広州市黄埔区にある小学校が保護者へ送付した「自宅隔離告知書」が公開され、かつての「ゼロコロナ」期を思い起こさせる出来事として注目を集めました。三年四組の駱(らく)さんは2025年5月18日に新型コロナウイルス感染と診断され、上級機関の通知に基づき25日まで自宅隔離を命じられています。隔離期間中は集団活動や公共施設の利用が一切禁止され、終了後は文冲街衛生サービスセンター発行の「復学健康証明」を携行しなければ登校できません。告知書には学校名の押印と連絡先、日付(19日)が明記されていました。

 この文書がSNSで拡散されると、「弱い立場ほど締めつけやすい」「また草を食べる生活に戻るのか」など皮肉や不安の声が相次ぎ、三年前の長期封鎖が再来するのではという懸念が高まりました。広東省疾病予防管理センターが公表した4月の法定伝染病統計によれば、届け出総数11万2,456例・死亡115例のうち、新型コロナが乙類伝染病で最多を占めています。

 医療現場の実感はさらに切迫しています。広東省婦幼保健院の譚艶芳(たん・えんほう)医師と省第二人民医院の孫瑞林(そん・ずいりん)医師は、ゴールデンウィーク前後からコロナ外来が顕著に増えたと証言しました。広州中医薬大学第一付属医院小児科の劉華(りゅう・か)医師も、児童の呼吸器感染症が前年同期比で倍増していると述べています。こうした声は「全体としては安定」とする行政発表と食い違い、保護者は復学手続きや陰性証明の取得方法をSNSで共有し合う状況です。

 5月21日には浦東の建設現場で、資材を運搬中のトラックが「防疫」を理由に封印され、運転手が車外に出られなくなる出来事も発生しました。運転手が「違法ではないか」と訴える映像が投稿され、「危険物積載か、安全装備不足か」との推測が飛び交いましたが、投稿者は「防疫措置だ」と断言しています。 

 国家レベルの統計も楽観できません。中国疾病予防控制中心の5月23日発表によると、4月の新規確定例は16万8,507件、重症340件、死亡9件でした。陽性率は年初から16週連続で上昇し、第6世代系統NB.1.8.1を含むXDV系列が主流株となっています。免疫逃避能力が強まり、「一度治っても再感染しやすい」という臨床報告が相次いでいます。

 さらに5月24日、広州科技活動週の開幕式に遠隔登壇した中国工程院院士・鐘南山(しょう・なんざん)氏は「現在も感染ピークが続く」と述べ、3月末から5月初旬にかけて外来患者から採取した検体の陽性率が7.5%から16.2%へ、入院患者では3.3%から6.3%へ倍増したと説明しました。ただし累計感染者数や死亡者数には触れず、情報公開の透明性が改めて疑問視されています。

 こうした感染実態と行政発表のギャップは、データの「不可視化」による副作用をさらに大きくしています。2022年末、北京市や黒竜江省の火葬場が24時間稼働し、霊柩車を順番待ちする家族が絶えなかったにもかかわらず、当局が公表した同年の新型コロナ死亡者数はわずか数千人にとどまりました。2023年以降、日次の感染統計は廃止され、地方政府とメディアには「過度な報道を控えよ」という無言の圧力がかかっています。現在では「呼吸器感染症」や「基礎疾患悪化」と病名を書き換える手法が定着し、統計上から新型コロナの語がほぼ姿を消しました。 

 データが欠落すると、市民はリスクを正確に判断できません。症状があっても病名が付かず、会社や学校を休む根拠を得られないため、無理を押して出勤・登校し、クラスター発生の温床となります。医療機関も、公式データを基にした資材配分や病床確保ができず、現場の医師は「コロナと言ってはいけない」という政治的負担を抱えながら急増する患者に対応せざるを得ません。さらに臨床情報の欠如は、ワクチン改良や変異株解析を遅らせ、中国国内の公衆衛生研究だけでなく国際的な監視網にも大きな空白を生んでいます。

 こうした状況下で、多くの住民は検査キットと解熱剤を手放せない生活を続けています。「感染しても正式に診断されなければ療養証明が出ず、有給休暇も取れない」と嘆く労働者は少なくありません。教育現場では、広州の小学生のように隔離と復学をめぐる混乱が各地で再燃しており、担任教師が医療制度に詳しいわけでもないため、保護者はSNSで「自助マニュアル」を共有せざるを得ないのが実情です。 

 地方政府にとって感染者数を少なく報告するほうが「防疫に成功した」と評価されやすいという構造的問題もあります。感染例を多く申告すれば上級機関から「防疫不力」と叱責され、経済活動への影響も避けられません。そのため、現場は沈黙を選びがちです。専門家の間では「公表値は実態の一割にも満たない」という指摘が出ていますが、公式の場で共有されることはほとんどありません。情報断絶が続けば、次の大きな流行波を迎えたとき、社会は再び無防備なまま打撃を受けるおそれがあります。

 鐘南山氏の「感染ピークが続く」との発言は、官民の温度差を埋める技術的アラートとも解釈できますが、具体的な死亡統計を示さない限り、根拠に乏しい「警句」にとどまります。加えて、台湾の芸能人・徐熙媛(じょ・きえん)さんの逝去を引き合いに出したことで、国内の犠牲者数を相対化し、世間の注意をそらす意図があるのではないかと勘繰る声も上がっています。 

 広州の隔離告知書や上海トラックの封印に象徴されるのは、「ゼロコロナ」政策が名称を変えてなお残存しているという現実です。ウイルスが変異を繰り返すように、政治防疫も「名称変更」という突然変異を遂げ、統計のレーダーから姿を消すことで社会の視界を曇らせています。しかし、喉の痛みや家計への打撃といった肉体的・経済的苦痛はごまかせません。次に隔離の矛先が向かうのは学童の教室か、物流を支える運転手か、高齢者施設か――誰にも予測できない不確実性こそが、真実を覆い隠す最大のリスクです。

 「真実が沈黙させられるとき、健康は政治の犠牲になる」。これはパンデミック初期から繰り返し語られてきた警句です。数字を隠して得られる表面的な安定は、社会の「免疫」をむしろ奪います。症例を正確に公開し、市民生活と医療現場をデータで支える――その基本に立ち返ることこそが、日常回復への第一歩といえるでしょう。広州の小さな教室へ届いた一枚の隔離告知書が、全国の「見えない感染」を照らし出す間接照明となり、忘れられた真実を再び可視化する契機になるよう切に願います。

(翻訳・吉原木子)