2025年7月10日に開幕した貝殻財経年会で、中国国家イノベーション・発展戦略研究会の幹部で、重慶市の元市長でもある黄奇帆(こう・きはん)氏が講演し、「中国では年間3,000万台の自動車を販売しても、その利益がトヨタ自動車1社に及ばない」と明らかにしました。この発言は中国国内でも大きな注目を集め、検索トレンドの上位に浮上しています。

 黄氏によると、中国の自動車産業は本来、製造業の中でも比較的利益率が高い分野であるはずですが、2025年6月時点で業界全体の利益率はわずか5%にとどまっており、中国で販売された3,000万台分の自動車による総利益は、トヨタが900万台の販売で得た利益にも及ばない状況だと述べています。

 IT関連メディア「iT之家」によれば、トヨタの2025年度(2024年4月~2025年3月)の純利益は約4兆7,650億円(約2,337億元)に達しました。一方で、中国の自動車専門メディア「DearAuto」によると、中国の上場乗用車メーカー18社のうち13社は黒字を確保したものの、2024年の純利益合計はわずか1,226億元にとどまっているとのことです。さらに、赤字となった5社が合計332億元の損失を計上しており、中国全体の上場乗用車メーカーの利益は900億元を下回り、トヨタの同期利益の40%にも満たない状況です。

 車1台あたりの利益を比較すると、トヨタは2025年度の世界販売台数が約1,040万台に達する見込みで、1台あたりの利益はおよそ2.29万元(人民元)となっています。一方、中国の大手メーカーである比亜迪(ビーヤディ、BYD)の単車利益は約0.94万元にとどまっています。

 中国政府は、新エネルギー車の世界販売台数で首位に立ったことや、日本を上回る輸出台数を盛んにアピールしています。しかし複数の専門家は「中国の自動車業界は深刻な過当競争、いわゆる“内巻(ネイジュエン)”に陥っており、車1台あたりの利益が極めて低い」と指摘し、派手な宣伝とは裏腹に、実際の利益が伴っていない現状を批判しています。

 経済学者の任沢平(レン・ザーピン)氏も2024年時点で、中国の自動車メーカーは生産台数や販売台数では世界一であるものの、利益面では厳しい状況にあると話しています。実際、2023年に中国は自動車の生産、販売、輸出のいずれにおいても世界一となり、それぞれ約3,016万台、3,009万台、522万台を記録しました。しかし2024年上半期における中国の上場乗用車メーカー18社の利益合計はわずか488億元で、同期間のトヨタ(1,253億元)、フォルクスワーゲン(795億元)、GM(421億元)との間には大きな開きが見られます。

 業界内の競争が激しさを増すなか、各社の利益は急速に圧迫されています。たとえば理想汽車(Li Auto)は2023年に1台あたり3万元の純利益を確保していましたが、2024年上半期には9,000元に減少しました。比亜迪も1万元から0.98万元へと利益が縮小しています。上汽集団(SAIC)、長安汽車(チャンアン)、北汽(ベイチ)、広汽(グアンチー)なども単車純利益が2,000元から3,000元程度にとどまり、多くの新興EVメーカーでは「1台作れば1台赤字」という厳しい状況が続いています。

 南方科技大学の教授であり、オーストラリア籍の院士でもある劉科(リュウ・コ)氏は、中国の自動車業界が深刻な過剰生産能力を抱えていると指摘しています。2023年の中国の自動車生産台数は3,800万台で、世界の約3分の1を占める規模となりましたが、生産能力の稼働率はおおむね60%前後にとどまり、中国全体の自動車メーカーの利益はトヨタ1社の半分にも届いていない状況だと述べています。

 さらに中国国内では、2024年時点で新エネルギー車メーカーがすでに100社を超えて乱立しており、多くの企業が赤字を抱える一方で、業界全体の利益率は5%未満にとどまっています。一方、トヨタの2023年の世界純利益は約300億ドルに達しています。

 劉氏はまた、「中国各地で自動車産業園区が乱立した結果、多くの工場が稼働率が低く、設備は遊休状態にあり、従業員も仕事がない」と批判しています。政府がGDPを押し上げる目的で自動車メーカーに補助金を出し、土地を無償に近い価格で提供した結果、企業が次々と工場を増設しましたが、需要が追い付かず、在庫が山積みになっている状況です。厳しい価格競争の影響で利益はほとんど出ず、小規模ブランドが相次いで倒産し、2023年には少なくとも5~6社が破綻したほか、従業員の解雇や部品供給業者への支払い遅延も深刻化していると説明しています。

 中国の社会問題専門家である夏一凡(シャ・イーファン)氏は、大紀元の取材に対し、「新エネルギー車の苦境は中国経済全体の問題の一端にすぎない」と語っています。生産台数は大きいものの、品質にばらつきがあり、技術や管理面での課題も多く、結果的に低い利益率に苦しんでおり、業界の先行きは不透明だと指摘しています。

 さらに、過剰生産や過当競争は別のゆがんだ現象も生み出しています。それは、一度も走行していない新車を「中古車」として海外に輸出する動きです。業界関係者によれば、2024年に中国が輸出した中古車約40万台のうち、実に9割が一度も走行していない新品であったといいます。ロイター通信は2024年6月、中国の自動車メーカーがこうした「グレー輸出」によって販売台数をかさ上げしてきたと報じています。新車を登録だけして中古車に偽装し、ロシアや中央アジア、中東市場へ輸出する手法で、こうした車両は実際には一度も運転されていないにもかかわらず、中古車として帳簿上処理されることで、国内の在庫処分と輸出台数のかさ上げを同時に実現しているのが現状です。

 コンサルティング会社Sino Auto Insightsの創業者である涂楽(トゥ・ラー)氏は、「過去4年間の激しい価格競争の結果、各社はあらゆる手段を駆使して、わずかな販売機会を取りにいっている」と指摘しています。

 中国自動車流通協会の顧問である王萌(ワン・モン)氏によると、現在では数千社もの貿易会社が新車を中古車に偽装して輸出に関わっており、2024年に中国が輸出した43.6万台の中古乗用車・商用車のうち、約9割は「走行距離ゼロ」の新車だったといいます。中国乗用車協会のデータによれば、2023年に中国は日本を抜き、世界最大の新車輸出国となり、2024年の輸出台数は641万台に達する見込みです。王氏の試算では、そのうち約6%が実際には「走行距離ゼロ中古車」とされています。

 一見すると輸出は好調に見えますが、新車を中古車に装うこうした手法は、過剰生産や在庫の山積みといった業界の構造的な問題を覆い隠す数字上の操作に過ぎず、中国の自動車輸出は国際社会からますます厳しい視線を向けられている状況です。

(翻訳・吉原木子)