中国共産党の両会(全国人民代表大会・全国政治協商会議)期間中、李強国務院総理は政府活動報告の中で「都市・農村住民の基礎年金の最低基準を、さらに20元引き上げ、退職者の基本年金も適切に増額します」と発表しました。この発表は大きな注目を集め、農民年金の問題が再び焦点となりました。分析者によると、中国共産党が長年にわたって、農民を搾取してきたことが、農村の貧困の根本原因であり、「農村振興」戦略は単なるスローガンに過ぎず、実質的な効果を上げることは、難しいと指摘しています。

 科学系ブロガーの項棟梁氏は記事の中で、政府は「都市・農村住民基礎年金」と呼んでいますが、実際には主に農村戸籍を持つ人々を、対象としているため、「農民年金」と呼ぶ方が適切だと指摘しました。例えば、湖北省では2024年の農民年金の支給額は、月額172元であり、今回の増額によって、20元引き上げられ、11.6%の増加となります。調整後、湖北省の対象農民は、月額192元を受給できますが、これは火鍋を一回食べるのがやっとの額です。

 一方で、退職者の基本年金も、「適切に増額」されました。2024年の全国の退職者年金の引き上げ率は、3%であり、例えば北京市の2023年の退職者の平均年金額は、5,951元なので、3%の増額によって、毎月178.5元の増加となります。この増額分だけでも、湖北省の農民の月額年金(172元)を上回っており、都市と農村の格差がいかに大きいかが明らかです。

 ベテランジャーナリストの彭遠文氏は、記事の中で、農民は中国社会で、最も早く社会保障費を納めた集団であり、長年にわたり公糧(国家への穀物供出)を負担してきたため、少なくとも月額800元以上の年金を、受け取る権利があると主張しました。しかし、現実は異なります。1998年以前、大部分の企業労働者は、社会保険料を納めていませんでしたが、その勤務年数は、保険料支払期間として認められました。また、2014年以前は公務員や事業単位職員も、社会保険料を支払っていませんでしたが、同様に勤務年数が、年金支給の計算に含まれました。

 では、なぜ農民だけが同じ扱いを受けられないのでしょうか? なぜ、知識青年(文化大革命時に農村へ送られた都市出身者)の勤務年数は、年金計算に含まれるのに、農民のものは含まれないのでしょうか?

 湖北省の農村住民である王明義さんは、『大紀元』の取材に対し、「現在の中国社会では、庶民はどこにいても、厳しい状況に直面しています」と語りました。「農村にとどまれば、生活コストは比較的低いですが、収入が少なすぎて、生計を維持するのが難しいです。一方、都市に出稼ぎに行けば、仕事の機会は増えますが、生活コストが高すぎるうえに、さまざまな隠れた費用が重なり、息苦しさを感じます」と述べました。

 また、彼は「貧困地域の農民は何の保障も受けられず、生計を気にかけてくれる人もいません。多くの農村住民の月額年金補助は、家畜を飼育するコストにも及ばないほどです」と嘆きました。「こんな現実の中で、農民の生活は牛や馬以下です。しかし、中国共産党はこの問題を、まったく無視しています」と訴えました。

 歴史学者の劉因全氏は、『大紀元』のインタビューで、「中国の農民は長年にわたり、社会の最底辺に置かれており、『年金の20元引き上げ』などは、物価の上昇率にすら追いつかず、全く意味をなさない」と指摘しました。そして、「中国共産党の統治の核心目標は、少数の既得権益層の権力を維持することです。農民の福祉を気にかけることではありません」と述べました。
中国共産党は成立当初、マルクス主義と農民運動を基盤とし、最初の軍隊の99.9%は農民出身でした。しかし、一旦権力を握ると、党の指導層はすべて都市に定住し、都市の繁栄と安定を確保するために、意図的に都市と農村の格差を拡大しました。計画経済体制のもと、政府は農産物の価格を人工的に抑え、その一方で工業製品の価格を引き上げることで、農民の収入を低く抑え続けました。それにもかかわらず、生活コストは増加し続けています。この政策は「剪刀差(価格差)」と呼ばれ、農村の長期的な貧困を生み出した根本的な要因です。

 さらに劉因全氏は、「中国共産党の政策により、農村の不動産は、ほぼ価値を持たない状態になり、農民は財産を蓄積することができず、長年にわたり貧困に陥ったままです。その結果、農民は実質的に『現代の奴隷』となっています」と指摘しました。

 中国問題の専門家であるデービッド氏は、「1949年以前の農民は、自らの土地を所有し、農業によって利益を生み出すことができました。しかし、中国共産党が政権を掌握した後、すべての土地は集団所有とされ、農民は土地の所有権を失いました。そのため、彼らは労働力だけに頼って、生計を立てるしかなくなりました」と述べました。

 人民公社制度の導入後、農民は集団労働に参加し、「労働ポイント(工分)」を稼ぐことで、生活する仕組みとなりました。しかし、これでは彼らは「産業労働者」と、同じ立場に置かれることになります。それにもかかわらず、産業労働者としての年金は支給されませんでした。

 近年、中国共産党の農業農村部は、「農村振興」戦略を打ち出し、7兆元を投資して、農家への補助金、インフラ建設、農村宅地の流通促進などを進める計画を発表しました。しかし、専門家たちはこの政策に懐疑的です。デービッド氏は、「家族経営型の農場モデルが、中国で定着しない最大の理由は、土地がいまだに私有化されていないことにある」と指摘しました。農民は真の土地所有権を持たず、自主的に経営することができません。

 河北省辛集市の農民である秦樹中さんは、「農村ではここ数年でコンクリート道路や学校、病院が建設されましたが、高額な医療費、住宅費、教育費の負担が依然として重く、農民の経済状況は一向に改善していません。幸福感など感じる余地もありません」と語りました。

 また、彼は「ほとんどの農村家庭の主要な労働力は、都市で働いており、家族が一年を通して、ほとんど顔を合わせることもできません。これはすべて、中国共産党が底辺の庶民を極限まで搾取し、彼らを休むことなく働かせ、生きるために奔走させ続けた結果なのです」と述べました。

(翻訳・吉原木子)