かつて輝かしい成長を遂げた中国の小売大手、「蘇寧易購(スニン・コム)」が現在、深刻な債務危機に陥っています。
傘下の主要3社が再編手続きに入る中、蘇寧グループは「破産」という噂を否定し、すでに黒字転換を果たしたと主張しています。
 この動きは、中国経済の減速による消費低迷が小売業界に与える深刻な影響を示しています。小売業界は今、かつてない変革の時を迎えています。

債務再編か、それとも衰退の兆し?

 ボイス・オブ・アメリカによると、中国の全国企業破産再生案件情報網は2月7日、蘇寧電器集団有限公司、蘇寧控股集団有限公司、蘇寧置業集団有限公司が再生を申請し、関連事件は南京市中級人民法院に受理され、4月2日に第1回債権者会議を開催すると公告を発表しました。

 この発表を受け、投資家の間で「蘇寧破産」の話題が急速に広がりました。多くの市場関係者は、「かつての小売業界の巨頭である蘇寧は、戦略的投資の失敗と資金繰りの悪化を経て、最後のあがきをしている」との見方を示しています。しかし、蘇寧グループ関係者は「破産ではなく債務再建だ」と強調し、「企業を立て直し、成長を促すための手続きであり、企業資産や従業員の雇用を守ることが目的」と説明しました。

 1月20日夜、蘇寧易購は2024年度の業績予測を発表し、2024年の純利益が5億〜7億元(約105億〜147億円)になる見込みで、2023年の赤字から黒字転換を果たす見通しです。これは2020年以来、蘇寧易購が通年で黒字を達成する初めてのケースとなります。同社は「小売サービス事業の深化が奏功し、市場の期待が高まった」と説明しており、経営改善の兆しを見せています。

 しかし、業界関係者は、蘇寧の収益力がまだ市場で検証されておらず、同社の中核ビジネスモデルは現在の中国の小売環境の変化に十分適応できていないと指摘しています。特に、消費の低迷やECの台頭の中で、蘇寧が本当に市場競争力を回復できるかは、依然として不透明な状況です。
 
消費減退の激化、伝統的小売業者に広がる圧力

 蘇寧の苦境は決して特殊なケースではなく、中国の小売業全体が厳しい冬の時期に直面していることを象徴しています。近年、経済成長の鈍化、不動産市場の低迷、住民所得の伸び悩みなどにより、消費者の購買意識に大きな変化が生じています。

 中国国家統計局のデータによると、2024年の中国の消費財小売総売上高の年間成長率はわずか3.5%で、コロナ流行前の水準を大きく下回っています。特に、家電やデジタル製品などの耐久消費財の販売は伸び悩んでおり、消費者が高額な支出を控える傾向が鮮明になっています。

 かつてEC大手で仕入れ・販売部門のディレクターを務めた深セン市の業界関係者、子梟(ズーシアオ)氏は、ボイス・オブ・アメリカに対し、次のように指摘しています。「蘇寧の苦境は単なる競争力低下ではなく、そのビジネスモデルが新たな消費トレンドに適応できていないことに起因している。蘇寧の収益の大部分は、家電、パソコン、スマートフォンといった製品から得ていたが、これらの分野こそが消費の低迷による影響を最も強く受けている。消費者はよりコスパの高い商品や販売チャネルを選ぶ傾向が強まっている。その結果、低価格戦略を前面に押し出すECプラットフォームや、ショート動画を活用したライブコマースが新たな主流となりつつある。一方で、運営コストが高く、価格競争力に欠ける伝統的小売業者は、徐々に市場を失っている」
 
伝統的小売モデルが直面する試練

 かつて国美(グオメイ)や蘇寧のような伝統的小売の大手企業は、大規模な実店舗と供給網の強みを武器にしていました。しかし、現在ではECやソーシャルメディアが新たな小売の主戦場となり、販売チャネルの分散化が進む中で、伝統的小売業者はさらに厳しい状況に追い込まれています。

 蘇寧が債務再編に入った後、SNS上では議論が巻き起こり、多くのユーザーが「もはや販売チャネルが最重要視される時代は終わった」と嘆く声を上げています。

 広東省のある財経系ブロガーは次のように投稿しています。「蘇寧にとって、実店舗での家電販売という主力事業は時代の変化によって淘汰され、オンライン販売ではアリババや京東商城 (ジンドン)、拼多多(ピンドゥオドゥオ)との競争に太刀打ちできず、無計画な多角化により多くの失敗した投資を行い、事業の規模を広げすぎたことが命取りになった」

 しかし、一部の業界関係者は蘇寧の実店舗資産にはまだ競争力があり、特に、中国政府の政策支援のもとでは、一定の生存余地があると見ています。

 かつて蘇寧でスマートフォン事業を担当していた蘇さんは、ボイス・オブ・アメリカに対し、次のように述べました。「蘇寧の店舗ネットワークは最大の資産であり、生き残るための希望でもある。オンラインショッピングが主流になっているものの、多くの消費者はいまだに実店舗での買い物を好んでおり、この市場が完全にオンラインに取って代わられることはない。

 20年以上にわたって築いてきた店舗資産の中には、非常に価値の高いものもある。これらの資産が残っている限り、時間をかけながら市場での立ち位置を維持し、一定の利益を確保することは可能だ。だから、オンライン販売に完全に淘汰されることはない。確かに縮小は避けられないが、それでも蘇寧には一定の市場シェアが残されるはずだ」
 
中国の小売業界が直面するさらなる試練

 中国の小売業全体が苦境に立たされている現状について、台湾の中華経済研究院の王国臣氏は、「蘇寧の問題は単なる経営不振だけでなく、中国国内の消費者心理の低下や、外部要因として地政学的な影響により、中国の越境ECが輸出規制を受け、小売業界全体が圧力を受けている」と指摘しています。

 王国臣氏はボイス・オブ・アメリカに対し、「米中間の関税戦争が再燃すれば、蘇寧の越境EC事業も制約を受ける可能性がある。今後、中国の小売業全体にとって、輸出が順調に進まなければ、輸出企業が国内市場にシフトすることになり、国内競争がさらに激化するだろう。中国の消費は引き続き低迷し、企業の生存は一層厳しくなり、悪循環に陥る可能性が高い」とし、「蘇寧の最大の問題は、投資の方向性が分散していたことだ。特に不動産業界への過剰な投資、恒大への投資が最終的に資金繰りを崩壊させる『とどめを刺す要因』となった」と指摘しています。

 王氏はまた、「蘇寧は、急速に変化するEC市場にタイムリーに適応できず、転換のスピードが遅すぎた。その結果、価格競争力を失い、成長の機会を逃した。また、オンライン小売業界ではネットワーク効果が強く働くため、『強いものがさらに強くなる』傾向があり、蘇寧が独自のオンラインプラットフォームを発展させる余地はますます狭まっている。今後も中国の小売市場は高い不確実性に直面することになる。蘇寧が本当の意味で再起を果たすためには、より競争力のあるビジネスモデルを見出すことが不可欠だ」と述べました。

(翻訳・藍彧)