米中間の関税戦争がエスカレートする中、中国の製造業は改革開放以来とも言える深刻な構造的打撃を受けています。特に繊維や電子機器など輸出を主力とする産業では、受注の大幅な減少に直面し、多くの企業が減産や人員削減を余儀なくされています。中には、生産停止や工場閉鎖に踏み切る企業も現れており、一部地域では労働者を一斉に休ませる「休業ラッシュ」が広がっています。
中国の繊維産業が厳冬に入り 操業停止や工場閉鎖が相次ぐ
伝統的な労働集約型産業である繊維業界は、関税戦争の影響を最も強く受けています。最近では、複数の繊維工場が操業を停止し、施設を閉鎖する様子を撮影した動画がネット上に広がり、話題となっています。
4月17日、中国のある繊維製品企業の責任者である王さん(仮名)は、大紀元の取材に対し、「工場の受注量は半減した。以前は1日80トンの生産が可能だったが、現在は30~40トンにまで落ち込んでいる」と述べました。
王さんは、「米市場は世界全体の消費の約3分の1を占めており、衣料品、履物、帽子、化学製品、日用品、玩具といった業界に大きな影響を及ぼしている。かつてはフル稼働していた工場も、今では1日働いて1日休むという状態。現時点では何とか持ちこたえているが、在庫はあと半月しかもたない」と苦しい現状を語りました。
貿易戦争の影響により、不安が広がっています。王さんは、「今のところ国や政府からの補助はなく、生産を停止している企業も少なくない。価格を下げて在庫を処分しているのは、一部の企業が資金を回収するためだ。すべての商品を倉庫に眠らせておくわけにはいかない。でも、企業は本来、利益を出してこそ成り立つもので、赤字続きの商売を続けることはできない」と語りました。
王さんの勤務する企業はかつて、2つの大規模な工場を所有し、従業員は500人を超えていました。しかし現在は、経営資源を再編し、2つの工場を1つに統合し、残る1棟は十数社の小規模企業に賃貸し、家賃収入でなんとか維持しています。
「今のところ、うちの工場ではまだ人員削減には踏み切っていないが、それも我慢して踏ん張っているだけだ。注文がなければ、いずれみんな解散することになるだろう」と王さんは厳しい表情で語りました。
輸出企業「集団休業」の動きが広がる
影響を受けているのは繊維業界にとどまらず、輸出産業が盛んな浙江省、江蘇省、広東省などでも、最近になって多くの企業が相次いで「休業通知」を発表しています。ネットやSNS上の情報によると、数十社にのぼる企業が操業停止を予定しており、期間は5月初旬から6月いっぱいにかけてと、さまざまです。
例えば、江蘇省にある、10年以上にわたって海外輸出を続けてきたあるアパレル企業は、4月中旬から操業停止に入り、6月末まで続く見込みです。また、広東省東莞市の中規模電器メーカーも、輸出注文のキャンセルが相次いだため、4月から1カ月間の操業停止を決定しました。休業期間中の従業員には基本給のみが支給されると発表しています。
かつて浙江省、江蘇省、広東省の外需向け工場で長年にわたり管理職を務めていた陳翔さん(仮名)は、ラジオ・フリー・アジアの取材に対し、次のように語りました。
「浙江省は中国でも有数の対外貿易が盛んな地域で、2024年には輸出額がGDPの7割以上を占めている。しかし現在、海外からの注文は激減し、国内の消費も振るわない中で、企業のプレッシャーは非常に大きくなっている。私は製造業に10年以上携わってきたので、中国の人口と製造業が比例関係にあることを実感している。今のような経済状況は、ここ数十年では見たことがないほどの深刻さだ」
陳さんによると、広東省東莞市から浙江省紹興市、江蘇省蘇州市から福建省泉州市に至るまで、外需を中心とする企業は共通して、「人員削減か減産か」という二者択一の厳しい選択を迫られているとのことです。
深センの電子市場、業者は様子見で在庫を抱える動き
一方、中国における電子機器サプライチェーンの中核を担う深セン・華強北(ファーチャンベイ)市場にも、今回の関税措置の影響が広がっています。特に中国当局が米国からの輸入チップに対して高関税を課すと発表したことを受け、一部の業者は価格上昇を見越して「販売停止による値上がり待ち」の姿勢を取り、価格提示を一時中止するなど、電子製品の価格が大きく変動する事態となっています。
ある店舗経営者は率直に語りました。「今はみんな様子を見ている。価格が急騰したり暴落したりするのではないかと不安だ」。多くの業者は、関税政策が「朝令暮改(朝に出した命令が夕方には変わる)」のように不安定であることから、短期的な価格変動のリスクを予測できず、在庫を抱えたまま動かずに様子を見るという対応を取っています。
4月14日には、華強北市場で買い物客が激減し、「閑散」とした雰囲気が広がりました。中には一時的に店を閉めて営業を停止する店舗も見られました。
複数の商人によると、CPUやGPU、SSDといった人気の電子部品では、価格変動が10~15%に及んでおり、本来であれば1万元(約20万円)で組めたパソコンも、現在では数百~数千元(数千円から数万円)高くなる可能性があるということです。
関税戦争が「脱・中国化」を加速させる可能性も
今回の米中貿易摩擦について、世界のサプライチェーンが東南アジアやインド、メキシコなど他の地域へと移行する動きをさらに加速させるのではないかとの懸念が広がっています。いわゆる「脱・中国化」の流れが一段と強まる可能性があります。
経済評論家の王赫氏は、近年の中国製造業はすでに人件費の高騰、用地取得の困難化、そして環境規制の強化といった複数の課題に直面してきたと指摘します。「今回のトランプ政権による関税措置は、まさに『急ブレーキ』のようなものだ。米国企業としては、リスクを回避するために、当然ながら調達先を他国へ分散させる動きに出るだろう」と語っています。
また、台湾の経済専門家である黄世聡氏も、「中国の対米輸出は年間5000億ドル以上であり、この市場を失えば、中国のGDP成長に深刻な影響を及ぼすのは避けられない」と分析しています。
王氏はまた、次のような厳しい見解を示しました。「中国は共産主義国家であり、政権はトランプ氏のような選挙のプレッシャーを受けることがない。また、失業などの社会問題を隠蔽する傾向もある。当局は国民にもう少し耐えるよう仕向け、限界を迎えたときにようやく方向転換する可能性がある。しかし、そうしたやり方は中国経済に深刻なダメージを与える『致命傷』となりかねず、非常に賢明とは言えない。こうした状況下で、誰が習近平氏を説得して軌道修正させられるのか――現実的には、そんな人物は見当たらない」
王氏は、米国には依然として多くの選択肢が残されているとし、「もし中国共産党が米国主導の国際秩序に参加する意志を示さなければ、国際社会で孤立することになるだろう」と強調しました。
先行き不透明な中国製造業
米中間の貿易摩擦は依然として緊張状態が続いており、その出口は見えていません。そうした中で、中国の製造業はすでに「厳冬」へと突入しています。輸出に依存する産業構造の中で、企業の生存空間は日を追うごとに狭まり、苦境が深まっています。
今後、いかにして雇用を維持し、サプライチェーンを安定させ、市場の信頼を取り戻すことができるかが、中国経済が「軟着陸」できるかどうかの鍵を握っています。
(翻訳・藍彧)