近年、中国当局は国民に対する言論や移動の自由の制限をますます強化しています。X(旧Twitter)で活動するネットユーザーDaniel Fang(ダニエル・ファン)が投稿した内容によると、最近、上海では「国家安全保障」を理由に、すべての市民に対して出国制限が実施されているといいます。
多くの国民が、パスポートなどの渡航書類を申請したり、空港で搭乗手続きを進めたりする過程で突然引き止められ、やむなく出国を断念せざるを得なかった事例が報告されています。
また、こうした動きはアモイにも波及し、最近ではアモイでも新たな出国審査政策が導入され、市民の出国を厳しく制限する動きが確認されています。
あるネットユーザーはこれについて皮肉を込めてこう語りました。「ニラ(庶民)はすでに国家の資産に成り下がった。もし好きに国外へ逃がしてしまえば、鎌を振るっても刈り取るものがなくなってしまう」
また、多くの中国人知識層は、自分たちが出国制限措置の対象にされていることに気づき始めています。
「出国制限」とは本来、犯罪に関与した可能性のある者が国外逃亡を図るのを防ぐ目的で、出入国時に制限をかける措置です。ところが近年ではこの制度が、なんの前科もない学者や記者、知識人にまで適用されている実態があります。
中国の法学准教授夫妻、空港で出国を阻止される
上海財経大学法学院の准教授である梁興国(りょう・こうこく)氏もその一人です。2024年11月2日、香港へ渡航しようとした際、空港で出国を拒否されました。その理由は、2年前にシンガポールの新聞「聯合早報」に寄稿した記事が問題視されたためではないかと見られています。
記事のタイトルは「任期制:共和国における重要な制度基盤」で、梁氏はフランスの思想家モンテスキューを引用しながら、共和制における任期制の重要性について論じました。「共和国が指導者の任期を制限する理由は、国が『天下一人のもの』ではなく、『天下万人のもの』であるという理念に基づいている。いかに優秀であっても、人間には限界がある。任期を終えても次の任期、さらに次の任期と続けば、建前上は共和国であっても、実質は独裁国家となってしまう」
このように、記事では一般的な法学理論に基づく見解を述べたにすぎなかったが、大学側はこれを問題視し、梁氏に対し三度にわたり呼び出し、記事の背後に誰かの指示があったのではないかを調査しました。
最終的には、梁氏が個人の意思で執筆・投稿したものであることが確認されました。その上で大学側は彼を厳しく叱責し、『聯合早報』に対して撤回を求める書簡を提出させたほか、今後は海外メディアへの寄稿をしないとする誓約書も書かせたといいます。それ以来、梁氏は一切、文章を公表していません。
梁氏夫妻は昨年末、香港旅行のため航空券を購入したが、直後に大学から「出国できない可能性がある」との口頭連絡を受けました。また、夫妻そろって「出国制限」対象になるというのです。
時事評論家の蔡慎坤(さい・しんこん)氏によれば、2024年11月2日、夫妻は早朝6時30分に上海虹橋空港に到着し、出国を試みたが、なんと午後3時30分まで空港に足止めされました。その間、警察が強制的に介入し、ついには強引に「案内」される形で空港の外に出されました。
梁氏の妻は当時の様子について、こう語っています。「あの時、もし拒否すれば力ずくで連れ出されるところだった。だから仕方なく、数人の屈強な男たちに付き添われて、自分たちで歩いて空港を後にした。虹橋空港の出来事は、私たちに一生消えない心の傷を残した」
その後、梁氏は微信(ウィーチャット)で声明を発表しました。「彼らは、出国禁止を証明するいかなる書面も渡してくれなかった。私たちは抗議したが、強大な権力を前にしてなす術がなかった」
多くの中国有名人が「出国制限」対象に
近年、「出国制限措置」の対象となった著名人の例は後を絶ちません。たとえば作家の章怡和(しょう・ぎわ)氏、法学教授の賀衛方(が・えいほう)氏、ジャーナリストの高瑜(こう・ゆ)氏、憲政学者の張千帆(ちょう・せんはん)氏、格闘家の徐暁冬(じょ・ぎょうとう)氏、人権派弁護士の陳秋実(ちん・しゅうじつ)氏、清華大学の法学教授の許章潤(きょ・しょうじゅん)氏と郭于華(かく・うか)氏、歴史教師の袁騰飛(えん・とうひ)氏といった面々が挙げられています。
人権派弁護士の陳建剛(ちん・けんこう)氏は、ラジオ・フリー・アジアに対して、自らも「出国制限措置」によって出国を阻まれた体験を語っています。
2019年、陳氏は家族を伴って香港へ渡航しようとしたが、北京の空港で税関職員に「一家全員が出国できない」と告げられました。当時、彼の末っ子は生後まだ1年にも満たない年齢だったが、その子どもまで出国を禁じられたのです。
陳氏は、出国を拒否された理由やそれを裏づける書類の提示を求めたが、中国当局の返答は「命令を受けただけ。理由は国家安全への脅威だ。書面での説明は不可能だ」というものでした。
本来、出国制限は犯罪に関係する人物に対して適用されるべきだが、今や何の関係もない一般人、特に言論人や学者にまで広がっており、これは明確に法律に違反していると陳氏は指摘しました。
国民「今年は出国が本当に難しい」
こうした制限は知識人だけに限られたものではなく、一般国民にも大きな影響を与えています。
SNS上では、「今年は出国が本当に難しくなっている」という声が相次いでいます。パスポートの取得すら困難であり、空港の出入国審査でもさまざまなトラブルが起きているとの報告が目立ちます。中には、そのまま帰国を促される人もいました。
最近、ある若い女性が動画を投稿し、次のように語りました。「やっとの思いでパスポートを取得した。2025年に出国することは本当に難しい。すでに多くの地域でパスポートの申請を受け付けなくなっている。河北省保定市、江蘇省東海県、青海省、福建省、広西チワン族自治区などでは、まったく申請できない状態だ」
また、あるブロガーは、青海省でパスポートを取得するために必要な書類の枚数や手続きの煩雑さを「移民申請よりも難しい」と表現しています。
別の投稿者は、自らの出国体験を動画で公開しました。出境の際に空港で1時間以上も個室に閉じ込められ、事情聴取を受けた後、ようやく出国が認められたといいます。その最後に「やっぱり、おとなしく国内にいたほうがいい」と諦めの言葉を残していました。
一部のネットユーザーは、「最近、国境の出入国審査では、質問の数が増えた」と指摘しています。旅行やビジネス、親族訪問など、目的を問わず、行程の詳細を細かく尋ねられることが常態化しているというのです。
また、手荷物やスマートフォンの中身までチェックされ、中には招待状、チャット履歴、SNS投稿内容などを提示するよう求められるケースもあるといいます。少しでも「問題あり」と判断されれば、出国できない可能性があるとのことです。
ある海外のユーチューバーは、自身の番組で「中国を出国する際、スマホの中身をチェックされることがある」と警告し、「出国前には、写真、動画、SNSの投稿履歴、政府批判につながる情報など、あらゆる『敏感な情報』を完全に削除しておくべきだ。でないと、その場で拘束される恐れがある」と呼びかけています。
(翻訳・藍彧)