最近、中国で「銀行の土」と呼ばれるスピリチュアル系の商品が登場し、ネットユーザーの間で話題となっています。報道によると、一部のインフルエンサーや販売業者が、中国五大銀行の周辺で採取した土を高値で販売し、「金運アップ」と宣伝しています。

 いわゆる「銀行の土」とは、銀行の入り口や緑地帯、さらには銀行内の観葉植物の周りから採取された土を指します。彼らは「銀行には財が集まる」という考えを利用し、この土を「招財進寶グッズ」として販売しています。また、銀行の種類や地理的な位置によって分類し、価格設定を行っています。例えば、ある店舗では108グラムの「銀行の土」を18.8元(約400円)で販売しており、一部の業者は開運のお守りとセットで販売し、「効果を強化できる」と宣伝しています。

 抖音(Douyin)、快手(Kuaishou)、小紅書(Xiaohongshu)などのSNSでは、この話題が大きな注目を集め、多くのインフルエンサーが「銀行の土を掘る」過程を動画で公開しています。例えば、ある動画では、金色のスプーンを持った男性が銀行の前の緑地帯で土を掘り、金色の容器に入れる様子が映されており、背景には銀行の看板が映し出されて「本物の銀行の土」であることを証明していました。

 販売業者は「銀行の土」の神秘的な効果を強調し、「金運アップ率999.999%」といった極端な宣伝文句を掲げています。さらに、一部の販売業者は「購入者の口コミが良い」と主張し、実際に購入した人のコメントには「この土を部屋に置いたらぐっすり眠れるようになり、その日に臨時収入があった」というものもあります。さらに、返品を防ぐために、一部の販売業者は商品説明に「財を迎えても、財を手放してはいけない」といった呪文のような文言を加え、返品が運勢に悪影響を及ぼす可能性があると暗示しています。

 あるインフルエンサーは、中国の五大銀行がそれぞれ異なる象徴を持ち、五行の要素とも関連していると説明しています。例えば、農業銀行は農林水産業を象徴し、五行では「木」に属する。工商銀行は活発な経済活動を表し、「火」に属する。建設銀行はインフラ建設を重視し、「土」に属する。交通銀行は流通を象徴し、「水」に属する。そして、中国銀行は国家の財庫を示し、「金」に属するとされています。こうした説明が消費者の「銀行の土」に対する信頼をさらに深め、この商品が特定の層で人気を博す要因となっています。

 一方、この現象は消費者の間で議論を巻き起こすだけでなく、専門家や法律関係者の関心も集めています。多くの専門家は「販売業者は消費者の迷信と富に対する不安を利用して利益を得ている」と指摘し、このような取引には法的問題が含まれる可能性があると警告しています。例えば、銀行の敷地内で無断で土を採取する行為は、銀行の財産権を侵害する可能性があります。

 「銀行の土」が流行している背景には、現代社会における不安の広がりが反映されていると考えられます。経済環境が不透明な状況の中、多くの人が超自然的な力に頼り、運勢を変えようとしています。「銀行の土」を購入するのもその一例であり、仏閣に参拝することも同様の行為のひとつです。経済的なプレッシャーや生活の困難が重なり、近年では若者の間で「お寺巡り」や「お参り」が急速に流行し、SNSでも話題になっています。

 例えば、「仕事を頑張るより、お参りしたほうがいい」「努力するより、神仏に頼る」「木魚を叩けば、悩みが消える」といったネットスラングが登場し、若者の不安や迷いを反映しています。2023年に入ってから、若者の間での寺院観光の人気が急上昇しています。旅行サイト「Ctrip」のデータによると、2023年2月には寺院観光地の予約件数が前年同期比で310%増加し、予約者の約50%が「90後(1990年代生まれ)」や「00後(2000年代生まれ)」でした。

 また、関連データによると、2019年には「寺院」というキーワードのSNS検索数はそれほど多くありませんでしたが、4年後の現在では368倍に増加しています。メディアの報道によると、北京の雍和宮(ようわきゅう)では、毎週日曜日の午後になると若者たちが列をなして線香を手に参拝する姿が見られ、高齢者の姿はほとんど見かけられません。同様の現象は他の寺院でも見られ、参拝客の多くは若者で占められています。

 社会学者の楊慶堃(よう・チンチュン)氏は『中国社会の宗教』の中で「生活が困難になればなるほど、人々は呪術や宗教に頼る傾向が強くなる。また、貧しい階層ほど迷信を信じやすい」と指摘しています。若者は、学業、就職、日常生活のあらゆる場面で激しい競争にさらされており、社会の失敗に対する許容度も低いため、一度の選択ミスが一生を左右しかねません。こうしたリスクは個人の力ではコントロールしきれない範囲にまで及んでいます。

 さらに、中国には古くから「三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知る」といった人生観が根付いており、これが若者に時間的なプレッシャーを与える要因になっています。その結果、若者たちは現実の困難の中で、精神的な支えを求める傾向が強まっています。

 「銀行の土」から寺院参拝、「スピリチュアルグッズ」の購入から「お寺巡り」まで、一見すると奇妙に思えるこれらの現象の背後には、若者たちが不安を抱えながら心の安らぎを求めている現実が浮かび上がります。神仏への祈願や「銀行の土」の購入が、実際に生活を変えることができるかは別として、こうしたブームの拡大は、現代社会における重要なシグナルと言えるでしょう。

(翻訳・吉原木子)