2025年3月以降、米中両国は複数の品目に対して相次いで高関税を課し、その税率は一部商品で100%を超える事態となっています。今回の貿易戦争は中国の輸出貿易に深刻な打撃を与え、外需の急減によって多くの対外貿易企業が受注を失い、工場の操業停止や閉鎖に追い込まれました。その影響は企業活動にとどまらず、一般国民の暮らしにも及び、「節約して生き抜く」ことが中国社会の新たな日常となりつつあります。

 特に若者の間では、「少しでも節約できるところは節約する」という姿勢が新たなライフスタイルとして定着し始めています。

 ある若いネットユーザーは、「今はお金を稼ぐのが本当に難しい時代になった」と嘆きます。家庭の食費を切り詰めたり、フリマアプリで中古品を売買したりするなど、生活のあらゆる場面に「節約」の工夫が見られるようになりました。TikTokなどでは、「生き残るための手引き」と称した節約術の投稿が人気を集めています。

 また別のネットユーザーは、「今の世の中、普通の人はどうすればいいのか?起業せず、店を開けず、インフルエンサーを目指さず、そして手元にある価値のあるものはすべて処分することにした」と自らの選択を明かしています。

にぎわう野菜市場 閑散とする衣料品店

 4月23日、上海在住の何秀珍さん(女性)は、ラジオ・フリー・アジアの取材に対し、「最近、街を歩くと野菜を売る店が増えた一方で、衣料品などの耐久消費財を扱う店は次々と閉店している」と話し、「野菜屋は多少商売になっているけど、それでも儲けは厳しい。私も洋服の購入はやめて古着を着回している」と生活の厳しさを口にします。

 企業の倒産が相次ぐ中、何さんのように、生活を切り詰めざるを得ない国民が増えています。上海市静安区に住む陳さんも、「関税戦争がより深刻な経済危機を引き起こすのではと、多くの人が不安を感じている」と話し、支出を抑える動きが広がっていると語ります。

 「もう長期的に構えるしかない。いつになったら状況が良くなるのか、まったく見通しが立たない。今はスーパーもほとんど人がいないし、若者たちは就職先もなく、消費を控えて、とても節約している。外食も減っていて、会社に行く人たちも、家から弁当を持って行くようになった」と陳さんは現状を語りました。

北京でも飲食業が不振 コロナ後の暮らしはさらに厳しく

 北京でも、飲食業界は深刻な不振に陥っています。市民の野靖環(イエ・ジンファン)さんは、多くの小規模飲食店が来客の減少に耐えられず、閉店や営業停止を余儀なくされていると語ります。

 「自宅の近くにあるいくつかの小さなレストランは、どこもお客さんが少なくて、テーブルに1組か2組しかいないこともある。時には、うちの家族だけということもあった。息子や孫と数人で食事をするだけ。まさに『惨憺たる経営』と言える」と彼女は話しました。

 一方、内陸部の甘粛省・蘭州市からの声もあります。地元出身の鄺豊(クアン・フォン)さんは、「住民の多くが支出を抑え、現金を銀行に預けたり、将来のリスクに備えて金(ゴールド)に換えたりしている」と述べます。

 「今の情勢を見れば、誰もが少しでも多く貯金したり、外貨に換えたりしたいと思っている。余裕がある人は、資産保全のために金(ゴールド)を買って長期保有している。銀行に預けていても安心できない。ある日突然、預金が引き出せなくなるかもしれないし、戦争が始まればお金も凍結されるかもしれない」と警戒感をあらわにしています。

 広東省の住民、陳子強(チェン・ズーチャン)さんも本音を語ります。「当初は、新型コロナの収束とともに経済もすぐ回復すると思っていた。しかし、3年たっても復活の兆しは見えず、さらに米中貿易戦争が追い打ちをかけている」とし、次のように述べました。

 「この数年で経済は完全に崩れました。『習近平の指導で発展が進み、軍事力も強化された』なんて報道では言っているが、実際のところ、庶民の生活はどんどん悪くなっている」

 専門家の中には、「節約して生活する」という行動が、今の中国社会ではもはや個人の選択ではなく、社会全体に広がる現象だと指摘する声もあります。経済の長期低迷、貿易戦争による外部圧力、そして雇用不安が重なり、多くの人々が自ら進んで支出を抑え、不確かな将来に備えているのです。この傾向は、中国社会に広がる不安感の高まりを如実に示しています。

消費喚起の呼びかけも空振り 「共に困難を乗り越える」には限界

 中国政府は繰り返し発言を重ねて国民の信頼を安定させようとしていますが、消費者の購買力が低下していることは、もはや否定できない現実です。

 4月24日、中国共産党の機関紙『人民日報』は、珍しくも「関税戦争が中国経済に一定の圧力を与えている」と認めました。それに先立つ4月9日には、李強首相が専門家との座談会で、「国内大循環」の構築、すなわち内需拡大を長期戦略として重視すべきだと発言しています。
こうした政府の姿勢とは裏腹に、一般国民の反応は冷ややかです。SNS上では、2025年の就職環境が非常に厳しいとの声が多く上がっており、路上で露店を開く人が急増している現象も報告されています。特に目立つのは、1990年代や2000年代生まれの若者たちです。

 「今は露店商も若返ってきている。以前は中高年層のイメージだったが、最近は若者がどんどん参入している」と、あるネットユーザーは現場の変化を語っています。

 オーストラリア在住の歴史学者・李元華氏は、こうした若年層の現状に警鐘を鳴らします。「多くの若者は、本当の意味での困窮を経験したことがない。仮に貿易戦争によって中国経済が数十年前の水準まで後退した場合、彼らがその現実に耐えられるかどうかは疑問である」と述べたうえで、次のように指摘しています。

 「中国共産党はかねてより、『困難を全国民で一体となって乗り越える』という集団主義を武器にしてきた。これはアメリカにはない強みだと信じているわけだが、現実には、すでにその『カード』が通用しなくなってきている可能性がある」

失業の波が「新白紙運動」を誘発か 党機関紙が突如「青年統制」に言及

 4月25日、中国共産党の機関紙『人民日報』は突如として「党が青年運動を指導する必要性」について論じる記事を掲載しました。この唐突な主張の背後には、深刻化する若者の失業問題があるのではないかとの見方が広がっています。

 台湾のシンクタンク「励志協会(TIA)」の賴栄偉(ライ・ロンウェイ)理事長は、「中国共産党が若者の動向に神経を尖らせているのは、明らかに失業の影響である」と指摘します。

 「今の若者は大学を卒業しても働き口が見つからず、自宅で無為に過ごすか、街をさまようしかない。中国共産党は、彼らが『寝そべり(躺平)』のように消極的になるのを恐れる一方で、路上に出て抗議を始めることも強く警戒している」と賴氏は語りました。

 2022年末には、上海や北京をはじめとする中国各地で「白紙運動」と呼ばれる抗議デモが広がりました。新型コロナの封鎖政策に抗議する若者たちが、検閲を避けるため無言で白紙を掲げて訴えたこの運動は、中国当局に強い衝撃を与えました。

 賴氏は「今回の若者による抗議は、以前のように白紙を掲げる形ではなく、より見えにくい方法で怒りを示すようになるだろう」との見解を示しています。

 アメリカの経済学者デイヴィ・ジュン・ホワン氏は以前のインタビューで、「米中貿易が途絶えれば、中国では3000万人から3500万人が失業する可能性がある」と警告していました。中国の輸出の約3分の1が対米輸出に依存しており、繊維、衣料、電子組立といった労働集約型の産業が打撃を受けることで、多くの中小企業が倒産し、雇用危機が加速する恐れがあるとしています。

 2025年には、中国の大学卒業生数が1200万人を超える見込みです。北京大学の研究者である張丹丹氏は、すでに2023年の段階で「中国の若者の実質的な失業率は46.5%に達している可能性がある」との研究結果を発表しており、状況の深刻さが浮き彫りになっています。

(翻訳・藍彧)