豚の角煮(イメージ:ネット写真)

一、「豚の角煮」のルーツ

 現在日本の食卓に馴染みのある「豚の角煮」は、実は中華料理の「東坡肉」(トンポーロウ)がルーツだと言われています。

 「東坡肉」は皮つきの豚バラを使い、紹興酒、醤油、砂糖、香辛料を加え、長時間煮込み、水をほとんど使わないため味が濃厚で香りも高く、飴色を帯びていて、食欲をそそる美味しい豚肉料理です。

 「東坡肉」は明治時代に海外と繋がりのあった長崎に伝わり、和風にアレンジされ、長崎の有名な卓袱料理※の一品となり、その後時代と共に変化し、今日の「豚の角煮」となりました。

二、誤解から生まれた「東坡肉」のレシピ

 「東坡肉」の歴史は古く、およそ1000年も前の北宋の時代に遡ります。当時、杭州にある西湖はしばしば洪水が起こっていたことで、汚泥が堆積し、水草が伸び、荒れたまま放置されていて、民衆は大変困っていました。

 そんな時、著名な文人である蘇東坡(そとうば 1036年〜1101年)が52歳の時、知事として杭州に赴任して来ました。蘇東坡は西湖とその周辺の運河の大規模な改修工事に着手し、生活用水や灌漑用水の供給の確保、水路の整備などの環境改善事業に力を入れました

 感謝した民衆は蘇東坡に紹興酒と豚肉を献上しました。蘇東坡は自宅の調理人に豚肉を角切りにしてもらい、故郷の四川の調理法で、豚肉をとろ火でじっくり煮込ませ、それを改修工事に参加する民衆に配ることにしました。

 自宅料理人は調理で忙しくしていたため、「もらった紹興酒も一緒に配るのよ」と蘇東坡が言ったのを、「紹興酒も一緒に煮るのよ」と間違って聴き、水を使う代わりに、紹興酒を使って豚肉を煮込んでしまいました。ところが、思いがけないことに、出来上がった豚肉は飴色を帯び、味がより濃厚となり、その料理を食べた人は皆「美味しい」と大絶賛しました。やがて、その料理は「東坡肉」と名付けられ、その後杭州の料理店でも作られるようになったのです。

 誤解から生まれた「東坡肉」のレシピは、代々伝わることになり、1000年近くの間人々に継承され、本日に至っています。

三、「東坡肉」そっくりの天然石

 「東坡肉」と言えば、台北市の国立故宮博物院の所蔵する肉形石(にくがたいし)のことを言わなければなりません。

 肉形石は清朝時代に作られたとされる、長さ5.3㎝、幅6.6㎝、高さ5.7㎝の「東坡肉」をモチーフとした彫刻です。

 肉形石は天然石で、自然に出来た層状に積み重なった縞模様は豚バラの三枚肉を連想させる不思議なものでした。職人はその天然模様を生かし、赤褐色を層別に染め、醤油が染み込んでテリができている「東坡肉」を表現しました。また皮となる面には、豚肉の毛穴や粗い肌触りを表現するため、びっしりと小さな穴が開けられています。

台北市の国立故宮博物院の所蔵する肉形石(イメージ:ネット写真)

 「東坡肉」にそっくりで、色や香り、味までも伝わってくる肉形石は本物と見間違えるほど見事です。

 偶然に誕生した「東坡肉」のレシピにしろ、肉形石の鬼斧神工にしろ、何か見えない手の存在を、感じずにはいられません。

※1中国料理や西欧料理が日本化した宴会料理の一種。 長崎市を発祥の地とし、大皿に盛られたコース料理を、円卓を囲んで味わう形式をもつ。

(文・一心)