広東省広州市白雲区(はくうんく)の陳田花園(ちんでんガーデン)付近にある「湾区智荟園(わんくうちえん)」プロジェクトに関して、中国メディア「江西都市現場」の7月15日の報道によると、建設開始からわずか80日で7棟のビルが完成したものの、完成からたった10日後、現地政府により「違法建築」と認定され、すべて取り壊されたというのです。
完成直後に解体 政府の対応は「おままごと」なのか?
2024年10月14日、広州市白雲区政府と広州市建設集団有限公司は協定を締結し、「湾区智荟園」の建設において協力すると発表しました。このプロジェクトは、「粤港澳大湾区(えつこうおう・だいわんく)」(広東・香港・マカオ)建設の一環として、テクノロジー革新拠点と人材拠点を融合させた総合型パークにする構想でした。
このプロジェクトの建設に携わった作業員の1人は、「建設会社が必要な許可を得る前に工事を始めたため、地元政府が『法に基づいて』取り壊しを実施した」と述べました。しかし、なぜ許可が下りる前に建設を開始したのかなどの核心的な質問には答えを避けました。
この「建ててすぐ壊す」騒動について、白雲区政府の各部門は責任の所在を互いに押し付け合い、曖昧な対応に終始しています。現場を管轄する白雲区黄石街道の綜合行政執法隊は「担当者が後ほど説明する」としましたが、その後は一切の連絡がありません。
区政府公認の建設プロジェクトが、傘下の執法機関によって「違法建築」とされ即時解体されたことは、まさに常識外れの出来事です。
「GDPを水増しするための茶番」とネットユーザーの怒り
ネット上では、「税金の無駄遣いではないか」との声が多数上がっています。「建てて爆破、一連の流れで巨額が右から左に消えた」「建てて壊して、その中間で誰がキックバックを受け取ったのか」などの指摘も飛び交っています。
中には、「これは地元のGDPをかさ上げするための常套手段(じょうとうしゅだん)だ」と見抜く声もありました。「お金の出所はどうでもいい、大事なのは『GDPが倍増した』という見かけ」「今年GDPが5%も伸びたって?その理由がこれだよ」といった皮肉が投稿されています。多くのネットユーザーが白雲区政府だけでなく、広州市政府や広東省政府にも、詳細な説明を求めています。
また、一部の投稿では、「建てて壊す」という行為は裏金作りと自前の建設業界への利益供与にもなっていると指摘されています。「この土地を使って年に何度でも建て壊しすれば、GDPがいくらでも増やせるし、仕事もたくさん生まれる。まさに一石二鳥どころか一石三鳥」などの声もありました。
また、「労働者には働かせても賃金を支払わず、予算は建て壊しにばかり使う。これは奴隷制度だ!」と強く批判する声もありました。
「たった80日で建てられた7棟のビルの品質など、想像するだけで恐ろしい。最初から『すぐ壊す』前提で建てられたのではないか」という声もあります。「こんなハイペースで建てられた高層ビルは、タイムボムのような存在。むしろ爆破されてよかった」「検査すら不要で、中身は全粗悪。崩壊するのは時間の問題だった」とのコメントも多く見られました。
「建てて壊す」 地方政府のGDP水増しの常套手段
今回の広州市の「湾区智荟園」での高速建設・即時解体は、あくまで氷山の一角に過ぎません。この出来事は、中国共産党体制下における地方政府の構造的な問題を如実に示しています。
ここ数十年、中国の地方政府の歳入は主に不動産業に依存してきました。そして不動産による収益は、そのまま地元のGDP統計に反映されてきました。そのため、多くの地方官僚にとって「固定資産投資」や「GDP成長率」は、出世に直結する重要な評価指標となっているのです。
大型不動産プロジェクトを始動すれば、固定資産投資額が一気に跳ね上がります。さらに古い建物を取り壊して、同じ場所に新たな建築計画を立ち上げれば、それも再びGDPにカウントされます。
2011年、当時の中国建設銀行の行長であった郭樹清(かく・じゅせい)氏はこう指摘していました。「多くの地方政府は『道路を繰り返し掘り返す』『建物を繰り返し取り壊す』ことで、表面的なGDP成長を演出している。これは『破壊型建設』である。これにより一時的には統計数値が伸びるものの、実質的な経済成長には繋がらず、むしろ資源の浪費と環境負荷を悪化させている」
動画投稿サイト「ティックトック」には、こうした「建てて壊す」動画が多数投稿されています。ある動画には、未完成の「毛坯(けっぱい)ビル(内装も未済の建物)」が爆破解体される様子が映されており、タイトルには「壊して建てて、また壊す――経済を活性化するための戦略」と皮肉が込められています。
家は「住むため」ではないのか?
人類が家を建てられるようになって以来、家は人々が住むために建てられてきました。しかし、現在の中国では、「本当に住むため」に建てられている家は、果たしてどれほどあるのでしょうか?
2023年、中国国家統計局の元副局長・賀鏗(が・こう)氏は、「中国実体経済発展大会」で次のように述べています。「現在は不動産の供給過剰で、空き家の数については専門家の見解に大きな開きがあるが、最も極端な推定では、現在の空き家は最大で30億人分の居住をまかなえる規模に達している」というのです。
ところで、中国の人口は現在どれほどでしょうか?中国当局の公式発表では14億人とされています。しかし、2022年に発生した上海市公安局のデータベース流出事件では、中国の警察システムに登録されているのは約10億人分の個人情報にすぎませんでした。つまり、中国の実人口は10億人前後である可能性が高いと見られています。
それにもかかわらず、最大で30億人分もの住宅を建ててきた理由とは、一体何なのでしょうか?
GDPドラマの脚本「建設も撤去も経済成長」
ティックトック上のある人気配信者は、今回の広州市の高速建設・即解体劇をもとに、「劇本(シナリオ)」としてこんな風刺を投稿しています。
「政府と建設会社が1億元(約21億円)規模のプロジェクトを打ち合わせる。建設会社は、最低3カ月は倒壊しないような骨組みを組み立てる。期間中の費用も伝票もすべて予算に合致。完成後は、政府と建設会社で利益を山分けする」
ここで劇的な転換が起こります。「その建物が違法建築とされ、政府がさらに追加予算を使って撤去するのだ。撤去もまた一つの事業であり、そこでも金が動く。撤去後の鉄筋は廃材として転売できる。つまり最初から建てて壊すことで利益を二重に得られる」
そして配信者はこう締めくくっています。「80日で建てればインフラ整備のスピードを示せる。10日で壊せば法執行の迅速さを示せる。建てても壊しても、すべてはGDP成長の材料である」
(翻訳・藍彧)
