経済の減速が深刻さを増す中、上海市は中小企業の負担を軽減し、地域経済を立て直すための新たな方針を打ち出しました。5月8日に行われた記者会見では、事業環境の改善を目指した10項目の重点施策が発表され、規制の緩和や罰則の軽減など、企業活動の活性化を促す内容となっています。

 中でも目を引くのは、街頭や夜市での屋台営業を奨励する取り組みです。市民生活に活気を取り戻し、消費者心理を刺激することで、冷え込んだ市場に再び息を吹き込む狙いがあります。

上海の規制緩和は経済的苦境への「見せかけの対応」

 上海市発展改革委員会の陳彦峰副主任は、市内にはおよそ300万を超える企業が存在し、そのうち約9割が中小零細企業や個人事業主であると説明しました。「現在の経済情勢において、こうした事業体が生き残り、成長し、拡大していくことは、経済の基盤を支え、雇用の安定を図る上で極めて重要である」と強調しています。

 また、上海市都市管理法執行局の張永剛局長は、今後は都市景観に関わる行政対応においても「軽微な違反には罰則を科さない」という方針を進めるとし、行政処罰を行わないケースをまとめた新版リストや、処罰を軽減する初のリストを発表する予定であると明かしました。

 これらの措置について、米経済学者・黄大衛氏は、「大紀元」の取材に対し、「今回の一連の措置は(中国)当局が経済の苦境に直面する中で取った消極的な対応であり、『形だけのイメージ戦略』にすぎない」と指摘しました。

 黄氏は、今回の規制緩和は「これまでの過度な介入、常識外れな罰則の乱用が中小企業に過大な圧力と不安感、恐怖心を与えてきたことの証左」だと述べ、「(中国)当局はその過ちに気づいたものの、正式に過ちを認めるつもりはなく、経済的圧力からやむを得ず方針を緩めただけ」と分析しています。

 また、上海は中国経済の中心都市であることから、「消費と投資が同時に低迷する今、(中国)当局は企業に対して歓迎と友好の姿勢を示し、引き留めようとしている。資本の流出を防ぐ狙いがある」との見方を示しつつも、「短期的には一定の効果があるかもしれないが、長期的には市場の信頼を得るためには政策の予測可能性と安定性が不可欠であり、『今日は緩和、明日は締め付け』という場当たり的な対応では信頼は得られない」と警鐘を鳴らしました。

穴だらけな中国経済 上海の緩和策は根本解決にならず

 中国の元人権派弁護士・呉紹平氏は「大紀元」の取材に対し、「かつて上海では不当な罰金の事例が極めて多かった。今回、企業の負担軽減をうたって軽微な違反に対する免罰措置を導入したこと自体が、上海経済が重大な局面に直面している証しであり、全体の経済情勢が非常に深刻であることを示している」との見方を示しました。

 呉氏はまた、「中国経済全般は『穴だらけ』の状態にあり、根っこから腐っている」と厳しく批判しました。その原因は、中国の経済体制が本質的に「中国共産党の権力が掌握する特権資本主義」であり、「計画経済と市場経済の中間に位置する歪なシステム」だからだと述べています。

 その結果として、中国経済は今や深刻な構造的問題を抱えているとし、「不動産市場の崩壊が進み、企業は生産への信頼を失い、国民の消費力も低下している。これは経済環境や土台、構造のすべてが機能不全に陥っている証拠だ」と語りました。

 そのうえで、「表面的な行政処罰の軽減といった『応急処置』では、こうした経済の根本的な危機は到底解決できない」と厳しく指摘しました。

中小企業を圧迫するのは罰金だけではない 根本的な負担は解消されず

 経済学者の黄大衛氏は、上海経済を支える中小企業が直面しているのは、行政罰に限られた問題ではないと指摘します。むしろ、「より深刻なのは重い税負担、社会保険料の義務、家賃や融資返済のプレッシャー」だと述べ、「行政処分の緩和だけでは、企業が直面する最大の課題であるキャッシュフロー(資金繰り)の問題を解決できない」と警鐘を鳴らしました。

 また、国有企業が民間企業の市場を次第に侵食している現状では、中小企業の生存空間はますます狭まり、経営の圧力は強まる一方だとし、「このような根本的な問題が解消されない限り、規制緩和の約束は単なるスローガンに過ぎない」と黄氏が指摘しています。

 黄氏は制度の不安定さについても言及し、「企業に対する支援の約束も、明確な法律や責任追及の仕組みがなければ、リーダーが代わるごとに、あるいは指導者の気分次第で簡単に反故にされる可能性がある」と述べました。

 呉紹平氏も、街頭で商売を行う人々の現状について、「たとえ城市管理部門(城管)が罰金を科さなくても、公安や税務、工商(商業行政)といった他の機関が別の名目で罰金を課す恐れがある」と語ります。

 呉氏はまた、上海は生活コストが極めて高い都市であり、経済の減速に伴って市民の収入も減少していると指摘しました。そうした中で、中国共産党の官僚による汚職が横行し、執行機関による「利権志向の取り締まり」が常態化している現実を踏まえ、「権力を握る各機関の公務員たちは、あの手この手で『独自の歳入』を確保しようとする。つまり企業から搾取しようと手を伸ばしてくるのは必然だ」と指摘しました。

消費冷え込む上海 経済の停滞と将来不安の表れ

 今年5月のゴールデンウィーク期間中、上海では観光地を訪れても消費を控える「見るだけ消費」の現象が目立ちました。こうした消費の低迷傾向は、すでに第1四半期から明らかになっており、上海市の今年第1四半期の社会消費財小売総額は前年同期比で1.1%減少し、3月の小売総額が14.1%も大幅に落ち込みました。

 黄大衛氏は、「上海はもともと中国で最も裕福で、先行消費の意欲が高い都市の一つだった。その上海でさえ『見るだけで買わない』という現象が起きていることは、経済の苦境によって消費者の可処分所得が大きく減り、将来への経済的期待までもが崩れている証拠だ」と指摘しています。このような可処分所得の縮小と将来への不安という「二重苦」は、単なる消費刺激策では乗り越えられないと強調しました。

 呉紹平氏も同様に、「かつての上海経済は、全国の中でも独り勝ちの様相を呈していたが、2019年以降は著しく後退し、現在はますます悪化の一途をたどっている」と述べました。「失業者は増加し、不動産価格は下落傾向にあり、庶民の収入は減少し、資産も目減りしている。こうした状況下では、消費に回すお金がなくなるのは当然だ」と語ります。

 呉氏はまた、「今の経済的困難の中で、多くの人が将来への不安と恐れを抱えている」とも指摘します。中国では十分な社会保障制度が整備されておらず、失業・老後・医療などの問題に直面した場合、大きな出費を強いられる現実があります。こうした要因が、庶民の財布の紐を固くしているのです。

 呉氏は、「多くの経済学者が、中国はすでにデフレーションの局面に入っていると指摘しており、この傾向が続けば、上海でも住宅価格のさらなる下落や失業率の上昇といった深刻な影響が避けられなくなる」と述べ、「中国共産党という『大きな船』が沈み始めており、上海もその船の重要な一部として、中国共産党と運命を共にして沈んでいくしかない」と、厳しい現実を突きつけました。

(翻訳・藍彧)