かつては「若者が稼ぎ、中年が支え、高齢者が余生を送る」という家族のかたちが当たり前だった中国で、いま、その常識が大きく崩れつつあります。

 経済の減速と就職難が続く中、若者は無職のまま家にとどまり、中年層はリストラや減給で職場から押し出され、年金を受け取る高齢者が、家計を支える存在になっています。

 この記事では、実際の家庭の声や専門家の分析を通じて、中国社会に広がる「三世代の逆転」現象の実態と、その背後にある構造的な問題を見つめていきます。

若者たちの苦境、失業の常態化と引きこもりの拡大

 「今どき、仕事に行っていない若者なんてたくさんいるよ」と遼寧省瀋陽市に住む21歳の女性・花さんは、近所の人からの心配の声にこう答えました。彼女によると、自身を含め、大学の寮で共に過ごした友人たちは皆、卒業後に就職できておらず、家族5人の暮らしは母親の収入と祖父母の年金に支えられているといいます。

 こうした花さんのケースは、決して珍しいものではありません。若者文化に詳しい調査チーム「青年志(China Youthology)」の調べによると、現在、中国の多くの若者は「フリーランス」や「非正規雇用」、あるいは完全な失業状態にあります。特に東北部などの旧工業都市においては、月給4000元(約8.2万円)を超える安定した職を見つけることすら困難な状況です。中にはネットでの起業や副業に挑戦する若者もいますが、収入は不安定で、自立した生活を送るのは難しいのが現実です。

 中国では若者の失業率が高止まりしています。政府の統計によれば、2023年以降、若年層の失業率は常に17%を超える水準で推移しています。中国の官製メディアの報道によると、現在全国には「フレキシブル就業」とされる人口が2億人を超えており、その多くが正規の雇用先を見つけられず、やむを得ず短期バイトやネットショップの運営などに従事しているといいます。

 また、一部の若者は「蟄居(ちっきょ)」という選択をしています。これは、長期間にわたり家に引きこもり、就職活動や人付き合いを避けて生活する状態を指します。南京市に住む大学卒業生の徐さん(男性)も、長く職に就けなかったことで「寝そべり族」となり、今では年金生活を送る祖父母から生活費の援助を受けて暮らしています。家族のほかのメンバーもリストラの影響で収入が途絶えており、家全体が経済的な困難に直面しています。

中年層は「疎外」されている

 中年層においても、失業や減給はすでに珍しいことではありません。西南部の国有企業に勤務する50代の鍾さんは、記者の取材に対し、「現在、会社から支給される月給は全体の75%にとどまり、残りは年末の賞与として後回しにされている」と語りました。鍾さんと妻の月収を合わせてもわずか6000元(約12万円)あまりで、小学生の息子と失業中の娘を養わなければならない状況です。

 「娘はネットショップで起業してはいるが、収入が不安定で、たびたび家族からの仕送りが必要になる」と鍾さんは話します。「もし義父の年金や家賃収入がなければ、日々の支出は到底まかなえない」と家計の厳しさを明かしました。

 こうした事例は、経済発展が比較的遅れている地方都市、いわゆる「三、四線都市」でより顕著です。江蘇省の楽さんは、中年層が多くの業界で「35歳の壁」に直面していると指摘します。一度職を失えば、再就職はきわめて困難だというのです。「中年は家庭を支える責任を負っているにもかかわらず、最も簡単に切り捨てられてしまう世代である」と楽さんはその理不尽さを訴えました。

高齢者が家計の大黒柱に

 複数の地域の人々は、いまや多くの家庭において、年金が生活を支える要となっていると語ります。

 北京市内に住む趙航さんは、配車アプリを通じてドライバーとして働いており、妻との月収を合わせても7000元(約14万円)程度だといいます。一方で、同居する両親の年金は1万元(約20万円)を超えており、その額を上回っています。「今では親の家に住み、親の年金で生活するのが当たり前になっている。『親のすねをかじる』ことを恥ずかしいと思う人も少なくなった」と趙さんは率直に語りました。

 中には、三世代全員が年金に依存するという家庭もあります。遼寧省の邵東さん一家では、最も高収入なのは1960年代生まれの両親で、夫婦の年金は1万元を超えています。その次が70代の祖父母で、邵東さん本人は1980年代生まれで、月収は3000元(約6万円)に満たない状況です。

 また、農村部や体制外の労働者など、年金額がきわめて少ない層においては、高齢者が高齢にもかかわらず働きに出て、家計を補わざるを得ないケースも少なくありません。かつて寧波市で働いていた陸乾坤さんは、「私の70代の伯母はいまだに外で働いている。彼女には正式な退職金がなく、毎月わずか百元の補助金だけでは暮らしていけないのだ」と話します。

「世代間の逆転」が映し出す制度の歪み

 経済学者らは、中年層の失業、若年層の無職化、そして高齢者が家計を支えるといった現在の家族構造は、単なる偶然ではなく、中国社会が抱える根深い経済的・制度的問題を反映していると指摘しています。

 江蘇省の反体制派である楽凱安氏は、この問題は決して「個人の怠惰」や「努力不足」に起因するものではなく、制度上の不公平に根ざしたものであると強調します。彼によれば、公務員や国有企業など体制内の労働者は、退職後も比較的手厚い年金保障を受けられる一方、民間企業や非正規雇用の労働者、農村部の住民など体制外の人々は、老後の保障が極めて薄く、これが「世代間の逆転現象」を引き起こしているといいます。

 ネット上で拡散されている記事『中国の年金制度についてすべての人が知っておくべき5つの常識』では、2009年から2023年にかけて、体制内退職者の月額年金は約2000元から6000元超へと大幅に増加した一方で、都市部および農村部の住民向け年金は、わずか55元から223元へと増えただけにとどまり、その差は依然として大きいと指摘されています。

 陸乾坤氏も、この現象は「一世代の失敗」ではなく、中国共産党体制の構造的欠陥が凝縮された結果だと見ています。「今の時代に『高齢者が家族を支える』という構図が可能なのは、あくまで体制内で退職した人たちに限られた話である。一般の庶民にとっては、年老いてもなお、体を動かして家族を支え続けるしかないのが現実である」と陸氏は厳しい現実を語りました。

社会不安の温床――庶民の手に負えない「運命」の代償

 今回の米中関税戦争は、中国の一般国民にとって、またしても自らの力ではどうにもならない「運命の試練」となっています。

 中国の著名な経済学者・向松祚こうしょうそ)氏は、「最も楽観的に見積もっても、中国の輸出は少なくとも1割以上減少するだろう」とし、「輸出できなくなった過剰な生産能力が国内市場に押し寄せ、価格競争が激化する。これは企業にとって生き残りをかけた死活問題である」と警鐘を鳴らしています。

 また、江蘇省の反体制派・楽凱安氏は、このような現象は今後さらに深刻化し、良質な雇用の機会はごく一部の人間にしか与えられず、社会資源が特権階級へと集中していく結果につながると指摘します。その結果、「世代間逆転型のゆがんだ社会構造」が固定化される可能性すらあると述べました。

 陸乾坤氏も、高関税やサプライチェーンの再編により、中国の中低価格帯の製造業から大量の注文が失われているとし、沿岸部の民間企業は倒産の危機に直面していると述べました。最初に職を失うのは、スキルの低い労働者や基礎的なホワイトカラー層であると見られています。そして、こうした中低所得産業の衰退により、サービス業や全体的な消費市場にも深刻な影響が波及することになるでしょう。

 陸氏は、「特に若者、農民工、中年層にとっては、こうした経済の減速が直接的な痛手となる。彼らが信頼と保障を失ったとき、社会不安の温床となるのは時間の問題だ」と厳しい現実を語りました。

(翻訳・藍彧)