米中貿易戦争の激化は、中国の輸出産業にかつてないほどの衝撃を与えています。かつて中国のGDP統計に疑問を呈して封殺された著名な経済学者・向松祚(こう・しょうそ)氏は、最近の講演で「最も楽観的に見ても、今年の中国輸出は10~15%減少する」と警告しました。生産過剰により輸出から内需への転換が進めば、価格競争が激化し、「まさに生死存亡の挑戦だ」と述べています。

 向氏は中国人民大学の元教授であり、同大学国際貨幣研究所の副所長も務めていました。ネット上で拡散された講演の中で、向氏は、米国が仕掛けた「対等関税戦争」が中国の製造業に対して極めて的確な打撃を与えたと指摘し、中国経済の構造的な歪みが露呈していると述べました。特に、中国が長年にわたって外需に依存した成長を続けてきた一方で、内需が十分に育っていないという課題が浮き彫りになっています。

 輸出企業は広東省、浙江省、江蘇省、山東省などの沿海地域に集中しており、大量の注文キャンセルがこれらの地域に深刻な影響を及ぼしています。「この苦境が半年で終わるのか、一年続くのか、それ以上になるのかは不透明です」とし、「特に伝統的な製造業、なかでも自動車関連産業は極めて深刻な困難に直面しています」と強調しました。さらに、機電製品、衣料品、家庭用小型電気製品など、米国向けの主要輸出品目も大きな打撃を受けていると述べました。

 「問題の深刻さは想像を超えるレベルにあります」と向氏は語り、これらの供給過剰産業が輸出市場を失えば、内需への転換が避けられず、その結果として激しい価格競争が発生すると警鐘を鳴らしました。そして、「これは人類にとって画期的な大変動であり、中国やアメリカだけでなく、世界中のほぼすべての国々にとって、貿易・経済・産業・通貨・金融の秩序が本格的に再編される転換点となる」と述べました。

 一方、北京大学国家発展研究院の経済学教授である周其仁(しゅう・きじん)氏も、最近の講演で中国経済の現状について、「まるでサンドイッチのように上下から押し潰されている」と表現しました。上からは先進国の技術と資本の優位性、下からはインド、ベトナム、東欧など新興国の低コスト競争が押し寄せてきています。コストが上昇する中で、中国のイノベーション力や製品の競争力が依然として不十分であるという現実に直面しています。

 周氏は、民間企業が今後の打開策の鍵を握っていると強調しました。民間企業はすでに中国経済成長の原動力となっており、その活力は国家経済全体にとって不可欠です。しかし現在、浙江省、江蘇省蘇州市、広東省東莞市などの主要な輸出地域では、米国からの注文がほぼゼロに落ち込み、在庫が大量に積み上がっています。このため、多くの企業が5月の大型連休(日本のゴールデンウィークに相当)明けに操業停止や時短勤務を実施しており、中国の輸出寒波の象徴とも言える状況となっています。

 また、米国が中国製品に対して最大145%の高関税を課したことにより、中国から北米へのコンテナ輸送量が急減し、海運業界では大規模な「運航キャンセル(空便)」の波が広がっています。米CNBCの報道によると、貨物輸送会社HLS Groupの統計では、4月16日時点で中国発の貨物船がすでに80便キャンセルされています。これらの便は本来、米国向けの大量のコンテナを積載する予定でしたが、高関税による需要の急減により運航が中止されました。

 この傾向は、太平洋航路全体に急速に波及しています。海運大手ONEは当初、5月に青島、寧波、上海、釜山、バンクーバー、タコマ(Tacoma)を結ぶ航路の再開を予定していましたが、「無期限の延期」を発表しました。また、別の航路ではノースカロライナ州ウィルミントン港への寄港が中止となっています。

 Sea-IntelligenceのCEOであるアラン・マーフィー氏は、「受注の急減が航路運営にどのような影響を与えるか、現時点では予測不能です」と述べ、「アジアから米国へ向かうコンテナの大半は中国から出荷されているため、完全になくなることはないにしても、大幅な減少は避けられないでしょう」と語りました。

 市場調査会社Linerlyticaの報告によると、今後3週間で中国のコンテナ予約量は30%から最大60%減少する可能性があり、アジアの他地域でも10%から20%の減少が見込まれています。また、中国交通運輸部のデータによれば、2025年4月7日から13日にかけて、中国全土の港におけるコンテナ取扱量は前週比6.1%減少し、それまでの1.9%の増加から一転しました。

 5月の大型連休によって出荷需要がさらに低下することも予想されており、運賃の下落を防ぐため、今後さらに多くの便がキャンセルされる可能性があります。すでに一部の船会社では、太平洋東航路におけるサービスの抜本的な再編が進められており、今回の運航調整が一時的なものではなく、構造的な戦略転換であることを示しています。

 1便あたり8,000~10,000TEU(20フィート標準コンテナ)を積載すると仮定すると、80便のキャンセルにより64万〜80万個のコンテナがグローバル供給網から一時的に失われたことになります。これは、港湾の荷役作業、料金設定、トラック・鉄道輸送、倉庫物流など、あらゆる物流工程に波及する可能性があります。

 船会社の対応も一様ではありません。一部は運航便数を大幅に削減して運賃の維持を図っていますが、別の企業は既存の航路と高い運航能力を維持し、シェア拡大を狙っています。このような戦略の違いが、市場競争の激化と価格の変動をさらに加速させると見られます。
加えて、米国は他国に対して「対等関税」を90日間凍結する措置を講じており、短期的には東南アジアやヨーロッパ諸国の輸出が急増しています。これにより、「脱中国依存」の動きが完全に定着したとは言えないものの、地域間の産業再配置と供給網の見直しが進行しているのは確かです。

 グローバルな貿易秩序の再編が進む中で、中国の製造業は外部からの圧力だけでなく、構造的な内需不足や技術革新の遅れといった内部課題にも直面しています。本格的な経済構造の転換が実現できるかどうかが、中国経済の今後を左右する重大な分岐点となるでしょう。

(翻訳・吉原木子)