人権団体「中国労工通訊」が発表した2024年版「中国ストライキマップ」のデータ分析レポートによりますと、過去1年間で中国における労働者の抗議活動が増加し、特に製造業におけるストライキの件数が顕著に増えていることが明らかになりました。このデータは、中国における労働者の権利状況に対する懸念を一層高めています。

 旧正月の祝賀ムードが漂う中国のSNSでは、大きな社会問題や集団的な抗議活動に関する議論はほとんど見られず、労働問題についての話題もあまり取り上げられていません。しかし、この静けさが現実の問題を解決したわけではありません。むしろ、労働者の権利をめぐる問題は今もなお中国社会において深刻な課題であり続けています。近年、中国政府は産業労働者の地位向上を強調し、昨年9月には習近平国家主席が「中国第一重工業」の労働者代表に対し、製造業の発展に向けて奮闘するよう激励の書簡を送りました。その直後には、中共中央と国務院が「産業労働者隊伍建設改革深化に関する意見」を発表し、労働者の権利保護をさらに強化する方針を示しました。しかし、今回発表された「中国ストライキマップ」レポートの内容は、政策の表面的なスローガンとは裏腹に、労働者の現状がいまだに厳しいものであることを浮き彫りにしています。

 レポートによりますと、2024年に「中国労工通訊」が記録した中国全土のストライキ件数は1509件で、2023年の1794件と比較すると約20%減少しています。しかし、2019年から2022年のデータと比べると依然として高い水準にあります。この減少傾向は労働争議の沈静化を意味するのでしょうか。レポートの執筆を担当した「中国労工通訊」コラムの司会者、韓東方氏は、このデータのみに基づいて労働抗争が減少していると結論づけるのは早計であると指摘しています。今回の統計は主にソーシャルメディア上で収集された情報を基にしており、労働者がストライキの映像や支援を求める投稿をオンラインで発信した場合にのみ記録される仕組みとなっています。しかし、現実にはすべての労働者が抗議行動をネット上に公開するわけではなく、公にされていない抗争も数多く存在します。また、「中国労工通訊」の人員は限られており、全国のストライキを網羅的に調査するのは困難であり、さらに中国政府は公式データを公開していないため、正確な実態を把握するのは極めて難しいのが現状です。

 レポートによりますと、労働争議の多くは依然として沿海部の省で発生しており、最も多かったのは広東省(346件)、続いて山東省(106件)、浙江省(101件)となっています。一方で、内陸部の省でも抗議活動が増加傾向にあり、河南省(80件)、河北省(69件)、陝西省(59件)などの地域でも労働者による抗争が多発しています。韓東方氏は、この地域的な分布の背景として、中国の経済改革が沿海部から始まったことを指摘しています。そのため、これらの地域には工場が多く、労働問題が集中しやすいです。しかし近年、多くの企業が製造拠点を沿海部から内陸部へ移転させており、それに伴って内陸部での労働争議の件数も増加しています。

 工場の移転は労働者の権利をめぐる問題を引き起こしやすいです。移転先では新規雇用が生まれる一方で、元の工場では労働者が解雇されたり、適切な補償を受けられなかったりするケースが相次いでいます。韓東方氏は「工場が移転した後、元の場所に残った労働者は仕事を続けたくても、工場側が意図的に低賃金や劣悪な労働条件を設定し、労働者が自主的に退職するように仕向けるケースが多いです」と説明しています。例えば、移転後の工場では発注を減らし、労働者に最低賃金のみを支給することで、経済的に持ちこたえられなくなった労働者が退職を余儀なくされます。企業側は「解雇したわけではない」という名目で退職を強要し、法的な補償責任を回避するという手法を取っています。このような慣行は、労働者の権利を著しく侵害するものであり、労働者の抗議行動を引き起こす大きな要因となっています。

 中国の労働問題に詳しい華海峰氏は、沿海地域の製造業が内陸部へ移転する動きは2016年前後から顕著になり、過去6~8年の間に大量の企業が生産拠点を内陸に移したことが、現在の内陸部での労働争議の増加につながっていると指摘しています。実際、澎湃新聞の報道によりますと、2018年以降、中国の中西部15省の輸出額は累計94%増加しており、この急激な変化の主な要因として、沿海地域の人件費の上昇と、内陸地域の政府が企業誘致のために提供する優遇政策が挙げられています。

 華海峰氏は、沿海地域と内陸地域では労働者の抗議内容に違いがあることにも注目しています。沿海地域の労働者は主に賃金の高低を重視するのに対し、内陸地域の労働者は給与だけでなく、社会保障や住宅積立金などの福利厚生にも関心を寄せています。これは、内陸の労働者の多くが地元で働いており、社会保険や住宅積立金などの制度が直接生活に影響を及ぼすためであると考えられます。沿海部の労働者は出稼ぎ労働者が多く、短期間の収入を最優先する傾向がありますが、内陸部の労働者は地元に定住しているため、長期的な生活の安定を求める傾向が強いです。

 レポートでは、産業別の労働争議の分布についても分析されています。建設業での抗議活動が最も多く、全体の48.6%(733件)を占めていますが、製造業における抗議活動も増加し、452件(全体の30%)に達しています。このほか、サービス業、運輸業、物流業などでも労働争議が発生しています。華海峰氏は、経済環境が悪化すると、企業はまず人件費を削減しようとするため、労働者の権利侵害が増加し、それに伴い抗議活動が活発化するのは自然な流れであると指摘しています。

 韓東方氏もまた、企業が労働者に対して単に賃金を低く抑えるだけでなく、労働時間の延長、安全対策の軽視などの問題も深刻化していると指摘しています。しかし、中国の労働組合は本来の役割を果たしていないケースが多いです。多くの企業では、労働組合が経営者の影響下にあり、労働者の権利が侵害されても組合が適切に対応できない現状があります。「企業のオーナーが会社の経営者でありながら、同時に労働組合をも管理しているケースが多いです。そのため、労働者は孤立し、団結して自分たちの権利を守ることが難しい状況に置かれています」と韓氏は語ります。こうした労働組合の形骸化が、労働者の権利保護をより困難にしており、その結果、働者は通常の手続きを通じて問題を解決することができず、ストライキや集団抗議といった手段に頼らざるを得なくなります。

 現在、中国の労働環境は急激な変化の中にあり、労働者の権利がいかにして守られるのかが問われています。

(翻訳・吉原木子)