米中対立が激しさを増す中、かつて中国からの生産移転先として脚光を浴びたベトナムが今、大きな打撃を受けています。ベトナムに進出した現地の華人経営者たちは、経営環境の厳しさを口々に訴えており、今年の初めに工場を構えたオーナーたちは泣くに泣けない状態とのことです。

米国相互関税、中国に矛先

 4月初旬、米国のトランプ大統領は、主要貿易相手国に対して「相互関税」を導入すると発表し、その矛先は中国に向けられました。特に、中国企業が「原産地ロンダリング」の拠点として利用してきた東南アジア諸国、とりわけベトナムが、大きな圧力に直面しています。

 「チャイナ・プラスワン(China Plus One)」とは、中国に集中していた生産体制のリスク分散を図るため、中国以外でも製造拠点を持つという企業戦略です。2018年の米中貿易戦争以降、多くの中国企業がアメリカの高関税を回避するためにベトナムに進出しました。

 公式データによれば、2019年にベトナムで新たに認可された中国企業のプロジェクトは705件で、総額はおよそ23億9,200万ドル(約3,400億円)に達し、前年比で96.5%という驚異的な伸びを示しました。投資分野は、繊維、電子、機械製造、エネルギー、自動車など、多岐にわたります。

 しかし、トランプ大統領が「中国製品の抜け道を全て封じる」と宣言すると、中国企業が多く進出するベトナムはターゲットにされました。4月2日、アメリカ政府は、ベトナムからの一部製品に対し、最大46%の懲罰的関税を課すと発表しました。

中国のサプライチェーンに集中砲火

 シンガポール国立大学東アジア研究所の上級研究員である陳波(ちん・は)氏は、第二次トランプ政権の貿易戦争の最終的な目的について、次のように分析しています。

 「今回の貿易戦争の狙いは、世界中に広がる中国のサプライチェーンを根こそぎ引き抜くことであり、アメリカは、国際貿易の枠組みを再構築しようとしている」。

 陳氏はまた、アメリカとベトナムの間で新たな貿易協定が結ばれる可能性にも言及し、「中国産の原材料」や「中国を経由した製品を排除する条項」が盛り込まれる可能性があると指摘しています。

 アメリカの経済学者・黄大衛氏は、「今回の関税戦争は、もはや単なる『国対国』の戦いではない。中国が製造や加工に関与する全ての製品が制裁の対象になり得る」と述べています。さらに、「原産地を変えたり、書類で取り繕ったりする企業も、徹底的に追跡され、逃げ場がなくなるだろう」と語りました。

 カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学者・俞偉雄(ゆう・いおう)氏は、「今回の関税措置は、単に中国を狙い撃ちするだけのものではなく、公平で、健全な国際貿易秩序を回復するものだ」と指摘しています。「各国が協調して、真に自由で公正な貿易体制を構築できれば、自ずと関税は引き下げられるだろう。そうでなければ、高関税は続くだろう」。

中国人経営者、泥沼にハマる

 トランプ政権の関税政策により、ベトナムでビジネスを展開してきた中国人経営者たちが大きな打撃を受けています。

 ハノイにあるコンサルティング会社の代表・王氏は、落胆の声を隠せません。

 「年初に合意したばかりの複数の工場建設契約が、すべて保留になった。中には契約金を支払い済みの案件もあったが、企業側が中止を決断した」。

 中止された案件の多くは、中国の電子部品メーカーや玩具製造業者に関するもので、なかには1億ドル(約140億円)規模の大型投資も含まれていました。

 王氏は「今はほぼすべてが停滞している状態だ。設備投資は一度着手すれば後戻りができない。だから、みんな慎重になっている」と述べました。

 ベトナムで長く繊維業を営んできた郭氏も、同様の状況に直面しています。彼はもともと、ホーチミン市で中国のパートナーとともに紡績工場を建設する予定でしたが、政策の変更を受けて、すぐにプロジェクトを中止しました。

 別の中国人経営者は、すでに現地で6万平米におよぶ工場建屋の建設を終えたものの、残された工程の着手を見合わせており、さらなる損失を避けるため事実上の凍結に踏み切ったといいます。

猶予期間に突貫生産

 輸出に強く依存するベトナム経済にとって、アメリカは最大の貿易相手国です。そのため、トランプ政権が相互関税政策を開始すると、ベトナム政府はすぐさま米国との交渉を開始しました。

 その結果、輸出企業にとって貴重な猶予期間として、90日間の「緩和期間」が設けられました。この間、輸出品の関税は一時的に10%に引き下げられ、生産現場では「時間との戦い」が始まっています。

 多くの中国系工場がフル稼働し、突貫で生産ラインを回し始めています。現地の中国人経営者の中には、「1か月で1年分の注文を受けた」「もう処理しきれない、完全にキャパシティオーバーだ」との声も上がっています。

 一方、経済学者・黄大衛氏は、猶予期間に突貫生産する中国系企業に対して警鐘を鳴らしました。黄氏は、「猶予期間はあくまで在庫処理と受注調整のための一時的な措置に過ぎない。中国企業が抜け道を探そうとすれば、かえってアメリカ側の規制強化を招くだろう。その時は、チャイナ・プラスワン戦略も、本当の終焉を迎えるかもしれない」と語っています。

 ベトナム当局によると、米国が相互関税政策の導入を発表すると、ベトナム北部にあるハイフォン港の出荷量は一時30%も落ち込みました。一方、猶予措置が取られた直後には急激に回復し、以前よりも20%ほど出荷が増えたとのことです。中には、数百コンテナ単位で一括輸出する企業もあり、ベトナムの対米依存の深さを物語っています。

貿易秩序の見直し訴える声

 産業の国外移転のリスクに対する認識が高まる中、アメリカ国内では、国際貿易を根幹から見直すべきだという声も高まりつつあります。

 米国の政治経済学者ジェームズ・ゴリー(James R. Gorrie)氏は寄稿文の中で、「2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して以降、世界中の消費者は安価な製品を享受できるようになった。しかし、その代償として、我々は貿易の不均衡や産業の空洞化、知的財産権の窃盗といった深刻な問題を抱えるようになった」と指摘しました。

 ジェームズ・ゴリー氏は、中国がWTOに加盟したことによって引き起こされた7つの大きな問題点を次のように列挙しました:

貿易不均衡の拡大
数百万単位の雇用の喪失
知的財産権に対する組織的な窃盗
工場の閉鎖と産業の空洞化
中産階級の縮小と社会の分断
「一帯一路」による債務危機の連鎖
中国の影響力拡大

 さらにグリー氏は、「中国をWTOから排除すべき時が来ている。自由な国家を中核とした新しい貿易秩序を築き、独裁国家を排除すべきだ」と呼びかけました。

 そして「より健全で、より公正で、より有益な国際貿易秩序を構築する時がきた」と述べました。

(翻訳・唐木 衛)