中国共産党(以下、中共)内部の権力闘争は一層激しさを増しています。習近平の軍内における最側近と目されていた中共中央軍事委員会政治工作部主任の苗華が、重大な規律違反の疑いで停職処分を受けたことが公表され、国内外に衝撃を与えました。一部の分析では、この処分は中共中央軍事委員会副主席の張又侠が主導したものとされ、習近平への脅威にさらされた張又侠が反撃に出たとの見方が強まっています。この高官同士の争いは、中国共産党内部の深刻な権力構造の問題を浮き彫りにしています。
2024年11月28日、中国国防省の報道官である呉謙は記者会見で、苗華が重大な規律違反の疑いで党中央の決定により停職処分を受けたことを確認しました。同日、中共海軍元中佐の姚誠氏がメディアに対し、中共中央規律検査委員会と軍事規律検査委員会が合同で調査チームを結成し、苗華の関与する問題を徹底調査していると報じました。この調査では、特に海軍や東部戦区の関係者が焦点となっています。海軍の前任政治委員である秦生祥や袁華智、そして現職の国防部長董軍などの関係者が苗華に不利な証言を行ったとされていますが、現時点で正式な拘束には至っていません。
また、董軍の動向にも注目が集まっています。11月20日から21日にかけて、彼はラオスで開催されたASEAN国防相会議に出席しましたが、21日に帰国後すぐ調査を受けた可能性が高いと指摘されています。当時、習近平は南米出張中で国内に不在でした。このタイミングから、今回の行動は反習派が先手を打ったものであるとの見方が浮上しています。公開情報によると、習近平は11月13日から23日まで、ペルーでのAPEC首脳会議やブラジルでのG20首脳会議に参加し、11月23日に北京に戻ったばかりでした。こうした時間差は、董軍への調査が習近平にとって大きな打撃となる背景を際立たせています。
苗華は、中央軍事委員会の中で5番目にランクされる重要人物であり、軍内における習近平の信頼厚い側近と見なされていました。時事評論家の唐靖遠氏によると、苗華は軍隊内の人事任命を掌握し、習近平が軍内で権力を強化する上で重要な役割を果たしていました。そのため、苗華の失脚は、習近平が軍内で築いてきた権力基盤に深刻な影響を与えるとされています。
一方、姚誠氏の分析では、苗華事件の背後には張又侠による反撃があるとされています。今回の調査は単なる汚職問題に対する取り締まりではなく、習近平の代理人を排除するための措置だと指摘されています。習近平は以前、国防部長李尚福の汚職問題を利用して張又侠を間接的に批判し、圧力を加えようとしました。しかし、張又侠は追い詰められた結果、反撃に踏み切ったと見られています。姚誠氏は、張又侠がこれまでの習近平による高官粛清の手口を見て、自己保身のためには行動を起こさざるを得ないと判断したと述べています。
この権力闘争は激化し、秘密裏に行われていたものが、今や公然たる粛清へと発展しています。苗華は軍内の人事を取り仕切る重要な役割を担っており、その失脚は軍隊運営に大きな混乱をもたらしています。姚誠氏は、軍隊内の多くの人事が苗華を通じて決定されていたため、彼の失脚が広範な波紋を呼び、さらに大規模な粛清に発展する可能性が高いと予測しています。
姚誠氏はまた、現在の中央軍事委員会が深刻に分裂しており、派閥間の対立が自己防衛を目的としていると指摘しました。今後、軍隊内の人事が大きく動く可能性があるとし、習近平がその核心的な権力を失うリスクも高まっていると述べています。一部では、習近平が総書記や軍委主席の職を辞し、名目上の国家主席にとどまるという憶測もありますが、姚誠氏はこれを否定しています。習近平が権力を失えば、その後の粛清を免れないと考えられます。
さらに、習近平が権力を守るため、四中全会を阻止する可能性や、内部問題から目をそらすため外部紛争を引き起こす可能性も指摘されています。11月21日には公安部長の王小洪が全国公安会議で「今冬から来春にかけての社会の安定」を強調しました。評論家の陳破空氏は、これは四中全会や高層人事の再編を示唆していると述べました。習近平や蔡奇の去就が議論され、来年の両会に向けて党政両面での大規模な人事異動が進む可能性があります。
苗華の失脚は中共高層部に新たな波紋を広げました。時事評論家の王赫氏は、この事件は習近平にとって軍内の重要な拠点を失ったことを意味すると指摘しました。また、「党中央による決定」という声明は非常に異例であり、党中央と中央軍事委員会の間で権力闘争が表面化したことを示しています。
現在、張又侠が完全に軍権を掌握しているわけではありませんが、苗華の失脚によって習近平の軍内基盤が大きく揺らいでいるのは確かです。張又侠派と習近平派の対立は激化しており、苗華事件はその始まりに過ぎない可能性があります。唐靖遠氏は、苗華の失脚により、彼が任命した中高級幹部が粛清の対象になる可能性が高いと述べています。これにより、習近平が軍を完全に掌握することは難しくなったとしています。
台湾問題に関しても、軍内の権力闘争が短期的に中国の対台軍事行動を抑制する可能性があると指摘されています。唐靖遠氏は、ロケット軍や海軍の両軍種がこの目標に重要であるとしながらも、習近平がロケット軍高層を一掃し、今回の事件で海軍も弱体化した結果、2027年までの台湾侵攻計画が事実上破綻する可能性が高いと述べています。
これらの一連の出来事は、中国共産党内部における複雑かつ激しい権力闘争を浮き彫りにしています。苗華の失脚は単なる個別の事件ではなく、党内の軍権を巡る争いの縮図です。この権力闘争は軍隊や党政システムの不安定性を助長し、中共の将来をさらに不透明なものにしています。この危機がどのように収束するかは未知数ですが、共産党内部の亀裂が修復困難な段階に達しているのは明らかです。
(翻訳・吉原木子)