2025年4月15日未明、四川省成都市の茶店子バスターミナルの外にある歩道橋に、白地に赤字で書かれた3枚の横断幕が掲げられました。内容はそれぞれ「政治体制の改革なくして民族の復興なし」「人民は制約のない権力を持つ政党を必要としない」「中国には誰かが進路を示す必要はない、民主主義こそが進むべき道である」というものでした。これらの標語は瞬く間に海外のSNS上で拡散され、大きな注目と激しい議論を呼び起こしました。
内部事情に詳しいネットユーザーによると、横断幕を掲げた人物は事前にあるSNSアカウントへ電子メールで連絡し、これらの標語の準備には1年の時間を要したこと、そして国外の支援を通じて広く拡散してもらいたいという意図を伝えていたそうです。しかし、その後、同ネットユーザーは、事件発生以降、横断幕を掲げた人物と13時間以上連絡が取れなくなっていると投稿しました。
この成都での出来事は、すぐに2022年に発生した北京・四通橋での抗議事件と比較されるようになりました。当時、北京市海淀区の四通橋で、彭立発というネット名「彭載舟」で知られる人物が、同様の抗議横断幕を掲げ、中国共産党中央の習近平総書記の退陣を公然と呼びかけ、「PCR検査ではなく食事を」「文化大革命ではなく改革を」「ロックダウンではなく自由を」「指導者ではなく選挙を」「嘘ではなく尊厳を」「奴隷ではなく市民を」といったスローガンを拡声器で叫び、国際社会に広く報じられました。彭立発氏は直後に中国当局により拘束され、2024年1月7日の50歳の誕生日の時点でも、依然として秘密裏に拘束されている状態が続いています。
また、近年中国各地でも同様の抗議行動が相次いでおり、政府が言論の自由や集会の自由を厳しく統制している中にあっても、個人が大きなリスクを冒して公共空間で政治的主張を表明している実態が浮き彫りになっています。
2024年7月30日、湖南省婁底市新化県(こなんしょう ろうていし しんかけん)では、22歳の大学卒業生・方芸融氏が地元の歩道橋上に横断幕を掲げ、拡声器を用いた録音を流しながら、自由・民主・選挙を公然と呼びかけました。彼は動画の中で、2023年7月以降、地元政府からの抑圧や迫害を受けてきたと語っています。その横断幕の文言は、北京・四通橋事件で使用されたものと非常に類似しており、両者の間に明確な共鳴と連帯の意志が感じられます。
2024年8月には、河北省秦皇島市昌黎県の若者・閆中健氏も同様の手法で中国共産党政権への不満を表明しました。彼は拡声器で「習近平は退陣せよ」と叫び、動画の中で、自身が「政治犯」として当局から指名手配され、長期間にわたり自宅に帰れない状況が続いていると訴えました。この出来事もまた、ネット上で大きな反響を呼びました。
成都で今回発生した抗議は、成都市金牛区の三環路付近、茶店子バスターミナル外の歩道橋で起きたとされており、ネット上に流布した現場写真には、橋の構造や市政設備、道路標示などの特徴が写っており、現場の特定に繋がる証拠とされています。
SNS上では、この事件に対し多くのネットユーザーが強い反応を示しました。「この横断幕を掲げた人物はまさに『勇者』だ」「また一人の四通橋が現れた。彭載舟の後に続き、湖南・婁底の四通橋、そして今回の成都。勇気ある行動に敬意を表したい」と称賛する声が多く見られました。また、「四通橋の火は消えていない。中国にはまだ声を上げる人がいる。成都の勇者に敬礼!」といったコメントも寄せられました。さらに、「中国が抱える今日の問題の根源は、まさに現行の政治体制にある。共産党自身も問題点を理解しているはずだ。進むべき道は民主主義しかない」と指摘する声もあります。
一方で、掲示者の安全を心配する声も多く、「再び彭立発氏のような悲劇が起きないことを願う」といったコメントもありました。また、「また『橋の守衛』を大量に雇う羽目になる。これは中共が生んだ『雇用機会』だ」と皮肉る投稿も見られました。
今回の成都事件は、中国社会に潜在する政治的不満と、政治改革への切実な願いを浮き彫りにしました。近年、当局は言論の自由や世論統制をさらに強化してきましたが、それにもかかわらず、このような抗議は繰り返し発生しており、市民の中で不満がくすぶり続けていることを示しています。
現時点では、中国政府はこの成都事件について一切の公式対応を行っておらず、国内でも関連情報は厳しく遮断・統制されています。しかし、こうした抗議行動は、言論統制の限界を突き、改めて国際社会に対し中国内部の政治・社会問題への関心を喚起するものとなっています。
成都の歩道橋事件、そしてこれまで各地で発生した類似の抗議行動は、今後も国際社会における中国の政治環境や人権状況への注目を高め、中国の世論環境や外交関係にも一定の影響を与える可能性があります。
(翻訳・吉原木子)