2025年に入り、中国の不動産市場は引き続き下落を続け、多くの住宅所有者が債務の重圧や失業、さらには市場の崩壊によって生活困難に陥っています。特に上海では、かつて誇りとされていた中産階級が住宅購入によって重い負担を背負い、多くの人がSNS上で苦しみや不満を吐露し、不動産市場の悪循環への無力感を訴えています。
最近、上海在住の30歳の男性が投稿した内容が大きな注目を集めました。彼はIT業界で働いており、かつては月収3万元という安定した収入がありました。上海に生活基盤を築くため、浦東新区の築橋エリアにある95平方メートルの小さな三部屋のマンションを購入しました。当時の価格は1平方メートルあたり5.8万元で、総額は約550万元でした。彼は両親から資金を借り、自身の貯金もすべて投入して200万元の頭金を用意し、残りの350万元をローンで借りました。ローンの返済期間は30年で、毎月19,631元を支払う契約でした。
しかし、2020年以降、IT業界では大規模なリストラや給与削減が相次ぎ、彼も早々に「最適化」の対象となってしまいました。それから3か月間、月収2万元を超える仕事を見つけられず、住宅ローンと生活費の重圧に耐えきれなくなりました。最終的に、彼は実家に戻ってやり直すことを決意し、恋人に相談しました。しかし、彼女は上海を離れたくない、そして彼の足手まといになりたくないという理由で別れを選びました。
精神的にも経済的にも追い詰められた彼は、不動産仲介業者を通じて物件の売却に踏み切りました。最初は600万元で売り出しましたが、数か月経っても買い手が現れませんでした。仲介業者は「立地が不便で、市場全体も冷え込んでいるため、早く売却したいなら350万元まで価格を下げるべきだ」と提案しました。彼はその金額を聞いて愕然としました。価格がほぼ半額に下がるということは、これまで支払ってきた頭金やローン返済がすべて無駄になることを意味していたからです。返済の継続も困難だった彼は、やむを得ずローンの支払いを停止する「断供」を選びました。
しかし、その3か月後、彼のもとに裁判所からの召喚状が届きました。銀行が「悪意ある断供」として彼を提訴したのです。裁判所は、契約違反により合計120,867元の違約金と関連費用を支払うよう命じました。期限内に支払わなければ、彼の名前は信用失墜者リストに登録され、さらに延滞利息も発生します。彼は動画の中で涙をこらえながら訴えました。「僕はただ家を買っただけなのに、なぜこんなことになるんですか?247万元の損をしても、家を手放しても許されないんですか?どうしてここまで追い詰められなければならないんですか?」
このような体験は彼だけのものではありません。現在の市場環境では、多くの上海の住宅所有者も同様に困惑し、絶望しています。値下げしても買い手が現れず、売却すらままならない状況が続いています。実際、上海市内でもエリアによって価格の下落幅には大きな差があり、都心と郊外では状況が大きく異なります。
市民の王さんは、最近の取材で「現在、上海の不動産価格は実際に下がっている」と話しました。市内中心部で、かつて1平方メートルあたり10万元だった物件が、今では2~3万元にまで値下がりしているケースもあるとのことです。彼自身も、浦東新区の上海野生動物園近くにある築年数の古いマンションに住んでおり、現在の価格は1平方メートルあたり2.8万元。近隣の新築マンションも3万元を下回り、ピーク時の4万元を大きく下回っています。「ここは学区ではないので、もともと価格がそれほど高くなかった。そのため、今回の下落幅は比較的小さい」と語りました。
一方で、買主の立場が強くなる中、売主に対する容赦ない価格交渉も目立っています。湖北省出身で「財哥」と名乗るネットユーザーは、自身の体験をこう語りました。彼は2017年に220万元で上海のマンションを購入しましたが、最近は商売が思うようにいかず、物件を売却して故郷に戻ることを考えています。中介業者から「明日、内見がある」との連絡を受け、買主が実際に物件を見に来ましたが、開口一番「160万元なら買う」と60万元の大幅な値引きを提示されました。「当時は1平方メートルあたり2万6千元だったのに、いまでは1万8千元にまで下がるなんて…本当に悔しくてたまりませんでした」と語ります。彼の物件は立地も良く、周囲には学校や公共交通機関も整っており、以前は同じような物件が3万元以上で売れていました。「2~30万元の値引きなら交渉の余地もありますが、さすがにここまで下げられたら売れません」と嘆いていました。
こうした状況を受けて、中国政府はたびたび「不動産市場の安定化」を掲げた政策を打ち出しています。今年の全国人民代表大会で、李強首相は初めて「不動産市場を安定させる」ことを政府活動報告に明記し、株式市場の安定や金融リスクの防止とともに重要課題として取り上げました。しかし、これらの政策は目に見える効果をもたらしておらず、市場の下落傾向を止めるには至っていません。「この状況で本当に不動産市場を安定させられるのか」と疑問視する声も多く上がっています。
不動産価格の下落により、一般家庭の資産価値は大きく減少し、将来に対する不安から消費を控える動きが広がり、経済全体のデフレ傾向にも拍車がかかっています。昨年末には、複数の国際的な格付け機関が中国の不動産市場の見通しを悲観的に評価しました。ゴールドマン・サックスは、中国の住宅価格が今後さらに20~25%下落する可能性があると予測しています。その背景には、都市化の進展鈍化、人口ボーナスの消失、供給過剰と需要不足の深刻化、そして政府による継続的な規制など、複数の要因が挙げられています。
同社はまた、中国の不動産業界の負債総額が59兆元に達しており、年間の利息支払いだけでも1兆元を超えると指摘しています。開発業者は深刻な資金繰りの圧力に直面しています。モルガン・スタンレーもまた、2025年にかけて中国の不動産市場は引き続き低迷し、価格はさらに約9%下落すると予測しています。
不動産市場に対する信頼が揺らぎ続けるなか、中国の住宅購入者が直面する現実はますます厳しくなっています。そして、その出口は、いまだ見えていないのです。
(翻訳・吉原木子)
