2025年6月初旬、中国山西省長治市の錦繡司馬住宅団地で、極めて珍しい地熱異常現象が発生し、住民や社会全体の注目を集めました。暖房シーズンが終了した直後、多くの住民が自宅の地下室の温度が異常に高いことに気づき、温度計で測定したところ、40度に達しました。これは通常の範囲を大きく超えており、さらに驚くことは、敷地内の井戸水の温度が72度にまで上昇し、数日間にわたって高温を保ち続けていたことが明らかになりました。この現象は瞬く間にインターネット上で話題となり、多くのネットユーザーから「大地震の前兆ではないか」との懸念の声が上げられました。
この事態は、団地の住民である康さんが撮影し、ネット上に投稿した動画によって始めて広く知られることになりました。映像には、団地の緑地帯が掘り返され、複数の黒く太いパイプが積まれている様子が映し出されています。その中の1本の細いパイプは排水口まで延びており、そこから絶え間なく熱水が噴き出し、湯気が立ち上っていました。康さんが『極目新聞』の取材に応じたところによると、暖房が停止された後、一部の住民がまず地下室の異常な暑さに気づき、温度計で測定した結果、井戸水の温度が60〜70度の範囲で安定していたことが判明しました。
さらに不可解なのは、その後に地質調査隊が団地付近で2本の観測井を掘削し、深さは27メートルに達していたにもかかわらず、ポンプで2日2晩連続して汲み上げた水の温度が依然として高いままだったという点です。ほとんど温度の低下が見られなかったため、長時間の汲み上げが建物の基礎に影響を与える可能性を考慮し、3日目には作業を中止しました。現在も、管理会社の職員が毎日、井戸水の温度を記録し続けていますが、熱源の正体はいまだに解明されていません。
原因を突き止めるため、地元当局は複数の部門を動員して調査に乗り出しました。電力会社も、周囲のケーブルは正常に作動しており、発熱によって地中温度が異常をきたすような状況ではないとしています。康さんによれば、団地周辺には炭鉱などの工業施設は存在せず、これまでに同様の現象が起きたこともありませんでした。住民の多くは、今回の異常は、エネルギー開発とは無関係であり、むしろ地質的な要因が関係しているのではないかと考えています。
この異常現象をめぐって、SNSでは熱い議論が巻き起こりました。山西省の地元住民を名乗るネットユーザーは、「うちの村では地面に亀裂が入って、壁やドアの枠が変形してきた」「井戸を2本掘って2日間水を汲み上げた。しかし、まだ60〜70度もある。絶対に石炭層が自然発火している」といった書き込みを投稿しています。また、地震の観点から分析する声も相次ぎ、「汶川地震の前にも井戸水の温度上昇や地面の亀裂があった」「西安では3日連続で地震雲が出ていた。注意が必要だ」など、さまざまな憶測や警告が広がっています。
地質の専門家によれば、今回の井戸水の高温異常にはいくつかの可能性が考えられます。まず一つは、長治市が華北地塊の縁辺部に位置し、地下には複数の隠れた断層が交差しているため、浅層の地熱活動が活発になる条件を備えていることです。深部の熱水が断層を通じて上昇することで、局所的に高温状態を引き起こす可能性があります。もう一つは、石炭層の自然発火です。山西省の炭田には自然発火しやすい特性があり、地表に酸素が浸透できる亀裂が存在すれば、酸化による発熱が地表まで伝わることも考えられます。しかし、これらの仮説には現在のところ明確な証拠がありません。現場では硫黄臭や一酸化炭素といった、石炭の自然発火に伴う典型的な兆候は検出されていません。
さらに、一部のメディアは学術資料を引用し、地下水の温度上昇が過去の大地震に先立って観測された事例について言及しています。ただし、その多くは地震発生の24時間以内に起きた短期間の温度変化であり、上昇幅も限定的です。たとえば、1976年の唐山地震の数時間前には、一部の観測井で水温が約1度上昇しました。2008年の汶川地震の前には、中国国内で14本の井戸において、水温が2〜5度急上昇あるいは急降下した例が報告されています。2011年の東日本大震災では、環渤海地域の複数の井戸で水温が急上昇し、その状態が数週間続いたとされています。しかし、これらはいずれも短期間かつ緩やかな変化であり、今回の長治市のように連日70度近い高温が維持されるようなケースとは明らかに異なります。したがって、地震学の専門家たちは、現時点でこの現象をもって「地震が迫っている」と断定することはできないとの見解を示しています。
専門家は、現時点では住民が過度に恐れる必要はないものの、警戒心を持って状況を注視すべきだと呼びかけています。特に、室内の換気を十分に行い、子どもや高齢者が熱源に近づかないよう注意しなければなりません。もし、地面の亀裂が拡大したり、異臭を感じたり、壁が変形したり、地面から煙が出るといった現象が確認された場合には、ただちに地元の管理部門や緊急対応機関に通報することが推奨されます。
(翻訳・吉原木子)
