近日、中国・雲南省で8歳の少女が行方不明となった事件が注目を集めています。中国では毎年800万人もの人々が失踪しているとの情報があり、その一部が人身売買や臓器取引の犠牲になっているのではないかとの懸念があります。さらに、失踪事件に関する情報を削除し、失踪者の家族に圧力をかける当局の不可解な対応も疑問視されています。

中国当局、少女失踪事件を封じ込む

 1月19日、中国・雲南省騰衝(とうしょう)市で、8歳の少女・尹潇楠(いん・しょうなん)ちゃんが家族と遊んでいた際に行方不明になりました。家族は直ちにSNSに捜索願を投稿し、100万元(約2000万円)の懸賞金をかけて情報提供を呼びかけました。しかし、驚くべきことに、これらの投稿はすぐに管理者によって削除され、さらには事件に関する議論を行っていたアカウントが次々と閉鎖されてしまいました。

 2月17日、長年にわたり中国の失踪問題を調査してきたジャーナリストの趙蘭健(ちょう・らんけん)氏は、尹潇楠ちゃんの失踪は単なる一件の事件ではなく、深刻な問題の象徴であると警告しています。趙蘭健氏によると、中国では毎年800万人以上の人々が失踪しているとされ、当局は捜査を行わず、むしろ失踪事件に関する情報を封鎖し、事件が明るみに出ないように失踪者の家族に圧力をかけています。

 趙蘭健氏は、雲南省、貴州省、四川省などで多くの失踪事件を調査してきました。その過程で、失踪者の家族が政府からの圧力や情報封鎖に直面し、悲しみに明け暮れるなか必死に子供を探し続ける姿を目の当たりにしてきました。今回の尹潇楠ちゃんの失踪事件でも、同様に中国共産党当局は事件の情報封鎖を徹底的に行ったといいます。

 さらに、2月14日、趙蘭健氏は、過去に胡鑫宇(こ・きんう)事件や唐山市の少女暴行事件を取材したために2度も拘留された市民ジャーナリストと連絡を取りました。胡鑫宇事件とは、高校生の胡鑫宇くんが失踪し、その後100日後に遺体が発見されたものの、臓器が摘出されていたという事件です。

 市民ジャーナリストによると、尹瀟楠ちゃんの家族はすでに地元政府に呼び出され、メディアの取材を拒否するよう強制され、新たな捜索願の発信も禁止されたとのことです。また、事件に関連する情報を発信したSNSアカウントが次々と封鎖される事態も発生しています。

 趙蘭健氏は、この一連の出来事を通じて、2022年に行った雲南省怒江リス族自治州での調査を思い出したと語りました。その時、彼は人身売買の被害者の家族をサポートしており、失踪した娘を探す母親の投稿が数時間のうちに削除されるのを目撃しました。彼は、このような事態から、当局が失踪事件に関する情報を徹底的に封鎖し、外部に真相が伝わることを避けていると考えています。

年間失踪者800万人の衝撃

 中国当局は長年にわたり失踪者数を公表せず、インターネット上では年間100万人から200万人程度が失踪していると推測されてきました。しかし、中国のある新聞社が2017年に報道した記事の中で、福建省公安庁は驚くべき数字を明らかにしました。すなわち、中国では毎年800万人もの人々が行方不明になっているとのことでした。

 年間800万人の失踪者が出るということは、平均して毎日2万2000人以上が突然姿を消している計算になります。これについて趙蘭健は、「中国共産党当局は、この深刻な問題について沈黙を守り、さらに失踪者の捜索情報を削除し、家族に圧力をかけている。このような状況を見ると、何かを隠したいのではないかという疑いを禁じ得ない」と述べています。

 さらに、中国の国営メディアが失踪事件について真実を報道しないだけではなく、一部のアメリカの大手メディアもこの問題を覆い隠そうとしていると指摘しました。

 具体的な例として、鎖でつながれた8人の子供を持つ母親の事件が明るみに出た際、《ニューヨーク・タイムズ》や《ウォール・ストリート・ジャーナル》といったメディアは、次々と趙蘭健氏を取材しました。しかし、最終的にこれらのメディアは報道を控えました。特に《ニューヨーク・タイムズ》は、「アメリカにも鎖でつながれた女性がいる」といったナラティブを使い、中国で起きている失踪事件から人々の関心をそらそうとしたと、趙蘭健氏は指摘しています。

 《ニューヨーク・タイムズ》の記者はその後、再び趙蘭健氏に連絡を取り、「誰が鎖の女性の事件に関する報道を押さえ込んでいるのか」という記事を執筆するために取材したいと申し出ましたが、趙蘭健氏は断りました。「ニューヨーク・タイムズ紙こそが鎖の女性の事件を隠蔽した張本人だ」と趙蘭健氏は批判しました。

 趙蘭健氏はまた、中国共産党が西側諸国のメディアにも浸透しており、アメリカ国内の中国語メディアにも多くのプロパガンダ要員を配置していると指摘しました。これらの要員は、アメリカの報道機関に入り込み、中国関連の報道内容をコントロールし、中国共産党にとって不都合なニュースを抑え込む役割を担っています。このため、中国の失踪者数が800万人に及ぶという大きな問題は、英語圏および中国語圏の主要メディアではほとんど報道されていません。

人身売買と臓器摘出の産業チェーン

 趙蘭健氏は、中国の失踪問題は単なる誘拐事件にとどまらず、さらに深い闇を孕んでいると指摘します。彼によると、多くの失踪者は辺鄙な農村部に売られるのではなく、臓器売買の闇取引に巻き込まれ、犠牲になっている可能性があるとのことです。

 昨年5月、湖南省の医学実習生・羅帥宇(ら・すいう)さんは、自身が勤務する湘雅第二病院が違法な臓器売買に加担していると告発した後、原因不明の転落死を遂げました。彼は生前、腎移植科で勤務していましたが、その際、幼い子供を移植ドナーとして確保するよう指示を受けていたとのことです。

 羅帥宇さんの両親によると、羅帥宇さんが生前使っていたパソコンには、勤務先の担当医・劉翔峰(りゅう・しょうほう)氏を含む関係者らによる違法な臓器売買ネットワークを告発するための録音データや文書証拠が数多く保存されていました。その中には、湘雅第二病院の関係者が羅帥宇さんに対し、3歳から9歳の子ども12人を移植用ドナーとして確保するように命じた指示も含まれていました。その目的は、小児腎移植の研究および学術論文の実験データを集めるためでした。

 事情を知る関係者によれば、羅帥宇さんはこの指示を拒否したため、腎移植科から救急診療科へ異動させられました。転落事件の前日、上司から再び圧力をかけられた羅帥宇さんは、「これ以上続けるなら告発する」と強い態度を示していたといいます。

 趙蘭健氏はこの事件について、中国には大規模な臓器供給ネットワークが存在し、その犠牲者の多くは失踪した青少年であるとの推論を裏付ける証拠であると指摘しました。そして、中国共産党が失踪事件に関する情報を厳しく封鎖する理由を垣間見ることができたと述べました。「これは単なる治安問題ではなく、国家レベルの犯罪ネットワークに直結しているのではないか」と趙蘭健氏は語りました。

 そして、中国国内で失踪事件を調査することは非常に危険なことであり、政府の監視や弾圧に直面しなければならないと強調しました。一方、海外では中国共産党と関係を持つ大手メディアによって関連報道が抑え込まれ、真実を伝達するのは非常に困難になっているといいます。

 最後に、趙蘭健氏は子供を持つ親たちに対し、「尹瀟楠ちゃんの悲劇を繰り返さないためにも、日頃から警戒心を強めるべきだ」と警鐘を鳴らしました。そして、情報が錯綜する現代社会において、真実の情報を入手することが常に大切であると語りました。

(翻訳・唐木 衛)