い込むケースもあります。
7月20日、陝西省西安市の秦嶺(しんれい)ゴルフクラブでは従業員が集団でストライキを行い、「5年間一度も正式な給料が支払われておらず、1人あたり数十万元(約100万~200万円)を超える未払いがある」と訴えました。従業員たちは客からのチップでなんとか生活をつないでいたといいます。同クラブの実質的な経営者である呉一堅(ご いちけん)氏は「陝西一の富豪」とも言われていますが、未払い問題には一切無反応でした。
同じく西安市高新区では、7月11日、地電広場の建設現場で労働者と警備員の間で激しい衝突が起きました。労働者側が消火器を噴射し、スコップで警備員を負傷させる事態となりました。現場責任者が給料の支払いもないまま工事現場を強制封鎖しようとしたことが発端だったとされています。
河北省の中建三局プロジェクトや、河南省信陽市の泰普森(たいぷせん)アウトドア用品会社でも同様の問題が報告されています。前者では工事代金の未払いによって労働者が出入口を封鎖し、後者では注文がないにもかかわらず、社員に出勤打刻だけを強制するなどして、辞職に追い込もうとする事例が確認されています。
近年、建設・製造・教育・医療・清掃など多くの業界で、こうした賃金トラブルや抗議活動が頻発しています。外資撤退、企業倒産、地方財政の逼迫といった経済環境の悪化により、中国社会全体で未払い問題が深刻化しています。
制度崩壊 「未払い地獄」に出口なし
全国に広がる未払い抗議に対し、中国当局は表向きには対応姿勢を見せているだけです。7月14日には、中国共産党が「新時代における裁判業務の強化に関する意見」を発表し、「平等な雇用と労働権の保護、悪質な未払いに対する厳罰」を掲げました。
しかし、現実には、法律の効力はほとんど及ばず、形骸化しています。
複数の法律専門家は「悪意ある賃金未払い」はすでに刑法に明記されているにもかかわらず、実際に起訴・責任追及されるケースは非常に少ないと指摘します。特に、国有企業や中央企業、さらには地方政府の関与する企業に対しては、「高圧的な姿勢を見せつつも、実際には大げさに構えて、結局はうやむやにされる」傾向が強いとされています。裁判に勝訴しても、強制執行や賠償金の回収が困難で、労働者にとっては依然として大きな障壁となっています。
一部の地方政府は企業側を擁護し、労働者の抗議活動を抑圧する動きも見られます。あるネットユーザーの発言には、「私たちが横断幕を掲げると違法と言われるが、給料を払わない企業は罪にならないのか」との怒りが込められています。
専門家は、「未払いの蔓延は、中国経済の構造的問題を映し出す重要なバロメーターである」と指摘しています。制度の不備や監督機能の不全に加えて、企業の資金繰り悪化が重なり、労働者が正当な権利を守るにはあまりに大きなハードルが存在しているのです。
(翻訳・藍彧)
