5月6日は中国の二十四節気の一つ「立夏」にあたり、暦の上では夏の始まりを意味します。しかし、中国各地で気温が上昇し始めていたこの日、湖北省神農架、陝西省太白山、四川省九寨溝、重慶市城口などで、思いがけない「夏の雪景色」が現れ、多くの人々を驚かせました。インターネット上でも大きな話題となりました。
神農架林区にある神農頂景勝地では、標高3000メートルを超える山岳地帯に大雪が降り、一帯は真っ白な銀世界となりました。季節とのギャップが鮮明で、観光客たちは「まるで夢のようだ」と驚きの声をあげました。景区の関係者によると、5月に雪が降ることは過去にもありましたが、今回のように広範囲にわたって深く積もるのは極めて珍しいとのことです。中部地方から訪れた観光客は、「昨日は半袖だったのに、今日はまるで冬の童話の世界に入り込んだようです」と語りました。
同じ頃、太白山でも5月としては異例の大雪が降りました。積雪は15センチに達し、気温は氷点下1度まで下がりました。山全体が雪で覆われ、まるで北国のような美しい風景が広がりました。登山やハイキングを計画していた観光客たちは、思いがけず「立夏の雪見」を楽しむことになりました。あるネットユーザーは雪の中を歩く動画をSNSに投稿し、「一瞬で夏から冬へとワープした気分」とコメントしました。
九寨溝でも雪が舞い、原生林や湖が白く彩られ、幻想的な風景が広がりました。多くの写真愛好家が貴重な瞬間を撮影しようと集まりました。
一方、城口県黄安壩地区では、5月7日未明に降雪があり、屋根や草地、道路が雪に覆われました。地元住民は「ダウンジャケットを片付けたばかりなのに、また引っ張り出さなければいけない」と苦笑し、SNS上では「昨日立夏だったのに、今日、半袖の私は完全に浮いていた」といった投稿も見られました。
この「立夏の雪」について、気象専門家は、北から南下した寒気と高地特有の地形・気候条件が重なったことが原因だと説明しています。神農架や太白山のように標高3000メートル以上の高山地帯では、春と夏の境目に冷暖の気流が激しくぶつかることで、短時間の降雪、いわゆる「寒の戻り」が発生しやすくなります。こうした現象は季節外れに見えるものの、気象学的には自然な変動の範囲内であり、現時点では地球温暖化などとの明確な因果関係は確認されていません。
この「夏の雪景色」はSNS上でも大きな注目を集めました。多くの人々が現地の写真や動画を投稿し、「半袖で雪見なんて、雪見チケット代は?」「気候がコロコロ変わるなら、私も、今日は同じ様にルール通りに動きたくない」「今日は立夏なら、明日は春節か?」など、ユーモアあふれるコメントが相次ぎました。気温の急変に戸惑う人もいましたが、大多数はこの予想外の自然現象を「思いがけない贈り物」として楽しんでいました。一方で、「このような寒の戻りが農作物に悪影響を及ぼすのではないか」「今年の作柄や来年の収穫に影響が出るのでは」と懸念の声も上がっています。
神農架林区は、豊かな生物多様性と原始林で知られ、中国有数の自然保護区です。また、「百草を嘗めた」とされる神農氏伝説の発祥地でもあり、農業と薬草の祖とされる神農氏は、中国文明の基礎を築いた象徴的存在でもあります。
一方、九寨溝は阿壩チベット族チャン族自治州に位置し、独特のカルスト地形と色彩豊かな湖沼群で世界的にも有名な観光地です。四季を通じて美しい風景が広がり、自然愛好家や写真家たちにとっては理想的な撮影スポットとして親しまれています。
今回の「立夏の雪」は、単なる自然現象にとどまらず、人々の間に極端な気象への関心を呼び起こす契機ともなりました。専門家は、自然な気象変動とはいえ、環境や農業への潜在的影響を見据えて注意深く観察を続ける必要があると呼びかけています。
神秘的な伝説を持つ神農架と、幻想的な風景が魅力の九寨溝。両者は今回の雪によって、改めてその異なる魅力を放ちました。美しい自然を楽しむと同時に、私たち一人ひとりが地球環境を大切に守っていく責任があるのではないでしょうか。
(翻訳・吉原木子)