経済の低迷や米中貿易摩擦、さらにコロナ禍の影響が重なり、北京市民の生活や収入は深刻な状況に追い込まれています。サービス業の低賃金や販売業の不安定さ、公務員の給与カット、雇用縮小などが表面化し、市民の消費意欲も大きく落ち込んでいます。
一方で、中国共産党による大規模な軍事パレードを控え、北京では治安対策がかつてないほど厳しくなり、社会管理が一層強化されています。これは、首都を取り巻く経済と社会の複雑で緊張した現状を映し出しています。本稿では、北京のベテラン不動産仲介業者や市民の証言を通して、この状況を掘り下げます。
7月1日、北京市海淀区のベテラン不動産仲介業者であるアーファン氏は、自身のSNSで北京市内の各業種の収入状況を公開し、高い生活費の中で市民が直面する厳しい現実を明かしました。
市民の張さんも、経済低迷の深刻さを語ります。張さんは大紀元の取材で、公務員の給与がおよそ10%引き下げられているほか、地方都市では給料の遅配が1年半以上続く例もあると話しました。
張さんによれば、3年間にわたるコロナ禍が財政を逼迫させ、地方の債務が急増しているといいます。河南省では、県政府が2つの病院を担保に入れて債務返済に充てた例もあり、地方財政の苦境が鮮明になっています。
雇用状況も厳しさを増しています。張さんによると、以前は35歳を超えると就職が難しかったものの、今では30歳前後の若者ですら仕事を見つけにくくなっています。給与水準も大きく下がり、かつて月収1万元だった仕事が、いまや4千〜5千元程度に落ち込んでいるといいます。
張さんは、オーストラリアから帰国した求職者の例を挙げました。彼は海外で日給300豪ドルを稼いでいましたが、帰国後の月収はわずか3,000元にとどまり、国内外の賃金格差の大きさと中国国内の雇用環境の厳しさを物語っています。
消費意欲の低下は飲食業にも深刻な打撃を与えています。張さんは「レストランの客足は激減し、夜の営業でも席の4分の1すら埋まらないことが多い」と話しました。消費のダウングレードが進み、かつて牛肉を購入していた家庭が、今ではより安い食材を選ばざるを得ない状況だといいます。
一方、比較的購買力を保っているのは、医療や教育関係の人々だと張さんは指摘します。医師や医療機器の業者、校長などは需要が堅調で、収入も比較的安定しているためだそうです。
しかし、北京では社会管理がこれまで以上に厳しくなっています。張さんによれば、公共の場で身分証のチェックが頻繁に行われ、地下鉄の乗り換え駅では私服警官が身分証確認に協力しているといいます。特に二環路の内側では検査が厳しく、その理由を「中央指導部が二環内に居住しているため」と説明しました。また、包丁を購入する際には実名登録が義務付けられ、当局はこれを「テロ対策」としています。
さらに、公務員の間では厳格な禁酒令が敷かれ、紀律検査部門が24時間体制で監視しており、アルコール検査器まで使われているとのことです。張さんは「公職者の行動が徹底的に監視されている証拠だ」と語りました。
北京のメディア関係者である趙さんも、治安強化の背景を分析します。趙さんは大紀元の取材で、2025年の「9.3軍事パレード」に向けた治安対策は数週間続く見込みで、すでに地下鉄では身分証確認が行われており、「ここ数年で見たことがないほどの厳しさだ」と話しました。
今年の軍事パレードについて、趙さんは「党の記念行事としての側面が強調されており、単なる式典ではなく、政治的なプロパガンダの色合いが極めて濃い」と述べています。
また趙さんは、北戴河会議が前倒しで開催される可能性があり、秋の人事異動や経済問題、米中貿易戦争への対応が議題になるだろうと指摘しました。さらに、7月7日の「七七事変」88周年には、北京で台湾光復80周年の記念大会が行われ、習近平氏が自ら出席し演説を行う可能性があるといいます。
趙さんは、習近平氏が軍事パレード当日に何度も姿を見せ、演説を行う計画があるとも話し、それは自身の存在感を一層アピールする狙いがあると分析しました。
経済と政治、二重の重圧の中で、市民の意識も変わりつつあります。張さんは「今では多くの市民が政治の噂話には関心を示さず、『生活していけるかどうか』が唯一の関心事になっている」と話します。経済的な苦境から人々の社交の場も減り、政治の変化にも冷淡で「誰が政権を取ろうが大事じゃない。変わることで生活が半分でも良くなるならそれでいい」と考える人が増えているそうです。
こうした市民の声は、経済的苦境への諦めと、それでも生活を少しでも改善したいという切実な思いを映し出しています。
(翻訳・吉原木子)