三年前、王中偉(おうちゅうい)さんは中国共産党(以下、中共)政権に反抗することなど考えたこともありませんでした。彼は中国温州市で衣料品輸出会社を経営し、数十人の従業員を抱え、忙しく働いていました。

 彼の兄が米国のカリフォルニア州から何度も電話してきて、湖北省武漢市で新しい感染症(新型コロナウイルス)が発生していると警告したにもかかわらず、王さんはそれを断固として否定しました。彼は兄に、政府を信じているし、中共の指導者がこのようなことを隠蔽することは絶対にないと反論しました。

 しかし、王さんはすぐに現実と向き合うことになりました。当局の厳しい政策によって、彼のいた都市は「監獄」のようになり、王さんは中共が権力のためには何でもすることを理解し始めました。

 王さんは大紀元とのインタビューで「もし、この政権が国民の命に関わる問題でも嘘をつくなら、信用する価値がない」と語りました。
新型コロナウイルスが王さんのような人々の中共に対する見方を変えたとすれば、過去一年間に起きたことは、中共政権への嫌悪感をさらに増大させました。

 3年間の厳しい「ゼロ・コロナ」政策は、数十万の民間企業を倒産に追い込み、中国の労働力の約80%を雇用する民間企業に深刻な打撃を与えました。これには王さんの会社も含まれています。その間に中国の若者や失業した人々は、仕事を必死に探しています。

 2023年から経済が復興するだろうという考えはすでに幻想になりました。中共当局は中小企業への資金支援、観光業の活性化、国内消費の促進を繰り返し推進していますが、人々が切望する経済復興は依然として遠い夢です。

 財政難に陥った地元政府は、職員の給料を削減し、ボーナスの支給を遅らせました。甘粛省の公立病院は、従業員の給与を15ヶ月も支払わずに遅延させました。

 需要の急激な低下は、「中国工業の中心」と称される深センの医療機器供給業者に、従業員に最大10ヶ月の無給休暇を求めさせました。隣接する広東省では、ガラスからアルミニウムまでの様々な業界の製造業者も同様の措置を取りました。中国の有名なスナックブランド良品鋪子(Bestore)は、17年ぶりの売上減少に直面し、約300種類の商品の価格を45%下げました。

 中国社会のあらゆる面に悲観的な気持ちが広がっています。債務不履行が大規模に起こっている不動産業界では、破産したデベロッパーによって残された未完成の建物に失望する購入者があちこちにいます。一部の都市では、不動産価格が急落し、所有者は新しく装飾された家を「無料で贈与」することさえあります。これは毎月のローン返済から逃れるためです。

 借金は顕著な問題になっています。住宅ローンなどのローンを返済しない、あるいは返済できないことにより、約860万人の中国人がブラックリストに載っており、この数字は2020年初頭以来50%も急増しました。

 米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは昨年12月、中共政府の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げ、これにより中国経済の衰退に対する世界的な懸念がさらに高まりました。これは、中共当局が述べている経済が活力に満ち、好調であるという嘘を打ち砕きました。

 経済状況についての議論を禁止するために、中共当局は12月中旬に経済に関する言論を国家安全問題に昇格させました。これはSNSや他の場所で「経済不況」と発言をする人々が刑事責任を問われる可能性があることを示唆しました。

 元弁護士の頼建平(らいけんへい)氏は大紀元とのインタビューで、「これは中国経済がどれほど悪いかを示しています。当局は経済復興に対して何の手立てもなく、だからこのような最もばかげた手段を使っているのです」と語りました。

 中共当局にとって、真実を隠蔽することは日常茶飯事ですが、今回の問題は経済だけではありません。中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(Congressional-Executive Commission on China、CECC)の主任であるピエロ・トッツ(Piero Tozzi)氏は、過去には生活水準が向上すれば中国の人々は中共の権力乱用を我慢していたが、その状況はもはや存在しません。中共当局が言論を統制し続けても、習近平や共産主義制度への信頼が減少しているのです、と述べました。

 ある匿名の中国高官は大紀元に対して、多くの同僚と話した結果、皆が中国の現状に深刻な疑念を抱いていることが分かったと暴露しました。

 彼によると、高級官僚は自らの地位を利用して、子供や資産を海外に移しているのに対し、下級官僚はほぼ「躺平(とうへい、寝そべり)」しています。

 過去3年間の厳しい「ゼロ・コロナ」政策の下で、中国の富裕層の人々でさえも食糧や医療援助に苦労していました。多くの人々は中国から逃げようとしており、中には一生の貯金を見知らぬ人に預け、こっそりと現金を海外に持ち出す者もいました。

 統計データによると、中国の百万長者の海外脱出数は世界一です。2023年には、少なくとも13500人の超富裕層が中国を離れたとされています。何千人もの普通の中国人がこの国を離れ、米墨(米・メキシコ)国境に現れる中国人の数は10倍に増加しました。

 中国の人々だけではなく、外資も相次いで中国から撤退しています。米国の登録投資顧問・資産運用会社であるバンガード・グループは、中国での事業拡大計画を断念し、2023年11月には中国での最後の運営チームを解散しました。

 2023年6月~9月末までの3ヶ月間で、外国投資家は中国から120億ドルの資金を引き揚げました。

 経済の問題だけでなく、過去1年間に中国は他の分野でも多くの問題に直面しています。洪水、干ばつ、雹が相次ぎ、数えきれないほどの作物が被災し、現在世界最大の食糧輸入国である中国が自給自足を実現しようとする中共当局の野望を打ち砕きました。

 また、中国各地で抗議デモが相次いでいます。統計データによると、2023年には中国の労働者が賃金未払いに抗議して行ったストライキやデモが1900件を超え、過去3年間の紛争の総数を上回ったと言います。

 頼建平氏は、これは中国の人々の絶望を反映しており、経済が悪化するにつれて、この感情はさらに抑えがたくなるだろうと考えています。
トランプ政権の主要な中国政策戦略家である余茂春氏は大紀元に対して、「中国は以前にも経済衰退を経験していますが、現在の本当の問題は、大多数の人々が制度に対する信頼を失っていることです。そのため、経済が回復しても、人々はそれを信じる気になれず、依然として脱出しようとしています。人々がこの政権に対する信頼を失えば、それは政府崩壊の始まりです」と述べました。

(翻訳・吉原木子)