中国共産党の高層部が支持を示す中、中国の新興生成AI(人工知能)スタートアップ「DeepSeek(ディープシーク)」の影響が拡大を続けています。すでに複数の大手企業が、自社サービスにDeepSeekの機能を導入することを発表しました。中国におけるAIの急速な普及は、AI企業間の競争を激化させるだけでなく、すでに厳しい就職市場にさらなる打撃を与えています。

2030年までに世界のAIリーダーを目指す

 中国当局は、資金、データ、人材などあらゆる手段を用いてAI産業を全面的に支援しています。かつての電気自動車(EV)産業と同様に、中国では多くのAI基盤モデル企業が誕生しました。

 ボイス・オブ・アメリカの報道によると、現在、中国のAI産業には「AI三強(三巨頭)」と「AI新興四社(四小龍)」と呼ばれる企業群が存在しています。

 「AI三強」には、百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントが含まれています。

 「AI新興四社」には、顔認識技術を提供する商湯科技(センスタイム)、画像処理に強みを持つ曠視科技(メグビー)、医療画像に特化した依図科技(イトゥ)、そして中国の銀行と提携し、スマート金融やインテリジェント・セキュリティに注力する雲従科技(クラウドウォーク)が含まれています。

 注目すべきは、これら4社はいずれもその技術が人権侵害に利用されている、あるいはその可能性があるとして、米政府の制裁対象に指定されています。

 また、中国の華為(ファーウェイ)、字節跳動(バイトダンス)、360集団(Qihoo 360)も、無視できない大手AI企業として存在感を示しています。

 さらに、近年の中国では、多くのAI基盤モデルを手がける新興企業が急速に台頭しており、その多くが評価額10億ドルを超える「ユニコーン企業」となっています。

 政府の公式登録を受けたAI基盤モデルの数だけでも、すでに200社を超えています。
2017年7月に中国国務院が「新世代人工知能発展計画」を発表し、2030年までに世界のAIリーダーとなることが明確に掲げられています。

WeChatがDeepSeekの導入をテスト中

 中国メディアの報道によると、WeChatの「検索」機能は現在、AI基盤モデルDeepSeek-R1が導入されるテストが行われています。「AI検索」機能はアプリのトップページ上部に配置されており、現在はグレースケールテスト(限定公開テスト)の段階にあり、一部のユーザーのみが利用可能です。

 この機能をクリックすると、「クイックQ&A」と「深層思考」の2つの選択肢が表示されます。特に「深層思考」は、「DeepSeek-R1モデルが熟考した上で、より包括的な回答を提供する機能」と説明されています。

 澎湃新聞は業界関係者の見解として、WeChatのAI検索機能によって、公式アカウントの記事、動画チャンネル、ミニプログラムサービス、モーメンツなどのコンテンツが統合される可能性があると報じています。これにより、過去に公開された公式アカウントの記事や動画などのコンテンツがAIの推薦機能によって再発見されることも考えられます。テンセントにとっては、プラットフォーム内の情報活用が促進され、業務効率の向上につながる可能性があります。

 広州日報の報道によると、2月13日にはテンセントとテンセントクラウドのAIアシスタントがDeepSeekを導入したことが明らかになりました。

中国国内AI企業の競争が激化

 DeepSeekの急速な台頭が、中国国内のAI企業に危機感をもたらしています。この競争の圧力に対応するため、百度は2月13日、同社のAIチャットボットを4月1日から全面無料化し、「深層(思考)検索」機能も同日から無料提供されると発表しました。

 多くの専門家は、百度のこの決定がDeepSeekをはじめとする新興AI製品との競争に対応するための戦略的な動きであると見ています。

 アリババはDeepSeek-R1がリリースされた直後に自社のAI基盤モデルを公表し、同時に、2月13日にはAppleと提携し、中国市場向けのiPhone用AI機能を開発することを正式に発表しました。

 この動きは、中国AI業界におけるアリババの地位を高めるだけでなく、iPhoneが中国市場でファーウェイやシャオミといった競合他社に対抗する助けにもなると考えられています。

中国のAI推進、雇用市場に影響か

 AI新興企業Anthropic(アンソロピック)が最近発表した経済指数レポートによると、人類の仕事の43%が自動化によって代替されつつあり、AIの活用はソフトウェア開発や記事作成の分野に集中しており、人間の能力を強化する一方で、労働の代替も進んでいる状況です。

 ラジオ・フリー・アジアの報道によると、中国当局は主に文書処理の効率向上という観点から、DeepSeek導入の利点を強調しています。たとえば、深セン市龍崗区政府に関する報道では、以前は1000字の文書を校正するのに4〜5分かかっていたが、DeepSeekを使えば数秒で完了すると紹介されています。

 AI分野で長年研究開発に携わってきた林氏は、ラジオ・フリー・アジアの取材に対し、「これは確かにDeepSeekの強みである。大規模言語モデルは文書処理、特に法律関連の文書処理において、人間よりもはるかに高い効率を発揮する。しかし、DeepSeekなどのAIが政府業務の管理に広く導入されれば、公務員の需要が減少する可能性がある」と指摘しています。

 中国の上海上美化粧品股份有限公司(シャンハイ・チックマックス・コスメティック)の内部チャットのスクリーンショットがネット上で拡散されています。その内容によると、同社は社内の大規模な組織再編を計画しており、AIによる業務の代替を進める方針を示しています。具体的には、カスタマーサポート部門の95%、コンテンツ企画部門の80%、法務部門の50%を削減する計画が含まれているとされています。

 「世界新聞網」の報道によると、DeepSeekに「直近および今後しばらくの間に、AIの影響を最も受ける職業トップ10は何か」と質問したところ、DeepSeekの回答は、カスタマーサービス担当者、データ入力事務員、倉庫・物流作業員、製造作業員、金融アナリスト、医療診断士(放射線技師など)、パラリーガルや弁護士、マーケティングや広告の実務者、翻訳者や通訳者、運転手(タクシーやトラックの運転手など)でした。

 中国当局によるAIの大規模な導入が、すでに厳しい雇用市場にさらなる打撃を与えるでしょう。

中国の国家主導型モデル

 昨年の全国人民代表大会と中国人民政治協商会議の政府活動報告では、AIが3回言及され、初めて「人工知能+」という施策が打ち出され、AI技術の産業全般への広範な応用が強調されました。

 資金投入の面では、中国当局は政府主導の基金や財政補助金を通じて、AI企業の革新と発展を直接支援しています。これらの資金はスタートアップ企業の支援にとどまらず、地方政府にも奨励策として活用されており、各地域のAI企業に対する財政補助や報奨金の提供が推進されています。

 データ資源の面では、中国政府は全国統合コンピューティングネットワークを構築し、データ共有を促進しています。中国当局はまた、大規模な監視ネットワーク、交通システム、防犯カメラ網を通じて膨大なデータを収集し、スマートシティプロジェクトを通じてAI企業とデータを共有しています。

 AI人材の育成において、中国当局は大学と企業の連携を推進し、AI関連のカリキュラムや学科の強化を進めており、「千人計画」などの人材招致プログラムを通じて、海外留学中のAI人材の帰国を促し、中国国内のAI分野の発展を加速させようとしています。

(翻訳・藍彧)