中国経済の低迷とともに、富裕層の移民が加速しており、かつて北京の高級住宅の象徴とされた昌平区(しょうへいく)「温哥華森林(バンクーバー・フォレスト)別荘区」では、現在荒廃が進んでいます。数千万元(数億円規模)の豪邸が多数空き家となり、庭には雑草が生い茂っています。かつての数千万元の別荘の多くは、いまでは会社のオフィスとして使用されています。管理や修繕がされておらず、豪邸は次第に朽ちてきています。

北京の高級住宅密集地、多くの所有者はすでに海外移住

 最近、ブロガー「忐忑的可乐饼(たんたくのコロッケ)」が公開した動画の中で、彼は北京昌平区に位置する「温哥華森林別荘区」を訪れています。

 彼によると、友人の代わりにこの別荘区で物件を物色しており、その友人は会社経営者で、昌平区の家の周辺にオフィス用の別荘を賃借しようとしていました。

 「温哥華森林」は、主に一戸建てと連棟式の別荘で構成されており、不動産情報プラットフォーム「安居客(あんきょかく)」や「房天下(ふうてんか)」によると、この住宅区の物件価格はおおむね1000万元(約2億円)以上です。独棟別荘の多くは1500万元〜2500万元(約3億〜5億円)で、さらに高額なものもあります。連棟式の別荘でさえも、1000万元を超える価格が一般的です。「温哥華森林別荘」は2002年から2003年にかけて開発され、すでに20年以上の歳月が経っています。

 同ブロガーは「中国経済が落ち込む前に、政府への不信感から多くの富裕層が財産を移転させ、すでにグリーンカード(永住権)などを取得している。『温哥華森林別荘区』では多くの別荘が空き家になってしまった」と語りました。

 彼を現地に案内した不動産仲介業者も、「このエリアの住民の多くは海外の身分を持っており、グリーンカードをはじめとする国外の身分証明を有しているケースが一般的です」と述べました。住民の大半は50代で、すでに海外へ移住している人が多いそうです。

 中国富裕層の海外移住はすでに長年にわたって続いており、中国共産党の専制的な政治体制への不満は、新型コロナウイルスのパンデミック時期に爆発的に表面化しました。ゼロコロナ政策の解除後、さらに多くの富裕層が海外移住の動きを強めています。

 このブロガーの観察は決して例外ではありません。実際の統計データもその傾向を裏付けています。投資移民業界大手「Henley & Partners(ヘンリー・アンド・パートナーズ)」のデータによると、2023年に中国から移住した高資産者は13800人で、前年比28%の増加となり、全世界で最も多い数値でした。同社は2024年末までに、さらに15200人の中国人ミリオネアが中国を離れると予測しており、これは過去最多の見通しとなっています。

空き家の豪邸、企業オフィスとして転用

 同ブロガーが見学した別荘の一つでは、庭や芝生の手入れが一切されておらず、荒れ放題となっていました。向かいの連棟式別荘も、多くが空室となっており、彼は「ここで隣人を探そうとしても、なかなか見つからない」と語っています。

 彼によると、かつてこの住宅区は「北京で流動性の高い住宅地」と呼ばれており、不動産市場が過熱していた時代には、物件の売買が活発に行われていました。住宅密度はそれほど低くはありませんが、基本的にすべてが独棟の建物です。しかし、今では住宅の流動性は過去に比べて大きく低下しています。

 彼は、「現在これらの中古豪邸は、ほとんどが価格を半分に下げても売れない」と語りました。

 中国では、一般国民が北京の高級住宅に関する公式な空き家率のデータを得ることは困難です。中国当局は、長年にわたって住宅の空室率データを公にしておらず、高級物件に限定した統計データなどは、ましてや存在しません。ごく一部のメディア報道や研究レポートで触れられることはありますが、権威ある統計としては不十分で、全体像を把握することはできません。

 同ブロガーは、不動産仲介業者の話として「現在、これらの空き別荘を借りているのは、ほとんどが会社で、オフィスや撮影スタジオ、ライブコマース用に使われている」と紹介しています。別荘の中には商品が山のように積み上げられ、住居として使用されているケースは非常に稀とのことです。

 彼はまた、「この住宅区では、隣の家が空き家だと分かれば、勝手にその家の駐車スペースに車を停める人もいる」と語っています。

 現場にいた仲介業者の一人は、「この住宅区に一時的に入居していたテナントのうち、昨年の上半期には多くが家賃を払えず、退去していった」と話していました。

 このブロガーの観察結果は、現在の北京高級住宅市場のマクロな動向とも一致しています。正確な空室率データがない中でも、市場の売買データからは、たとえ価格が数千万元(約数億円)規模の別荘であっても売却に苦戦していることが見て取れます。新たに市場に出された高級物件では、販売価格を下げてようやく買い手の関心を引く状況となっており、過去の不動産バブル期の高い回転率とは大きなギャップがあります。

 また、豪邸の場合、家賃による投資回収率(利回り)が非常に低いため、市場が下向きの今、物件オーナーにとって高額な家賃で借りてくれるテナントを見つけるのは困難です。

豪邸は「荒廃」へ——内装の劣化と賃貸の実情

 彼はまた次のように語りました。「一部の別荘は、長い間借り手がつかず、建物全体が劣化してしまっている。損傷の程度は深刻で、タイルが割れていたり、木製フローリングが剥がれていたり、外の草地の装飾やフェンスも多くが壊れている。車庫の壁面の下半分は湿気で腐食していて、壁の見た目は非常に不快だ。数年間、誰も住んでいなかったら、こんなふうにぐちゃぐちゃになってしまう。新型コロナウイルスの封鎖政策による影響も重なった結果、現在ではもはや住居として使えず、オフィス用途しか残されていない」

 「温哥華森林別荘」では、いくつかの物件が内装工事中であり、一方ではすでに賃貸に出されている物件もあるとのことです。「この分化は極端で、ある人は海外に逃れ、またある人はまだ必死に内装を続けている」と彼は表現しています。

 かつては富裕層が豪邸を購入した後、数百万元(約数千万円)をかけて内装工事を行っていた時代もありました。しかし現在の別荘区の状況はかつてとは異なり、「安っぽさが目立つ内装」の物件が増えています。多くの豪邸が企業に賃貸されており、企業側は豪邸の管理や維持にコストをかけることはせず、「最低限、使える状態」で済ませています。そのため、これらの豪邸の多くが「共通して荒れ果てている」のが現状です。

 同ブロガーは感慨を込めて次のように語りました。「この別荘区の住民の大半は『70後(1970年代生まれ)』で、2000年代から起業して徐々に富を築き、2020年のコロナ以前にはすでに十分なお金を手にしていた人たちだ。彼らは海外へ移住したか、あるいは国内で『寝そべり(努力をやめて現状維持を選ぶ)』している。一方、『80後(1980年代生まれ)』の世代は、ようやく登山の中腹までたどり着いたところでパンデミックに遭遇し、頂上にはたどり着けず、空気の薄い山の上へは進めず、結局下山するしかない。これが今の現実だ」

(翻訳・藍彧)