米中関税戦争が激化する中、中国東部・浙江省に位置する世界最大級の卸売市場・義烏は、かつてない打撃を受けています。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、義烏市場からアメリカの顧客がほぼ「消滅した」と報じました。

 これまでアメリカの消費者や業者は、義烏でぬいぐるみ、パナマ帽、玩具のスナイパーライフル、祝祭用装飾品など、様々な商品を調達してきました。義烏市場には7万5000の店舗が並び、敷地面積は1000のアメリカンフットボール場に相当します。超低価格と豊富な品揃えで、数十年にわたってアメリカの小売業者にとって欠かせない供給源となってきました。

 市場は5つの巨大なエリアに分かれており、それぞれ複数階建ての建物で構成されています。第4エリアの一部は靴下を専門に扱っています。これらの靴下の大部分は近隣の諸曁市で生産されています。中国国営メディアはこの都市を「世界の靴下の都」と呼んでおり、新華社によると、諸曁市内のある街道だけでも年間約250億足の靴下を生産しています。これは世界全体の約3分の1を占めるとされています。国際貿易センターの「トレードマップ」によれば、2023年におけるアメリカの靴下輸入の56%は中国からのものでした。しかし、現在の高関税下ではこの状況が急速に変化しています。靴下は典型的な低利益商品であり、生産業者によれば、アメリカの輸入業者が支払う145%の高関税を吸収するために価格を下げるのは不可能とのことです。このため、コストの転嫁は最終的に米国の消費者の負担が増すことに繋がる可能性があります。

 浙江省諸曁市に本拠を置くある靴下メーカーは、これまで毎年約50万足をアメリカに輸出していました。しかし今年は関税引き上げ後、米国からの注文をすべて停止したといいます。担当者の楊さんは、トランプ政権による関税政策の報道以降、長年の取引先からの返答をずっと待っている状況だと語りました。

 別の靴下メーカー「Vision」の責任者である46歳の王さんは、「現在、諸曁市の工場で数百人の労働者が靴下を生産しています。1足あたりの価格はおよそ25セント程度で、その約30%がアメリカ向けに輸出され、残りは中国国内およびその他の海外市場に出荷されている」と説明しました。

 トランプ大統領が中国に対して145%の高関税を課したことで、米国のバイヤーにとっては中国製靴下の輸入がもはや経済的に成り立たなくなっています。一方、パキスタン、ホンジュラス、エルサルバドルなども靴下の生産国として注目されています。もし中国からの注文が激減すれば、これらの国が供給の一部を補う可能性があります。

義烏の多くの卸売業者は、他国への販路拡大により生き残りを図る姿勢を見せています。しかし、アメリカの消費者が今後、安価で種類豊富なキーホルダーや野球帽、保温マグなどをどこから手に入れるのかという疑問も広がっています。

 諸曁市の靴下メーカーである周氏は取材に対し、「もちろん、他の国から商品を仕入れることはできます。しかし、中国のように生産できる国があるかどうかはわかりません。中国の生産能力は本当に驚異的ですから」と語りました。

 『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、中国の価格競争力、納期の速さ、熟練労働者による大量生産体制といった強みは容易には代替されず、もし米国のバイヤーが何百万足もの注文を他国に切り替えようとしても、生産能力の制約から価格上昇は避けられないだろうと分析しています。

 経済調査会社キャピタル・エコノミクスは、現在の145%関税が継続された場合、中国の対米輸出は今後数年で50%以上減少すると予測しています。最悪のケースでは70%の暴落もあり得るとしています。この場合、中国のGDPは約2%縮小すると見込まれています。

 トランプ大統領は今月10日、数十カ国からの協議要請を受け、対中以外の国に対する関税率を90日間据え置くと発表しました。すでに米国と貿易協議を進め、報復措置を取っていない75カ国については、当面は関税率を10%に維持する方針ですが、中国からの輸入品に対しては145%の高関税が正式に発動されました。

 また、中国人民銀行は通貨の人民元を意図的に下落させる兆候を見せています。同社は年末までに人民元の対ドル為替レートが1ドル=8.00まで下落すると予測しています。これにより、輸出の落ち込みを50%以内に、GDPの減少を1.5%以内に抑える効果が期待されています。

 トランプ政権は、さらに関税の適用範囲を拡大したり、他国との協定を通じて中国に圧力をかける戦略を取る可能性があります。現在の税率が続けば、中国の対米輸出は50%以上落ち込み、GDPへの影響は1.0〜1.5%に達すると予想されており、従来予測の0.5%よりも大きな経済的打撃となる見込みです。

 一方で、トランプ大統領は交渉の余地を残しており、TikTok売却期限を75日延長するなど柔軟な対応を示しています。しかし、中国側の反応を見る限り、早期に合意が成立する可能性は低いとみられています。

(翻訳・吉原木子)