2024年12月12日、中国山東省衛生健康委員会の公式ウェブサイトで、「山東省における予防接種の異常な副反応に対する補償方法(2024年版)」という行政文書が発表されました。この文書では、ワクチン接種後に発生した異常な副反応によって死亡または障害を負った場合の補償手続きや補償額の基準について詳しく規定されています。この文書が発表されると一般市民の間で広く議論を呼び、関心を集めています。
「賠償」ではなく「補償」
中国メディアは、今回発表された行政文書のタイトルが「補償方法」であり、「賠償方法」ではないことを強調しています。たった一字の違いですが、法律的な意味は大きく異なります。
「補償」とは、過失がない場合に、相手の経済的損失を軽減するために金銭などを提供する行為を指します。一方、「賠償」は、過失のある者が法的責任に基づき、相手の損失を補填することを意味します。したがって、中国メディアは、今回の補償制度の発表がワクチンそのものの品質に問題があると認めたわけではなく、あくまで接種過程において生じた予期せぬ副反応を救済する措置であると報じています。
「補償方法」の第3条では、ワクチン接種による異常な副反応について定義しています。それによると、異常な副反応とは、品質検査に合格したワクチンを適切に接種したにもかかわらず、薬剤に対する予期せぬ副反応が生じ、その結果として接種者の身体組織や臓器の機能に損害が発生することを指します。
中国メディアは、ワクチン接種後に深刻な副反応が発生した場合、現行の法律ではワクチン製造業者や接種機関の過失とは認められないため、「賠償」ではなく「補償」による救済が適切であると説明しています。また、最新の「補償方法」の規定によれば、補償にかかる費用は政府の財政支出によって賄われることが明記されています。
補償の基準
「補償方法」によると、補償基準は大きく二つに分かれ、それぞれ接種者が死亡した場合の基準と接種者が重度障害や臓器に損傷を受けた場合の基準です。
「補償方法」の第18条には、ワクチン接種者が死亡した場合、一括の経済補償が支給されることが明記されています。補償額は、山東省の前年度の都市部住民一人当たりの可処分所得の22倍と設定されています。
例えば、2024年にワクチン接種による異常な副反応で死亡した場合、その家族は2023年の山東省の都市部住民の一人当たりの可処分所得の22倍の補償を受け取ることができます。公開されたデータによると、2023年の山東省の都市部住民の一人当たりの可処分所得は51,571元(約106万円)であり、補償額は113.46万元(約2,340万円)となります。
接種者が重度の障害を負ったり、臓器に損傷を受けたりした場合の補償基準は、より複雑なものとなっています。これは、被害者の損傷の程度が個々に異なり、極端なケースでは生存維持費が非常に高額になるため、補償額が死亡補償を上回る可能性があるためです。この場合の補償額は、22.69万元(約480万円)から181.45万元(約3,800万円)の範囲で設定されています。
ワクチン補償制度への疑念
中国のメディアは、「予防接種の異常な副反応に対する補償方法」が新型コロナウイルスワクチンの「後始末」ではないと特に強調しています。実際に、山東省政府は2019年にすでに「予防接種の異常な副反応に対する補償方法」を制定しており、その有効期間は2025年1月14日までとされていました。そのため、今回発表された行政文書は、当時の制度を延長するためのものであり、新型コロナワクチン専用の措置ではないと説明しています。
補償制度の発表を受けて、中国のSNS上では活発な議論が交わされましたが、多くの中国人ネットユーザーは懐疑的な見方をしています。さらに、多くのネットユーザーは、中国製ワクチンの品質に疑問を呈しています。
あるネットユーザーは次のように書き込みました。
「もしワクチンが本当に効果のある上質なものなら、パンデミックのときに友好国はなぜ提供の申し出を拒否したのか? 問題がないなら補償など必要ないはずだ。『補償』と『賠償』に違いはなく、文字遊びをすれば異常な副反応が出ている事実を覆い隠せるとでも思っているのか?中国当局が本当に親切なら、なぜパンデミック中は一切助けてくれないのに、今になってワクチン副反応の補償をすると言い出したのか。申請者の臓器がまだ使えるかどうか選別するためなのか。」
「キャシー・チャウ(周海媚)さんが2023年12月12日に『インフルエンザ』で急死した。彼女は新型コロナウイルスのパンデミックのときに4回シノバック製ワクチンを接種したため、一時期話題となっていた。」
また、一部のネットユーザーは、一般市民はこの補償制度の恩恵を受けられず、潤うのは中国共産党幹部とその家族だけではないかと疑念を抱いています。
「まず、ワクチンを接種した証拠を提示しなければならないが、すでにそのデータは削除されている。仮に証拠があっても、ワクチン接種と死亡の因果関係を医学的に証明する必要がある。」
「補償を受けるには医学的証明が必要だが、一般市民がその証明を取得するのは非常に困難だ。結局、恩恵を受けるのは一部の特権階級だけ。」
「山東省のワクチン補償政策は、一般市民には実質的に適用されない。病院が証明を出さないからだ。」
「結局、補償を受け取るのは官僚やその家族だけで、一般市民は何も得られない。」
医療に詳しい時事評論家の唐靖遠(とう・せいえん)氏は、台湾人俳優の徐熙媛(バービィー・スー)さんが敗血症による敗血性ショックで亡くなったと診断されたことについて、「非常に稀なケース」だと指摘しました。唐靖遠氏によると、インフルエンザウイルスが肺炎を引き起こし、さらに敗血症に至るケースは、通常、5歳未満の幼児や65歳以上の高齢者など、免疫力が低い人々に見られるとのことです。しかし、バービィー・スーさんは発症からわずか4日で亡くなっており、健康な大人にとっては極めて稀なケースでした。そのため、バービィー・スーさんは感染前から免疫系等に一定のダメージを負っているのではないかとも推測されています。また、インターネット上では、バービィー・スーさんがシノバック製ワクチンを4回接種していたとの情報も出回っていますが、彼女の死因との関係は明らかになっていません。
補償金への険しい道
ある記者が山東省政府の「予防接種の異常な副反応に対する補償方法」の第25条について詳しく確認したところ、ネットユーザーの懸念には一理あることが判明しました。
第25条によると、補償を受けたい人は、接種を受けた場所の現地の地方政府の中にある「予防接種副反応補償管理事務所」に対し、様々な書類を提出する必要があります。
その中には、身分証明書類、ワクチン接種に関する各種証明書および領収書、ワクチン接種による異常反応の医学的鑑定書、接種による身体的損傷の鑑定書などが含まれています。
一見すると不可能ではないように思えますが、中国本土では行政機関による不作為や違法行為、収賄などが蔓延り、医療機関の不正も絶えません。人権侵害さえ救済されない中国本土において、一般の民衆が行政機関から書類を全て取り寄せ、補償金をもらうことは非常に骨が折れる仕事なのです。
そのため、中国のネットユーザーは、今回発表された補償金制度は、政府の役人や官僚たちが法外な収入を懐に入れるための隠れ蓑にすぎないと考えています。
(翻訳・唐木 衛)